NEA SMR導入の進捗を詳細分析(第3版)

経済協力開発機構(OECD)の原子力機関(NEA)はこのほど、小型モジュール炉(SMR)の世界的な開発・導入状況を体系的に評価した「NEA SMRダッシュボード」の最新版(第3版)を発表しました。許認可、立地、資金調達、サプライチェーン、関係者とのエンゲージメント、燃料供給の6分野にわたる準備状況を詳細に分析し、世界各地で進むSMRプロジェクトの実証・商業化に向けた取り組みを紹介しています。
今回のダッシュボードでは、NEAが特定したSMR計127炉型のうち、公開情報が十分にあり評価可能とされた74炉型について分析を実施。そのうち7炉型はすでに運転中または建設段階にあり、また51炉型が事前許認可または許認可プロセスに関与しています。評価にはNEAが独自に構築したSMRデータベースが活用されており、2025年2月14日時点の最新情報が反映されました。なお、第3版では日本に関して、日本原子力研究開発機構(JAEA)、Blossom Energy社、東芝エネルギーシステムズ社がそれぞれ開発するSMR6炉型が紹介されています。
SMRへの関心は、気候変動対策とエネルギー・セキュリティの両立をめざすなかで、世界的に高まっています。地域別に見ると、北米に本拠を置くデベロッパーが最も多く、欧州、アジア(OECD加盟国)、中国、ロシア、アフリカ、南米、中東と続いています。評価対象となったSMRには、概念段階にあるものから初号機(FOAK)の実証に向けた準備が進むものまで、技術的成熟度にばらつきが見られますが、全体として拡大傾向にあります。
ファイナンス面でも動きが加速しています。NEAによると、2024年版のダッシュボードと比較して、今回資金調達の発表が確認されたSMRは81%増加。NEAは、SMRに対する世界全体での資金流入を約154億ドルと試算しており、そのうち約54億ドルが民間からの出資と見ています。政府の補助金やマッチングファンドに加え、米国を中心に民間投資が存在感を高めているといいます。具体的には、グーグル、アマゾン、メタ、ダウ・ケミカルなどの米大手グローバル企業が、自社の環境目標に沿ったエネルギー需要を満たすために、積極的に投資しています。
また、SMRプロジェクトの立地候補地の大半が政府機関または公益事業体の所有サイトである一方で、近年では民間所有サイトも増加傾向にあります。需要地近くでの建設や、廃止された(あるいは廃止予定の)石炭火力発電所サイトでの導入検討も進んでいます。事業モデルも従来の電力会社中心の枠組みから、建設・所有・運転(BOO)モデル、電力購入契約(PPA)など柔軟な形態へと多様化しています。
一方、NEAは技術面において、燃料供給の整備が依然として課題と指摘しています。SMR設計の多くは、現在商業レベルで利用できないHALEU(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)を必要としており、燃料形態の多様化も進んでいます。酸化ウランセラミック燃料が最も一般的ですが、TRISO燃料(HALEU燃料を黒鉛やセラミックスで3重に被覆した粒子型燃料)や金属燃料、熔融塩燃料など、従来炉とは異なる技術も広く採用されつつあります。これら新型燃料の商業規模の生産施設はないことから、NEAは新たなインフラ整備が不可欠としています。
NEAは2025年中に、ダッシュボードのオンライン版「SMRデジタルダッシュボード」を立ち上げ、SMRに関する情報をリアルタイムで把握できるプラットフォームを提供する予定です。このインタラクティブなツールは、関係者がSMRの世界的な進展状況を即座に把握できるよう設計されており、今後の政策立案や事業戦略にとって重要な判断材料を提供していく考えです。

短期市場におけるSMRの需要例
産業用化石燃料コジェネレーションの代替(水素製造を含む)
- カナダのベルドゥーン港湾局(Belledune Port Authority)は、同港が発表したグリーンエネルギーハブで、産業ユーザー向けに最低100万kWの熱と電力を生産するため、ARC-100を最終候補に選定した。
- オーレン・シントス・グリーン・エナジー(Orlen Synthos Green Energy)社は、ポーランドにおける水素製造と化学産業の脱炭素化のためにBWRX-300設計の導入を検討している。
- 日本原子力研究開発機構(JAEA)は、HTTRで発生する熱を利用した水素製造施設について、原子力規制委員会(NRA)と協議を進めている。
- ロシアの報道機関コメルサント(Kommersant)は、天然ガス会社ガスプロムがサハリン地域のキリンスコエ(Kirinskoye)およびユジノ・キリンスコエ(Yuzhno-Kirinskoye)のガスコンデンセート油田(gas condensate fields)にRITM-200Sユニットの利用を検討していると報じた。
- ダウ・ケミカル社は、テキサス州シードリフト(Seadrift)にある製造施設にXe-100原子炉4基を用いて電力と蒸気を供給するためにX-エナジー社を採択した。
- ウェスチングハウス(WE)社は、英国ノースティーズ(North Tees)にあるノース ティーズ グループ エステート(North Tees Group Estate site)サイトにAP300 SMR4基を建設するため、SMR開発のファシリテーターである英国のコミュニティ原子力発電(Community Nuclear Power:CNP)社と覚書を締結した。このサイトは、ティーサイド(Teesside)地域の水素ハブの中心部に設置される予定である。
- カナダでは、オンタリオ州営電力(OPG)が、カナダにおける遠隔地や産業サイトでのXe-100の展開の可能性を検討するために、X-エナジー社と枠組み協定を締結した。
- ホルテック社は、米国ニュージャージー州にある同社のオイスター・クリーク原子力発電所サイトを含む、中部大西洋地域クリーン水素ハブ(Mid-Atlantic Regional Clean Hydrogen Hub:MACH2)のメンバーであり、ホルテックはオイスター・クリーク・サイトでSMR-300の配備を検討している。
