欧州におけるSMR開発計画状況-欧州原子力産業協会(Nucleareurope)のポジションペーパーから-

2022年12月2日

©Nucleareurope

欧州原子力産業協会(Nucleareurope)は10月26日、ポジションペーパー「新たな原子力ソリューション:小型モジュール炉」(New nuclear solutions: Small Modular Reactors)を発表しました。今回のポジションペーパーは、政策立案者や利害関係者にSMR技術の可能性に関する情報を提供するために作成されたもので、内容は前書き、コンテクスト、SMR技術の紹介、社会への利益、技術開発、欧州でのプロジェクトと期待、ロードマップと課題、政策提言で構成され、それぞれについて簡潔に説明しています(A4版・17頁)。                         

前書きによると、欧州原子力産業協会は、小型モジュール炉(SMR)技術の開発と展開を支援し、欧州の原子力産業が開発中のSMRプロジェクト(外国技術も含む)を奨励。SMRは、新規および既存の原子力発電所を補完するだけでなく、ヨーロッパの脱炭素化目標に貢献すると同時に、工業用熱、地域暖房、水素製造などの新しい利用の機会を提供する、と述べています。

今回のポジションペーパーのうち「欧州でのプロジェクトと期待」では、欧州各国での現在のSMR開発・展開状況が簡潔に取りまとめられています。そこで今回は、エグゼクティブ・サマリーとともに、その仮訳を以下にご紹介します。

エグゼクティブ・サマリー

世界は現在、エネルギーと気候の緊急事態に直面している。既存の原子炉群の運転期間延長は、EU2030の目標(1990年比で温室効果ガスの排出量55%削減)を達成するのに役立つ。大型原子炉と小型モジュール炉(SMR)双方の新しい原子力プロジェクトは、2050年のネットゼロ目標に貢献する。現在の地政学的状況下で、エネルギー部門全体が構造変化に直面している。欧州への石油・ガス供給に関する不確実性により、欧州連合(EU)の機関と加盟国は、中期(2030年)/長期(2050年)の両シナリオで、欧州のエネルギーミックスにおける原子力のシェアを再考する可能性がある。これらの不確実性は、EU排出量取引制度の影響と再生可能エネルギー源の変動性と相まって、エネルギー価格の大幅な上昇を引き起こした。さらに、一部の国では汚れた化石発電所の再開に頼っている。

SMR は、これらの問題のいくつかに解決策を提供することができる。SMRは設計上、連続生産の経済性を最大化するために、より高いモジュール化、標準化、工場ベースの建設が統合されている。

SMRは、気候変動への取組、エネルギー供給保証、エネルギー市場、そしてグリッドの安定性確保、産業開発と雇用創出の可能性など、加盟国とそれが展開されているコミュニティに多くの利益をもたらす可能性がある。

何百基もの軽水炉が世界中で使用されている実証済の技術であることを考えると、今後何年間かは軽水炉型SMRに焦点が当たるだろう。しかし、他にも有望な技術が近い将来利用可能になるかもしれない。これらには、とりわけ、高温ガス冷却炉、高速スペクトル液体金属炉、溶融塩炉、高速中性子炉が含まれる。

欧州の多くの国がSMRに関心を示し、なかには既にその展開を考慮してサプライヤーと契約を結んでいる国もある。フランス政府とベルギー政府は、SMR技術に投資している。

SMRは多くの面で非常に有望に見えるが、その展開には課題がないわけではなく、慎重に計画され適切に実行されるソリューションが必要である。調和のとれた「域内」SMR欧州プログラム(外国技術を含む)の作成と開発を促進することが重要である。EUは、将来のSMR市場の主役になり、欧州規模で産業的・経済的価値を創出するために、独自の能力を構築する必要がある。設計開発段階を通じて財源へのアクセスを促進することは、SMRのタイムリーな開発を確実にするための鍵となる。サプライチェーンの開発、許認可手続き、投資枠組み、核燃料サイクルの適応など、設計と広範な展開の両方に関連する技術的課題にも対処する必要がある。

欧州でのプロジェクトと期待

欧州は概して、SMR展開に多大な関心を持っていることは明白であり、過去数か月に多くの合意と覚書が署名された。多くのイニシアチブはごく最近のものであり、SMR技術への関心が急速に高まっていることを示している。これは、地政学的な状況と再生可能エネルギー源(RES)の使用だけでは、我々の目の前にある脱炭素化の課題を解決できないという認識によるものである。

下記は、SMRに関心のある国のリストである(必ずしも網羅的ではない)。

ベルギー

-ベルギーのSCK-CEN原子力研究センターは、SMRの研究を行うために連邦政府から1億ユーロの予算を獲得した(2022年5月)。

ブルガリア

-米国を拠点とするフルアーは、ブルガリアでのSMR建設の可能性に関する覚書をブルガリア・エナジー・ホールディングと締結した (2021年11月)。

チェコ共和国

-電力会社ČEZ、南ボヘミア政府、国立原子力研究機関(UJV Rez)が署名した覚書によると、SMRはテメリン原子力発電所で開発される予定である(南ボヘミア原子力パークの名称で)。ČEZはすでに、ニュースケール、GE-日立、ロールス・ロイスSMR、EDF、韓国水力原子力(KHNP)、そしてホルテックとSMR分野での協力覚書に署名している。

