ウクライナの原子力発電所の状況 #35


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第115号(現地時間2022年10月9日)[仮訳]

国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は、ウクライナのエンジニアが本日、同発電所への外部電源を復旧させたことを明らかにした。これは、ザポリージャ原子力発電所(ZNPP)が最後まで稼働していた送電線との接続を砲撃によって喪失した翌日のこと。

復旧が無事終了し、夕方には750kVの送電線が欧州最大の原子力発電所に再接続され、土曜日(10/8)未明に接続が切断されて以来、バックアップ電力を供給していた非常用ディーゼル発電機は停止された。

6基の原子炉は現在、冷温停止状態にあるが、冷却やその他安全上重要な機能に電力が必要である。

発電所に駐在しているIAEAの原子力安全・セキュリティ・保障措置の専門家から、外部電源復旧の知らせを受けたグロッシー事務局長は、「待ち望まれていた展開だが、ZNPPの状況は依然脆弱である」と語った。

また事務局長は、エネルホダールやザポリージャなど、ZNPPの安全性とセキュリティに影響を与える可能性のある地域での軍事行動を非難。「ザポリージャ原子力発電所のある地域や発電所で働く人々とその家族が住む地域では、現在ほぼ毎日砲撃が行われている。砲撃は直ちに止めなければならない。すでに発電所の安全とセキュリティの状況に影響を及ぼしている」と述べた。

ここ数日、ZNPPとエネルホダールの間にある工業地帯では、頻繁に砲撃に晒されている。また、ザポリージャでも、日曜日(10/9)にミサイル攻撃を受けた。ウクライナのシニア運営スタッフが現地でIAEA専門家に語ったところによると、ZNPPに不可欠なディーゼル燃料を追加供給するトラック5台の車列が現在市内にあり、明日には前線を越えて発電所に到着する予定だという。発電所の現在のディーゼル燃料備蓄量は約10日分である。

「ザポリージャとその周辺でのこうした軍事攻撃は、発電所の外部送電線を直撃したり、重要な燃料や機器の供給を困難にするなど、原子力事故のリスクを高める」とグロッシー事務局長は警告している。

事務局長は、原子力安全/セキュリティ保護エリアをZNPP周辺に設定することを提案し、その早期合意、実施に向けてウクライナおよびロシア双方とハイレベル協議を進めている。

またウクライナ側は現地のIAEA専門家らに対し、本日午後、発電所のフェンス外で地雷が爆発したことを伝えた。このような爆発はここ数週間、続いている。

その他、ロシア国営原子力企業のロスアトムから提供されたディーゼル燃料がエネルホダールに到着した。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-115-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第114号(現地時間2022年10月8日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシーIAEA事務局長は本日、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)は、夜間の新たな砲撃により外部電源へのアクセスを全て失い、原子力安全とセキュリティの状況がさらに悪化していることを明らかにした。

グロッシー事務局長は、現地に駐在するIAEAの専門家チームによる情報を引用し、「砲撃により、ZNPPで最後に稼働していた750kVの送電線が深夜に損傷し、欧州最大の原子力発電所ZNPPは原子炉冷却やその他安全上重要な機能に必要な電力を非常用ディーゼル発電機に頼らざるを得なくなった」と述べた。

さらに事務局長は、「発電機には10日分の燃料があるが、外部電源の喪失は深く憂慮すべき事態であり、ZNPP周辺に原子力安全/セキュリティ保護エリアを早急に設定する必要性を示している」「発電所唯一の外部電源を直撃する砲撃の再開は、とてつもなく無責任な行為だ。ザポリージャ原子力発電所は守られなければならない」と続けた。

原子力安全/セキュリティ保護エリアの早期合意、実施に向けた取組の一環として、グロッシー事務局長は木曜日(10/6)にキーウでウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談し、来週初めにはロシアでもこの問題について議論し、ウクライナに戻る予定である。

グロッシー事務局長は、保護エリアは原子力事故を防ぐために「絶対的かつ緊急に必要」であるとしている。

原子力安全の確保には、送電網からの確実な外部電力による供給が不可欠である。この要件は、紛争当初に事務局長が示した「原子力安全およびセキュリティの7つの不可欠な原則」のうちの1つである。

紛争前、ZNPPは4系統の高圧送電線を通じて送電網にアクセスしていたが、現在は全て損傷している。また、ZNPPと近隣の火力発電所を結ぶバックアップ用の送電線も停止している。同発電所は以前にも一時的に電力網への直接のアクセスを失ったことがあったが、その時はまだ利用可能だったバックアップ送電線や当時まだ運転していた原子炉1基から電力を得ることができた。