- WE社は、カナダのサスカチュワン州研究評議会(SRC)と協力して、同州にeVinciマイクロ原子炉を配備するプロジェクトを開発し、そこで熱と電気を供給し、産業、研究、エネルギー利用の応用分野の試験を支援する。
- ジミー(Jimmy)社は、製糖会社クリスタル・ユニオン(Cristal Union)社の食品加工工場に熱を供給するために、フランスのバザンクール(Bazancourt)サイトにSMRを配備する設置許可申請書(Demande d’Autorisation de Création)をフランスの規制当局に提出した。
- BWXT社は、米国ワイオミング州にあるタタ・ケミカル・ソーダアッシュ・パートナーズ(Tata Chemicals Soda Ash Partners:TCSAP)社のグリーンリバー(Green River)サイトに一連のBANR SMRを展開する実現可能性を探り、商業的条件を策定するために、TCSAP社と協力している。BANR SMRは、ガラスや石鹸の製造に使用されるトロナ鉱石の採掘とソーダ灰の生産に電気と蒸気を供給する。
- 中国政府は、2030年までに連雲港石油化学パーク(Lianyungang Petrochemical Park)にさまざまなプロセス向けに大量の蒸気を供給することをめざす、江蘇徐圩原子力供熱発電所(Jiangsu Xuwei Nuclear Energy Heating Power Plant)の第1期の一環として、HTR-600Sの配備を承認した。
鉱業用のディーゼル代替
- ロシアのナグリョウィニン岬(Cape Nagleynyn)にあるバイムスキー(Baimskaya)銅鉱山・鉱物処理施設の会長は、ロスアトムが配備・運転する4つの浮揚型原子力発電所(それぞれ2基のRITM200Sを持つ)から熱と電気を購入する契約に署名した。
- ラディアント(Radiant)社は、米国の鉱山会社アイダホ・ストラテジック・リソーシズ(Idaho Strategic Resources)社が所有するサイトにカレイドスSMR(Kaleidos SMR)を配備するための適合性と許認可プロセスを共同で検討するために、同社と覚書を締結した。
オフグリッド電源
- アラスカ電灯電力会社(Alaska Electric Light and Power Company)とノーム市(City of Nome)は、米国アラスカの遠隔地でディーゼル発電機をリプレースするために、4S SMR に関心を示す書簡をNRCに送付した。
オングリッド電力の石炭代替
- パシフィコープ(PacifiCorp)社は、米国ワイオミング州ケンメラー(Kemmerer)にある廃止するノートン石炭火力発電所(coal-fired Naughton Power Plant)をリプレースするために、Natrium原子炉プラントを採用した。
- 米国メリーランド州エネルギー局(Maryland Energy Administration)は、同州にある現在の石炭火力発電所をXe-100 SMRで代替する実現可能性を調査するために、X-エナジー社と提携した。
- ホルテック社は、ウクライナの火力発電所の老朽化または損傷したユニットをリプレースするために、同国でのSMR配備計画に向けて、エネルゴアトムと2つの協力協定を締結した。
- ルーマニアでは、ニュークリアエレクトリカ(Nuclearelectrica)とノバ・パワー&ガス(Nova Power & Gas)社の合弁会社であるロパワー(RoPower)社が、ドイチェシュティ石炭火力発電所をリプレースするために、6-NPM構成のENTRA1エネルギー プラントのエンジニアリングおよびサイト評価についてニュースケール社と契約した。
地域暖房
- 2021年、中国山東省の石島湾原子力発電所サイト内のHTR-PMが電力網に接続され、2024年3月には地域の地域暖房システムに接続された。
- ワールド・サーモエクスポート(World ThermoExport)社、テプロアトム・サービス(Teploatom Service)社、およびウクライナのスラヴィティチ(Slavutych)市との間で、ウクライナ北部のスラヴィティチに地域暖房用のTEPLATOR原子炉を設置する可能性を検討する三者協定が締結された。
- HAPPY200 SMRは、中国の白山原子力エネルギー熱供給プロジェクト(Baishan Nuclear Energy Heating Project)において、80平方キロメートルを超える地域への地域暖房供給を目的に採用された。
- ステディ・エナジー社は、フィンランドの電力会社ヘレン、クオピオン・エネルギア、およびケラヴァン・エネルギアと、それぞれヘルシンキ、クオピオ、ケラヴァ地域での地域暖房用の LDR-50 SMR の導入の可能性について、意向表明書と協定を締結した。
データセンター
- グーグル(Google)、アマゾン(Amazon)、メタ(Meta)の発表は、「SMRの短期市場マップ」上で特定のサイトと関連付けられていないが、その影響が短期的な新たな需要を創出する点で重要である。
- ケイロス・パワー(Kairos Power)社は2024年10月、Googleと協定を締結し、データセンターへの電力供給を目的とした電力購入契約(PPA)に基づいて、Googleに電力販売するための一連のSMRの建設と運転を実施する。
- AmazonはX-エナジー社の株式を取得し、2039年までに500万kWのSMRの導入を目標としている。Amazonはまた、米国のコロンビア発電所近くでの少なくとも4基のXe-100 SMRモジュールの実現可能性調査に資金提供しており、アマゾンはこのプロジェクトで発電された電力のファースト・オフテイク権を持っている。
- 2024年12月、Metaは2030年代初頭から最大400万kWの設備容量を支援するために、SMRおよび大型炉の双方に係る提案依頼書を発行した。
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