     

シーボーグの浮揚型原子力発電所の完成予想図
©シーボーグ

デンマーク

-サムスン重工業(韓国の多国籍造船会社)とシーボーグ(デンマークを拠点とする原子炉技術会社)は、シーボーグの小型溶融塩炉を使用して浮揚型原子力発電所を開発するパートナーシップ契約に署名した(CMSR、2022年4月)。

エストニア

「BWRX-300」発電所の完成予想図 ©GEH

-エストニアのエネルギー会社フェルミ・エネルギアは、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)、ニュースケール、ロールス・ロイスSMRの3社のSMR開発企業からの入札を受け入れると発表した。同社は、建設コストの見積もりに必要な包括的な技術文書を含む入札は2022年12月までに予定し、技術の選択は2023年2月に行われる(2022年9月)。

-フェルミ・エネルギアは、2019年からエストニアでSMR展開プロジェクトを進めている。政府は、エストニアの原子力エネルギー計画への取組を発展させることを目的として、原子力エネルギー作業部会を正式に設置し、2023年末までに報告書を提出する予定。フェルミ・エネルギアには、1,300人近くのエストニアの株主とバッテンフォールAB(スウェーデン)やトラクテベル・エンジニアリング(ベルギー)などの他の少数株主がいる(2022年4月現在)。

-GEHは、エストニアにおける小型モジュール炉BWRX-300の展開可能性を支援するため、フェルミ・エネルギアと提携契約を締結した。

フランス

「NUWARD™」の完成予想図
©IAEA「ARIS」報告書(2022年)

-EDFは、CEA、ネイバルグループ、テクニカトム、トラクテベル、フラマトムの強力な貢献を得て、PWR型小型炉NUWARD™の開発に取り組んでいる。最初のユニットは、2030年代初頭までに運転開始の予定である。エマニュエル・マクロン政権は、フランスでのNUWARD™炉の開発向けの5億ユーロを含む、2030年までに10億ユーロの小型/先進原子力技術への投資を発表した。

ポーランド

-ニュースケールは、ポーランドの石炭火力発電所サイトでのニュースケール設計SMRの展開を検討するための覚書に署名した(2021年9月)。

-シントス・グリーン・エナジーは、ポーランドの国営燃料・エネルギー会社PKN Orlenおよび化学大手のCiech SAと、ポーランドにおける産業用SMRの開発・商業化に関する協力を促進する契約を締結した(2021年12月)。

-シントス・グリーン・エナジーは、高温ガス冷却マイクロモジュール炉(MMR)を開発しているウルトラ・セーフ・ニュークリア・コーポレーション(USNC)と協力協定を締結した。USNCとシントスは、水素技術・システムのバリューチェーンの範囲内でのプロジェクトについて、IPCEI(欧州共通利益に適合する重要プロジェクト)メカニズムからの資金調達をポーランド開発省に共同で申請した(2020年11月)。

「VOYGR」発電所の完成予想図 ©NuScale

ルーマニア

-ニュースケールとルーマニアの国営原子力発電会社ニュークリアエレクトリカは、ルーマニアでのニュースケールのSMRの展開を進めるためのチーム契約に署名した。米国のバイデン大統領も、フロントエンドエンジニアリング・設計(FEED)研究に1,400万ドルを約束した(2021年11月)。

スウェーデン

「SEALER」の構造図 ©LeadCold Reactors

-スウェーデン・エネルギー庁は、OKGのオスカーシャム原子力発電所での実証用鉛冷却SMR「SEALER」の建設を支援するために、スウェーデン・モジュール原子炉会社(電力会社ユニパー・スウェーデンとストックホルムを拠点とする原子炉開発企業レドコールドの合弁会社)に9,900万スウェーデン・クローナ(1,060万米ドル、940万ユーロ)の資金を提供した(2022年2月)。

-クリーンテックの新興企業であるKärnfull Nextは、GEHとBWRX-300 SMRの展開に取り組む契約を締結した(2022年3月)。

-バッテンフォールは、化石燃料を使用しない様々なエネルギー源が電力需要の増加にどのように対応できるかを見つけるために積極的に取り組んでいる。この作業の一環として、バッテンフォールは現在、リングハルス原子力発電所に隣接して少なくとも2基のSMRを建設するための条件を検討する実現可能性調査を開始している(2022年6月)。

ウクライナ

-ニュースケールとウクライナの国営原子力発電会社エネルゴアトムは、ウクライナでのニュースケールSMRの展開を調査するための覚書に署名した(2021年9月)。

英国

-ロールス・ロイスSMRは、ケントのダンジネス、ウェールズ北部アングルシーのウィルファ、西カンブリアのムーアサイド、ウェールズ北西部グヴィネズのトロースフィニッドなど、SMR群を展開するための多くのサイトを確保することを望んでいる。

ロールス・ロイスSMR社製SMR発電所の完成予想図 ©Rolls-Royce SMR

以上

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