今回の外部電源喪失は、6号機に電力を供給する送電線が砲撃により損傷し、一時的に非常用ディーゼル発電機から電力供給を受けたとの現地のIAEA専門家による報告の翌日に発生したもの。昨日は、火力発電所の変圧器が砲撃により損傷し、ZNPPのスタッフとその家族が住む近隣のエネルホダール市が停電となり、本日も発電所サイト外の工業地帯で砲撃が続いている。

本日未明、750kVの送電線への接続喪失後、発電所にある16台のディーゼル発電機全てが自動運転を開始、6基の原子炉に電力を供給した。状況が安定した後、発電機のうち10台が停止し、6台が原子炉に電力を供給している。現在、ディーゼル発電機用の燃料の在庫を増やすための努力が続けられている。

IAEAの専門家は、発電所の安全システムは全て電力供給を受け続けており、正常に動作していると、現場のウクライナ人運営スタッフから説明を受けている。6基の原子炉は冷温停止状態にあるが、原子力安全とセキュリティ機能に必要な電力は依然必要である。

現地のIAEA専門家によると、750kV送電線の損傷場所はZNPPのサイト外で特定されており、系統運用者が修理する予定。火力発電所の開閉所にある変圧器の損傷も修理される予定だが、時期は同地域での砲撃の状況次第である。またZNPPの開閉所と6号機の間の接続が修復したという。

ZNPPのシニア運営スタッフは水曜日(10/5)、IAEAの専門家に対して発電所で必要な電力と熱を手当てするために出力を下げて5号機を再稼働させる計画を伝えていたが、発電所が全ての外部電源を喪失後、これらの準備は中止となった。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-114-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第113号(現地時間2022年10月7日)[仮訳]

国際原子力機関(IAEA)は本日、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)の6号機に電力を供給する送電線が砲撃により損傷し、一時的に非常用ディーゼル発電機に頼らざるを得なくなった、とZNPPのウクライナ人シニア運営スタッフから報告を受けたことを明らかにした。

ZNPPサイト外の工業地帯で発生した砲撃で、150kVのバックアップ送電線との接続が切断された後、5台のディーゼル発電機が6号機への電力供給を開始した。ディーゼル発電機は6号機の炉心冷却を維持したまま、約1時間半にわたって運転を継続した。

この事象は、戦場の真っ只中にある欧州最大の原子力発電所ZNPPの原子力安全とセキュリティの不安定な状況中でも、全原子炉が冷温停止状態にあるにも関わらず、冷却等に必要な電力供給が万全でない状況を改めて浮き彫りにした。

ZNPPには、紛争以前は4系統あった高圧の外部送電線が今では1系統しかなく、9月21日の砲撃で6号機への接続が失われた。この時、6号機は一時的にディーゼル発電機から電力供給を受け、近くの火力発電所の開閉所とバックアップの150kV送電線を通じて間接的に外部電源にアクセスできるようになった。この150kV送電線は昨日破損し、6号機への電力供給は2週間余りで2度の中断を招いた。

「勇気や技術、経験のある運営スタッフたちは、紛争によって発生し続ける深刻な問題を克服するために、何度も何度も解決策を見い出している。しかし、これは持続可能な原子力発電所の運営方法ではない。発電所とそのスタッフにとって、より安定した環境を作ることが急務である」とグロッシー事務局長は述べた。

事務局長は昨日(10/6)、キーウでウォロディミル・ゼレンスキー大統領と、ZNPPの状況や同施設の周辺に原子力安全/セキュリティ保護エリアを設定するIAEA提案について協議した。来週初めにはロシアを訪れ、この計画についてさらなる協議を行い、早期合意、実施をめざしている。

IAEAの原子力安全、セキュリティ、保障措置の専門家4人は、IAEAがZNPPへの支援・調査ミッション(ISAMZ)実施のためグロッシー事務局長が同施設を訪れた9月1日から現地に駐在、活動している2人に代わり、前線を越えて本日、発電所に到着した。専門家は、発電所の状況について独立、公平な立場から監視、評価を行っており、原子力安全/セキュリティ保護エリアが合意されれば、その支援も行う予定である。

「今日の交代は、IAEAが必要とされる限り発電所に留まるという我々の決意を明確にするものだ。非常に困難で不安定な状況を安定させるためには、IAEAの存在が必要だ。5週間以上にわたって発電所に滞在した2人の専門家と現在滞在している4人の専門家に対し、心から感謝している。これは、非常に困難な状況下で彼らが実施している重要な任務であり、誇りに思う」とグロッシー事務局長は語った。

ZNPPは3月上旬からロシア軍に占拠されている。この7か月間、ウクライナの運営スタッフは、発電所やその付近で頻繁に砲撃が行われる非常に厳しい状況の下、原子力事故を防ぐために働いている。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-113-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


ザポリージャの原子力安全、セキュリティ、保障措置の現況
―IAEA事務局長による第2回サマリーレポート(2022年9月6日発表)から抜粋―



※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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