ウクライナの原子力発電所の状況 #77


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長の国連安全保障理事会における声明[仮訳]

(現地時間2023530日)

本日、ウクライナにおける安全、セキュリティ及び保障措置に関するIAEAの活動について最新の情報を提供する機会を与えて下さった安全保障理事会議長に感謝します。私とIAEAの活動を支援する理事会自身の信念は素晴らしいものです。また、IAEAの努力に対する理事会の継続的な支援に感謝します。原子力発電所の事故を防ぐために必要な基本原則についても説明させていただきます。

私は安全保障理事会でこれまでに4回、昨年の3月4日、8月11日、9月6日、10月27日にウクライナ情勢について報告いたしました。

しかし、私は本日の理事会を最も重要な会議だと考えております。以下にその理由を説明いたします。

まず、IAEAがウクライナで実施してきたことについて簡単に最新情報をお伝えしたいと思います。

開戦から15か月を過ぎました。

大規模な原子力施設周辺で戦闘が行われることは、かつてなかったことです。ウクライナの5つの原子力発電所やその他の施設が直接砲撃を受け、すべての原子力発電所が幾度か外部電源喪失を経験しています。

さらに、ウクライナの原子力発電所の1つであるザポリージャ原子力発電所(ZNPP)はロシア軍およびロシアの発電所運転会社の管理下に置かれています。

IAEAは開戦以来、毎日、ウクライナの状況を注視し支援しており、この支援にはIAEAの事故・緊急センターが継続的に関与しています。

ウクライナにはこれまで12回、専門家ミッションが派遣されています。

私自身も、7回(うち2回はZNPPヘ)のミッションを率いてきました。

さらに、2022年9月1日以降、IAEAは、文字通りこの戦争の最前線にあるZNPPにIAEA支援/調査ミッションを常駐させており、現在、8度目の交替となりますが、献身的で勇気あるIAEAスタッフがこの重要な任務に従事するために前線を越えています。23名のスタッフがこのミッションに所属しています。

そして今年1月以来、残りのウクライナの原子力施設に専任のIAEA専門家を常駐させています。リウネ、南ウクライナ、フメルニツキーの各発電所とチョルノービリ・サイトです。彼らによって、これらの各サイトの安全とセキュリティの状況に関する信頼できる情報を国際社会に提供することが可能になっています。58名のスタッフがこれらのチームに所属しており、ウクライナにおけるIAEAスタッフはのべ2,350人・日以上になります。

この実現のために支援してくれた国連事務総長と安全保障および運用支援担当次長に改めて感謝を申し上げます。

さらに、私たちはウクライナへ17回もの重要な設備の納入で総額約500万ユーロの国際支援パッケージを実施しました。

また私たちは、全てのウクライナの原子力施設で働くスタッフに対して、終始、設備及び心理面の支援などの包括的な医療支援プログラムを実施しています。

原子力安全とセキュリティに関する作業に加えて、私たちは、軍事目的のための核物質の転用がないことを確認するために、ウクライナ全土における重要な保障措置検証活動を継続しています。

そして、私たちは160回以上のウェブ上での声明や更新、4つの報告書、国連総会や安全保障理事会での複数回のブリーフィングで、ウクライナの原子力施設の状況を世界に発信し続けています。

特にZNPPの原子力安全・セキュリティ状況は極めて脆弱で危険な状態が続いています。この地域では軍事活動が続いており、近い将来に戦闘が激化する可能性があります。ZNPPは大幅に削減されたスタッフで運営されており、一時的に運転停止されているものの持続可能な状態ではありません。

また、外部電源がすべて失われ、原子炉と使用済燃料の冷却のために、最後の防衛線である非常用ディーゼル発電機に頼らなければならなかったことが7回ありました。最後の7回目はまさに1週間前でした。

事故がまだ起きていないのは幸運です。3月のIAEA理事会で述べたように、私たちは運命のサイコロを振っており、いまのままでは、いつの日か我々の運は尽きてしまうでしょう。

