ウクライナの原子力発電所の状況 #79


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第161号(現地時間2023年6月6日)[仮訳]

国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)に冷却水を供給する貯水池の水位が終日低下しているものの、同施設にはバックアップオプションがあり、原子力安全およびセキュリティに対する短期的なリスクはない、との見方を示した。

同事務局長は本日未明、IAEA理事会で破損したノヴァ・カホフカ・ダムの状況の進展とZNPPへの影響について報告し、(貯水池水位の)低下率が午前中は1時間に約5㎝、午後以降は1時間に9㎝と変化していることを明らかにした。

ZNPPに駐在しているIAEAの専門家チームが受け取った定期的なデータによると、現地時間の午前10時から午後8時の間に、貯水池の水位はこれまでに83cm減少し、15.44mとなった。

12.7m以下になると、ZNPPは貯水池から水を汲み上げることができなくなり、サイトに水を補充することができなくなる。ダムの被害の全容はまだ分かっておらず、水位の低下率も変動しているため、事態の変化を正確に予測することはできない。しかし、このままの状態が続けば、数日中にこのレベルに達する可能性がある。

グロッシー事務局長は、そのような低いレベルでも、ともすれば損傷する可能性がある原子炉と使用済燃料プールの冷却に、ZNPPサイト内にあるスプリンクラーと冷却池、そして隣接する水路にある既存の水を当面の間、使用できる、と述べた。

さらに同事務局長は、貯水池がない場合のZNPPの主な代替水源であるサイトに隣接する大型冷却池は現在満水で、6基が現在停止中であるため、数か月間、プラントに供給できるだけの十分な貯蔵量があると述べ、この冷却池をそのまま維持することが不可欠であることを強調した。

また、必要に応じて、ZNPPの貨物港エリアにある水を蓄えた掘削地や、近隣のエネルホダル市の水道にアクセスし、移動式ポンプや消防車を使って水を汲むことができるという。

IAEAのチームによると、ZNPPでは原子炉や使用済燃料プールの冷却など、原子力安全上不可欠なものにのみ水を使用するよう、水の消費を制限する措置が実施されている。

グロッシー事務局長はまた、2011年の福島第一原子力事故後、ウクライナがノヴァ・カホフカ・ダムの決壊を想定したシナリオを含む、ストレステストを実施したことに言及。「ウクライナのザポリージャ原子力発電所では、このような事象に対する備えがあり、このことはスタッフがこの新たな困難な状況に対処するのに資するであろう。しかし、明らかにこのことは、すでに非常に困難で予測不可能な原子力安全・セキュリティの状況をさらに悪化させている」と述べた。

事務局長は来週、IAEAの交代チームを率いてZNPPを訪問し、状況を評価し、プラント幹部と現在および計画中の対策に取り組むことを発表した。

また本日、チョルノービリ・サイトのIAEA専門家チームは、パリシェフ村付近で森林火災が発生したことを報告。同村はプリピャチ川にかかる橋が損傷し、消防車が入ることができず、現在チョルノービリ側から到達できないゾーンにある。IAEAチームは、大規模な火災ではない、との報告を受けた。IAEAの国際放射線モニタリング情報システム(IRMIS)に報告された放射線量に増加はなく、この火災により、住民やチョルノービリ・サイトで働くスタッフに放射線リスクはない。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-161-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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