NEA「原子力エネルギー展望」ポイント紹介──2050年3倍化の実現条件

経済協力開発機構(OECD)の原子力機関(NEA)は2026年6月3日、報告書「原子力エネルギー展望:2050年およびそれ以降に向けた世界の設備容量」(Nuclear Energy Outlook: Global Installed Capacity to 2050 and Beyond)を公表しました。同報告書は、世界各国の原子力プロジェクトの動向を俯瞰し、既設炉の長期運転(LTO)、大型炉の新設、小型モジュール炉(SMR)の展開について、2050年に向けた4つのシナリオで評価したものです。2050年の原子力発電設備容量が現在の3倍を上回るのは、最も大幅な導入拡大を前提とする変革(Transformative)シナリオのみです。その実現にはLTO、大型炉の新設、SMR展開に加え、資金、サプライチェーン(供給網)、人材の条件整備が必要とされています。
近年、エネルギー安全保障や脱炭素、電力需要の増加、データセンターを含む産業需要の高まりを背景に、原子力への関心が世界的に再燃しています。今回の評価では、こうした関心の高まりが具体的なプロジェクトや導入計画にどこまで結びついているかを分析するとともに、国際目標の「2050年までの原子力発電設備容量3倍化」の実現に向けた現状と課題が示されています。以下、主なポイントを図表とともに紹介します。
4つのシナリオ
4つのシナリオは、既設炉の運転・LTO、大型炉の新設、SMR展開という3つの要素に異なる前提を置いて設定されています。
- 低位(Low)シナリオ:追加投資を最小限にとどめ、既設炉が大規模な設備改修を行わずに退役する前提。設備容量は緩やかに減少。
- 現状推移(Current Trends)シナリオ:現行の政策と投資水準が続く前提。既設炉のLTOを中心に設備容量は緩やかに増加。
- 野心的(Ambitious)シナリオ:政策支援と投資が拡大し、大型炉とSMRの導入がともに大きく進む想定。
- 変革(Transformative)シナリオ:原子力が世界のエネルギー戦略の中核となり、近年の実績を大幅に上回るペースで新設が進む前提。
4シナリオの違いは、「LTOをどこまで進めるか」「大型炉の新設案件をどの段階まで実現すると見込むか」「SMRをどのような製造・建設方式(デリバリーモデル)で量産できるか」という3つの前提に集約されます。
主なポイント
- 2050年の世界の原子力発電設備容量は、Lowシナリオで3.47億kWe、Current Trendsシナリオで6.19億kWe、Ambitiousシナリオで8.83億kWe、Transformativeシナリオで13.24億kWe。
- 2050年の3倍化目標(約12億kWe)を超えるのはTransformativeシナリオのみ。現状の延長であるCurrent Trendsシナリオでは6.19億kWeにとどまる見通し。
- OECD諸国では、Lowシナリオの場合、今後15年間に5,000万kWe超が当初の運転認可期限を迎えて退役。
- 建設中・計画中・提案中の新設案件3億1,360万kWeの約57%が非OECDに集中。建設中の7,080万kWeでも約8割を非OECDが占める構図。
- 中国設計の原子炉は建設中・計画中・提案中で8,560万kWe、ロシア設計の原子炉は5,490万kWe。ロシア設計炉はこのうち2,860万kWeが輸出案件。
- SMRは全シナリオに登場するものの、本格的な寄与は2040年代以降。
- 実現の条件は、資金・サプライチェーン・人材という制約の克服と、個別案件型から標準設計を継続的に建設するプログラム型への移行。
2050年3倍化は「現状の延長」では届かない