そのため、その可能性を最小限に抑えるために、私たちは全力を尽くさなければなりません。

ご承知のとおり、私の2度のZNPPへのミッションの内、昨年9月の最初のミッションを実施して以後、私はすべての関係者にZNPPの原子力安全とセキュリティを確保するよう働きかけてきました。これには、ウクライナとロシアの最高レベルを含む、多数の会合、集中的な協議や交渉が含まれています。

思い出していただけると思いますが、私はすでに1年前に、軍事紛争時における原子力安全とセキュリティ確保に関する7つの不可欠な原則を作成しました。これらは次のとおりです。

  1. 原子炉、核燃料用プール、放射性廃棄物保管施設等の施設の物理的健全性が維持されること。
  2. すべての原子力安全・セキュリティに関わるシステムと設備が、常に完全に機能すること。
  3. 運転員は原子力安全・セキュリティ上の義務を果たし、不当な圧力から解放された意思決定ができる能力を有していること。
  4. すべての原子力サイトで、外部電源(送電網)からの電力が確実に供給されること。
  5. 原子力サイトへ、またはサイトから、途切れなく物流サプライチェーンと輸送が行われること。
  6. オンサイトおよびオフサイトでの効果的な放射線監視システムと緊急時対応計画と対策が存在すること。
  7. 規制当局などと信頼できるコミュニケーションが行われること。

これらの常識的なルールは、IAEAの膨大な文書、ガイドライン、経験に由来しています。これらは普遍的に引用され、支持されてきたものであり、心強いです。

現在進行中の紛争下における原子力または放射線事故は、ウクライナの人々、ロシアの人々、そして近隣諸国やその他の国々に悲惨な結果をもたらす可能性があります。今や必要なことをより具体的に示すべき時期に来ています。

危険な放射性物質の放出を防がなければなりません。

そのためにも、原子力安全とセキュリティ確保に関する7つの不可欠な原則に留意しつつ、ウクライナの指導部はもちろん、ロシアの指導部とも協議しながら、集中的に取り組んできました。

これらの集中的な協議の結果、私は、原子力事故を防止し、発電所の安全を確保するために、ZNPPにおける原子力安全とセキュリティを確保するのに役立つ以下の具体的な原則を特定しました。私は、これらの約束事項が破滅的な事件の危険を避けるために不可欠であると考えます。

  1. 特に原子炉、使用済燃料貯蔵施設、その他の重要インフラ、または人員を標的とした、ZNPPからの、またはZNPPに対するいかなる種類の攻撃もあってはならない。
  2. ZNPPからの攻撃に使用される可能性のある重火器(すなわち、多連装ロケット砲、火砲システムおよび弾薬、戦車)の貯蔵場所や兵員の基地としてZNPPを使用してはならない。
  3. ZNPPへの外部電源を危険に晒してはならない。そのため、外部電源が常に利用可能で安全であることを確保するためにあらゆる努力を払う必要がある。
  4. ZNPPの安全で確実な運転に不可欠なすべての構造物、システム、コンポーネントは、攻撃や破壊活動から保護されなければならない。
  5. 以上の原則を損なうような行動をとってはならない。

現地のIAEA専門家、すなわち、IAEA支援/調査ミッション(ISAMZ)が、これらの原則の遵守についてIAEA事務局長に報告し、違反があれば事務局長が公表します。

この5つの原則を守るよう、ウクライナ、ロシアの双方に謹んでお願いします。

私は、安保理のメンバーに、これら原則を明確に支持するよう要請します。ハッキリ言いますが、これらの原則は誰にとっても不利益ではなく、誰にとっても利益となります。

原発事故の回避は可能です。IAEAの5原則を守ることが出発点です。原子力事故を回避するためのIAEAの5つの原則をここに確立します。IAEAは、現地ミッションを通じてこれら5原則の監視を開始します。

ご清聴ありがとうございました。

https://www.iaea.org/newscenter/statements/iaea-director-general-statement-to-united-nations-security-council


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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