ウクライナの原子力発電所の状況 #70


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第153号(現地時間2023年4月13日)[仮訳]

ウクライナ南部で戦闘が継続している中、ザポリージャ原子力発電所 (ZNPP)では必要な外部電源を、唯一機能している送電ライン1系統に依存しており、原子力安全およびセキュリティが多大な危険に晒されている。国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長が明らかにした。

事務局長は、現場に駐在するIAEAの専門家は日常的に砲声を聞いていると言及し、欧州最大の原子力発電所であるZNPPを保護するための合意が必要であると強調した。ZNPP敷地境界フェンスの外で2度の地雷爆発(4月8日および4月12日)もあったという。

「私たちは、ZNPPの原子力安全とセキュリティを保護するために行動を起こさない限り、遅かれ早かれ運が尽き、大災害が発生する可能性がある」と事務局長は指摘した。

グロッシー事務局長は、ZNPPでの原子力安全とセキュリティを強化するための努力を続けており、先週はカリーニングラードで、ロスアトムのアレクセイ・リハチョフ事務局長を含むロシア側高官と会談を行った。3月下旬には、2度目のZNPP訪問に先立って、ザポリージャ市でウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した。事務局長は、3月29日に最前線を行き来して、昨年9月1日の前回の訪問時の状況と比較して、軍事活動が多発している状況を肌で感じている。

「この地域での戦闘についての憶測が高まっているが、原子力発電所は攻撃されるべきではなく、攻撃に利用されるべきでもないと、全員があらためて認識する必要がある」と事務局長は述べた。

過去6週間、ZNPPは原子炉の冷却やその他の重要な原子力安全およびセキュリティ機能に必要な電力を、外部からの750kV送電ライン1系統に依存してきた。ロシアに支配されたZNPPでは、発電所が面するドニプロ川の対岸で3月1日に損傷した予備の330 kV送電ラインが未修復であるが、戦闘地域のため、ウクライナの専門家が安全にアクセスできなくなっている。

直近では3月9日に750kV送電線への接続も11時間にわたって切断されたが、このような場合ZNPPの原子炉6基は電力を非常用ディーゼル発電機に頼らざるをえず、原子力安全とセキュリティ面で容認できない事態となる。

近郊のザポリージャ火力発電所(ZTPP)は、330kVの開放型開閉所を運営しており、ZNPPにバックアップ電力を供給している。ZTPPは、カホフカ貯水池からNPPに冷却水を供給するポンプ場も運営している。ロシア政府は先月、ロスアトムが現在、ロシアの支配下にある地域の送電系統に330kVの送電線3本を復旧する作業を進めていると報告した。ロスアトムは、来週行われるIAEAチームにアクセスを提供することに同意した。

発電所自体では、オペレーターは、温暖な気候のため、現在温態停止中の2基の原子炉のうち1基を冷温停止状態に近日中に移行する予定である。現在、温態停止状態にある2基の原子炉は、ZNPPに蒸気と暖房を供給するために使用されているほか、多くの発電所スタッフが居住している近郊の都市エネルホダルに暖房を提供している。5号機は温態停止状態のままで、サイト用の温水と蒸気を生産している。また、春の気候のため、冬季に追加暖房として設置された9台の移動式ボイラーの一部を停止させており、残りも近く全て停止する。

気候にも関連するこの他の事象として、原子炉冷却用の水を供給するカホフカ貯水池の水位は、融雪により過去2か月間で徐々に上昇している。これは、冬の早い段階で水位が下がった後に起こり、現在、水位は14.74mで、ZNPPに水を供給するために必要な最低水位よりも約2m高い。

ZNPPの人員配置状況は依然として混乱を極めている。すでにスタッフの3分の1以上がこの地域を去っており、残留したスタッフの中には、新しく設立されたロシアの運営組織の下で労働契約に署名した人もいれば、エネルゴアトムに雇用されている人もいる。後者のかなりの数が現在、常時待機しており、残りの主に主要な運転スタッフは、ロシアが任命した管理職の指示の下、ZNPPで働いている。人員不足を考慮し、ロシアの原子力発電所の運転員たちが、シミュレーター訓練を受けている。

グロッシー事務局長は、原子力安全とセキュリティにも影響を与える可能性があるZNPPのスタッフやその家族にとって非常に困難な状況について、深い懸念を繰り返し表明してきた。

ウクライナの他の地域では、国内の他の4つの原子力施設に常駐するIAEAチームが今週、定期的なローテーションを実施する予定である。ZNPPでのミッションは9月に開始されたが、チョルノービリ・サイトと同様に、フメルニツキー、リウネ、南ウクライナNPPでのIAEAの恒久的なプレゼンスは、今年1月までに確立された。

チョルノービリでは、2週間のシフトで現場に住むことを義務付けられている現場スタッフのほとんどが、戦闘行為の影響で、居住している近くのスラブティチ市との行き来に困難をきたしている。ウジ川に架かる橋の1つが損傷し、春の洪水により仮設の橋が水没した。こうした困難にもかかわらず、予定されていた4月8日の勤務シフトのローテーションは成功裏に実施された。

3月下旬から4月上旬にかけて、IAEAはウクライナへの2つの追加の支援機器の輸送を実施し、これまで計15件の輸送を成功させている。ウクライナの原子力規制当局である SNRIUとその技術支援組織、エネルゴアトムの緊急技術センター、キーウの放射線施設、国営企業VostokGOKは、オーストラリアと米国からの予算外拠出金を使用し、イスラエルから寄贈またはIAEAから調達された車両、身体防護具、IT機器などを受け取った。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-153-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine



※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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