経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)報告書「気候変動目標:原子力エネルギーの役割」――2050年までに世界の原子力発電設備容量を現在の3倍にすることは達成可能と結論

2022年5月10日

経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)は5月3日、「気候変動目標:原子力エネルギーの役割」(報告書簡易版)を発表しました。そのなかで、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2018年の特別報告書で示した1.5℃シナリオ(地球の平均気温上昇を1.5℃未満に制限する)を達成するためには、平均して原子力エネルギーが2020年の3.94億kWから2050年までに11.6億kWに達する必要があるとした分析結果について、「達成は十分可能」と結論しました。

NEAは、現在の排出量は1.5℃シナリオ目標をはるかに上回っており、各国が目標を達成するためには、大きな方向転換が必要と強調。世界の排出量は2030年までに16%増加すると予想されているとし、行動の窓は急速に狭まっており、炭素排出量が一定であったとしても、炭素予算全体は8年以内に消費されるだろう、と警鐘を鳴らしています。そのうえで、炭素排出量は、今後数年以内にピークに達し、2100年までに (またはそれより早く) ゼロに低下させる必要があると述べ、そのためには、世界中の政策変更とイノベーション、インフラおよび非排出エネルギー源の展開への巨額の投資が必要になると指摘しています。具体的には、電力網の脱炭素化や車両の電動化、非排出燃料への移行のほか、さまざまな産業部門(オフグリッドの鉱業、建物、化学、鉄鋼、セメントなど)も脱炭素へ移行しなければならないとしています。

NEAによると、現在、世界中で運転中の原子炉は444基、発電設備容量は合計3.94億kWで、世界の電力の約10%を供給しています。原子力エネルギーはOECD加盟国では最大の無排出電源であり、世界では水力に次いで2番目に大きな電源です。約50基(合計出力約5,500万kW)が建設中であり、さらに100基以上の建設が計画されています。

NEAは、原子力エネルギーは現在重要な役割を果たしており、脱炭素化目標の達成のためにもっと多くのことができると指摘しています。具体的には、既存の原子炉群の運転期間の長期化や大規模な原子力の新規建設(第3世代炉)、小型モジュール炉(SMR)、第4世代炉、さらに原子力発電による熱や水素などの非発電用途の組み合わせが必要であることにも触れています。

NEAはまた、図1で示すように既存の原子炉群の継続運転と大型炉およびSMRの新規建設により、2050年までに11.6億kWに拡大することは達成可能であるとし、2020~2050年の間に累計870億トンの排出量を回避できると試算しています。さらに、2050年までに原子力エネルギーは年間50億トンの排出量を回避する可能性があり、これは現在の米国全体の年間排出量よりも多いとしています。

一方でNEAは、下記のような、原子力エネルギーが直面する多くの課題も指摘しています。

  • 原子力部門は、先進的なSMRだけでなく水素製造を伴う原子力ハイブリッドエネルギーシステムを含む短・中期的なイノベーションを実証し展開するために迅速に行動しなければならない。
  • 原子力部門とエネルギー政策立案者は、システムコスト、プロジェクトのタイムライン、国民の信頼、クリーンエネルギーの資金調達の分野でより広範に取り組むべき重要な成功条件がある。
  • 電力供給の全コストを理解し、市場が望ましい結果(すなわち、低炭素ベースロード、給電可能性、信頼性)を評価し重視するようにするには、システムアプローチが必要である。
  • 新しい原子力発電の迅速な建設は可能であるが、明確なビジョンと計画が必須である。過去と最近の経験は、適切な政策枠組みと堅牢なプログラム的アプローチの下で、原子力は迅速な納期で低炭素技術になり得ることを示している。これは歴史的に、フランスのような国やカナダのオンタリオ州のような管轄区域で、原子力エネルギーと水力発電で20年足らずで電力ミックスを脱炭素化した。今日、アラブ首長国連邦のバラカ・プロジェクトは、既存の原子炉設計でもこのようなペースで建設できることを示している。原子力建設学習のより高度な段階の国々である中国や韓国では、安全性を高めた既存の大型原子炉設計の建設リードタイムは平均して約5~6年、またはさらに短い。
  • 国民の信頼の構築と維持は、採鉱から研究開発、運転、廃棄物管理まで、すべての原子力エネルギープロジェクトにとって不可欠である。信頼の構築は、国民の信頼を構築するうえで中心的なものであり、オープンで透明性のある関与と科学コミュニケーションへの継続的な投資が必要である。
  • 各国政府は、原子力プロジェクトに限らずすべての資本集約型インフラプロジェクトにおいて果たすべき役割を有する。この役割には、直接的な資金調達だけでなく、リスクの効率的な配分を可能にする政策枠組みも含まれる。原子力プロジェクトは、他の非排出エネルギープロジェクトと同等の立場でそのメリットを競うことができる。

※なお本報告書の詳細版は、近日公開予定。

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