4シナリオによって、2050年の原子力発電設備容量には大きな差が生じます。現在の世界の設備容量は約4億kWeですが、Lowシナリオでは既設炉の退役が新設を相殺し、3.47億kWeへ減少します。現行政策の延長であるCurrent Trendsシナリオでは6.19億kWeまで増加するものの、主に非OECD諸国の計画・提案案件に支えられており、3倍化目標との間には約6億kWeの開きが残ります。Ambitiousシナリオでも8.83億kWeと、なお目標に約3億kWe届きません。
3倍化目標を上回るのはTransformativeシナリオ(13.24億kWe)だけです。このシナリオは、米国の「2050年までに原子力発電設備容量を4倍化する」目標やインドの「2047年までに1億kWeを導入する」目標といった長期の国家目標に加え、LTOの実施、大型炉新設の加速、大規模なSMR展開がすべて進むことを前提としています。実現には近年の実績をはるかに上回る導入ペースが必要となり、特にOECD諸国では、プロジェクト遂行能力、産業基盤、資金調達能力の大幅な強化が求められます。
このため、原子力への関心の高まりだけで3倍化が実現するわけではありません。見通しを左右するのは、LTO、大型炉の新設、SMRという各要素の前提です。
2050年以降については、Current Trendsシナリオで2075年に8.15億kWe、Transformativeシナリオで同26.49億kWeに達する可能性があります。一方、こうした長期的な成長には、サプライチェーンや人材、燃料供給への継続的な投資が必要です。
2040年までの鍵はOECDの既設炉LTO

2040年までの見通しを左右する当面の分岐点は、新設に先立つ既設炉のLTOです。OECD諸国の原子炉は、世界で運転中の原子炉の約80%を占め、その85%は1970~80年代に建設されました。平均運転年数は38年に達しており、その多くが2040年以前に当初の運転認可期限を迎えます。
具体的なLTO計画や設備改修、運転認可の更新を見込まないLowシナリオでは、今後15年間で5,000万kWe超が当初の運転認可期限を迎えて退役し、そのほぼすべてがOECD諸国に集中しています。一方、技術的に実現可能な範囲で運転認可を延長するCurrent Trendsシナリオでは、2040年までの退役見込みは約1,000万kWeまで縮小します。
現在、OECD諸国では、設備容量の約15%に相当する4,500万kWe分についてLTO計画がまだ示されていません。これらが当初の運転認可期限で退役する場合、新設分が退役分に相殺され、2040年までにOECD諸国の原子力発電設備容量は拡大しない可能性が高いとされています。NEAは、2026年中に行われるLTOに関する判断が、2040年の世界の原子力発電設備容量が「縮小するか、横ばいとなるか、大きく拡大するか」を左右するとみています。なお、非OECD諸国では、原子炉の運転年数が比較的短いため退役は限定的で、大半は当初の認可条件の下で運転を続ける見込みです。
新設の重心は非OECDへ、中国・ロシア設計の原子炉が先行
建設中・計画中・提案中の新設案件を見ると、原子力開発の地理的な重心が非OECD諸国へ移りつつあることがわかります。表2.3によると、2025年時点でNEAが把握するこれらの案件は計3億1,360万kWeで、このうち約57%を非OECD諸国が占めます。事業化が進んだ案件ほど、この傾向は顕著です。建設中の7,080万kWeでは約8割を非OECD諸国が占め、なかでも中国が3,320万kWeと突出しています。計画中の8,570万kWeでも、非OECD諸国が5,920万kWeと約7割を占めます。
一方、より初期段階の案件では構図が変わります。提案段階では、OECD諸国が9,420万kWeと全体の約6割を占め、非OECD諸国の6,290万kWeを上回ります。なかでも欧州では、近年の政策転換や相次ぐ案件公表を背景に、提案段階の案件が4,600万kWeにのぼります。立地地点や炉型がまだ特定されていない「構想段階」に分類される案件でも、OECD諸国が約56%を占め、米国が掲げる「2050年までに原子力発電設備容量を4倍化する」との目標を背景に、北米が牽引しています。アジアの非OECD諸国でも、インド、インドネシア、パキスタンなどが原子力導入目標を掲げており、将来的な成長が見込まれます。

炉型の供給企業(ベンダー)に目を向けると、中国とロシアの先行が際立ちます。本文のFigure 2.17によると、中国設計の原子炉は、建設中・計画中・提案中で8,560万kWeにのぼり、このうち8,450万kWeが国内案件です。これに対し、ロシア設計の原子炉は5,490万kWeのうち2,860万kWe、約52%が輸出案件で、国際調達案件の40%超をロシアの技術が占めています。一方、OECD諸国に拠点を置くベンダーの案件は合計7,460万kWeで、このうち2,980万kWeが輸出案件です。ただし、中国やロシアに比べて初期段階の案件が多く、提案段階の案件の約40%は、まだベンダーが決まっていません。

新設案件を見ると、建設・計画段階では非OECD諸国が主導する一方、OECD諸国では規模の大きい案件の多くがまだ具体化の初期段階にあるという、二層構造がみられます。今後の焦点は、これら初期段階の案件が実際の建設・運転開始へどれだけ速やかに進むか、また、アジア、アフリカ、中東などのベンダー未選定市場でどの技術が採用されるかが注目されます。
SMR普及の制約は需要より供給能力

SMRの導入規模を左右するのは、潜在需要の大きさよりも、供給能力と製造・建設方式です。産業用の熱・電力など、SMRの利用が見込まれる用途には大きな潜在需要がある一方、2050年までの実際の導入量は、製造能力やサプライチェーンなど供給側の制約を受けます。
導入ペースは、製造・建設方式に応じて大きく変わります。Lowシナリオでは建設中の実証プロジェクトにとどまります。Current Trendsシナリオでは、同一設計を複数案件で継続的に建設するプログラム型の現地建設により、年間200万~300万kWeの導入を見込みます。Ambitiousシナリオでは、高度なモジュール製造により年間500万~800万kWe、Transformativeシナリオでは、量産や、製品単位での認可、事前に審査・認定された建設サイト、十分な受注を確保できる需要集約などを前提に、長期的に年間1,200万~1,600万kWeの導入が可能になると試算しています。
その結果、2050年の世界のSMR設備容量は、Current Trendsシナリオの約3,000万kWeからTransformativeシナリオの1.5億kWe規模までの幅を持ちます。Transformativeシナリオでも、こうした潜在需要に対する実際の導入規模は10%未満にとどまります。量産、製品単位での認可、建設サイトの事前認定、需要集約、燃料供給などの条件が2040年代より前に十分整う可能性は低いとみられます。このため、技術開発に加え、規制の調和、工場生産、需要集約を並行して進める必要があり、SMRがより大きな役割を担うのは今世紀後半になる可能性があります。
3倍化を阻む資金・サプライチェーン・人材の壁
各シナリオを実現するうえで鍵となるのが、資金調達、サプライチェーン、人材の3点です。
資金調達は、最も重要な条件の一つです。OECD諸国の新設向け年間資金需要は、Ambitiousシナリオで平均約680億ドル、Transformativeシナリオで約1,430億ドルです。Transformativeシナリオでは、2030年代に年間2,000億ドル近くに達する可能性があります。これは過去10年の実績を大幅に上回る規模です。公的財政に制約があるなか、民間資本の動員が不可欠であり、そのためには、資金調達が可能な事業構造や明確なリスク分担、安定した収益モデル、政府支援による建設・市場・政治リスクの低減が求められます。
サプライチェーンも、とりわけOECD諸国にとって重大な制約です。OECD諸国では、過去25年間に運転開始した新規炉が少なく、一部の産業基盤が弱体化しています。AmbitiousシナリオまたはTransformativeシナリオを実現するには、OECD諸国で年間最大2,500万kWeの建設を開始する必要があります。これは、1975年の実績ピークである約2,600万kWeに迫る規模です。
もう一つの注目点は、同時期に建設中となる原子炉の設備容量の合計です。Current Trendsシナリオでは、2030年代に4,000万kWeを超えます。Transformativeシナリオでは、2030年代半ば以降、同時建設規模は最大3億kWeに達し、過去のOECD諸国のピークの約2倍となります。
図5:OECD諸国で同時期に建設中となる原子力発電設備容量――過去実績と4シナリオの比較

人材については、NEAが2024年に実施したサプライチェーン調査で、政府、事業者、サプライチェーン企業のいずれもが、専門技能と人員数を最も切迫したボトルネックと認識していることが明らかになっています。これに加え、許認可、資金、大型部品(原子炉圧力容器などの大型鍛造品)の製造、輸送・物流も制約要因として挙げられています。
これらの制約を克服するには、標準設計を複数基で継続的に建設するプログラム型のアプローチへ移行し、長期的な案件の予見可能性を確保したうえで、関係国間の協力と官民連携を進めることが不可欠です。原子力導入拡大への機運が高まる一方、世界的な目標の達成は、政策上の公約を実行可能なプロジェクトへ転換できるかにかかっています。
お問い合わせ先:情報・コミュニケーション部 TEL:03-6256-9312(直通)