原子力発電の復活が鮮明に 国際エネルギー機関(IEA)「WEO2025」発表
国際エネルギー機関(IEA)は11月12日、最新の年次報告書「World Energy Outlook(WEO)2025」を公表しました。化石燃料の供給不安に加えて、重要鉱物や電力インフラの脆弱性など、エネルギー分野全体でリスクが高まるなか、IEAは各国政府に対し、エネルギー供給の多様化と国際協力の強化を求めています。

世界需要の重心が「新興国」へ移動
IEAによると、今後のエネルギー需要の中心はインド、東南アジア、中東、アフリカ、中南米へと移行する見通しを示しています。これらの地域は、過去10年以上にわたり世界の石油やガス、電力需要増をけん引した中国に代わり、「エネルギー市場の新たな中心地」になりつつあります。
今回の報告書では、2050年までの世界のエネルギーミックスを以下の3種類*のシナリオで分析しています。
- 「現行政策シナリオ」(Current Policies Scenario, CPS): すでに実施中の政策や規制のみを反映。新技術導入には慎重な見通し。
- 「2050年実質ゼロ排出量シナリオ」(NZEシナリオ):2050年ネットゼロ前提。
- 「公表政策シナリオ」(Stated Policies Scenario, STEPS):政府の公表済み戦略等を含むが、意欲的目標の完全達成は前提としない。
- 「2050年実質ゼロ排出量シナリオ」(NZEシナリオ):2050年ネットゼロ前提。
「電力の時代」が到来 背景にデータセンターやAI需要の拡大
報告書は、電力が現代経済の中核であり、すべてのシナリオで総エネルギー需要上回るペースで増加すると指摘しています。電力供給や電化への投資は、すでに世界のエネルギー投資の約半分(約1.6兆ドル)を占めているとしています。
現在、電力は世界の最終エネルギー消費の約20%にとどまる一方、世界経済の4割超を占める部門にとって主要なエネルギー源になっています。F. ビロル事務局長は「世界はすでに “電力の時代” に入った」と述べ、データセンターやAIの急速な普及が先進国の電力需要を押し上げているとの見方を示しています。2025年のデータセンター投資額は5,800億ドルに達し、石油供給への投資(5,400億ドル)を上回る見通しです。
一方、電力システムの整備は需要増に追いついておらず、送電網や蓄電、電力システムの柔軟性確保が最大の課題となっています。発電分野への投資が2015年以降で約70%増加し年間1兆ドルに達する一方、送電網への年間投資は4,000億ドルにとどまっています。

原子力発電の復活と今後の見通し
発電分野では、すべてのシナリオで太陽光を中心に再生可能エネルギーが最速で成長するものの、原子力発電も復活の兆しを見せています、2035年までに世界の原子力発電設備容量は2024年の4億2,000万kWから少なくとも3割増の5億6,300万kWに拡大する見通しです。2050年の原子力発電設備容量は、CPSで7億2,800万kW、STEPSで7億8,400万kW、NZEでは10億7,900万kWに増加すると予測されています。原子力の発電シェアは、いずれのシナリオも約10%程度となる見込みです。
さらに、気候目標について報告書は、世界の平均気温がいずれのシナリオでも1.5℃を超過すると指摘しています。気温上昇は、電力インフラの障害などエネルギー安全保障上の脆弱性をもたらす可能性があるとする一方、NZEシナリオでは、長期的に気温を1.5℃未満へ戻すことも可能としており、最悪の事態を回避する余地は残されているといいます。

原子力回帰へ――投資拡大とSMRなど新技術の台頭
IEAは今回、すべてのシナリオの共通項として「原子力発電の復活」を強調しています。従来型の大型炉に加え、小型モジュール炉(SMR)など新技術への投資が拡大し、2025年には原子力発電電力量が過去最高を記録する見通しです。現在、40か国以上が原子力を自国のエネルギー戦略に盛り込み、開発を加速しています。
報告書によると、世界で建設中の原子力発電設備容量は7,000万kW超と、過去30年間で最大級の規模となっています。特にSMRを中心としたイノベーションが、将来性を後押ししているといいます。近年では、IT企業がSMR導入に積極的で、データセンター向け電源として3,000万kW規模のSMR計画に合意、関心を示しています。
一方で、米欧の一部大型プロジェクトでは工期遅延やコスト超過、放射性廃棄物処分への懸念など課題も残っています。しかし、CO₂排出増や安全保障リスクを背景に原子力回帰の機運はむしろ強まっていると指摘しています。
地域別では、中国が世界の建設中原子力発電設備容量の約半分を占め、2030年頃には世界最大の原子力発電国となる見通しです。米国も政策支援やIT企業のSMR需要を背景に、2035年以降は原子力発電設備容量が増加へ転じ、2050年には80%以上の拡大が期待されています。欧州でも、フランス、ポーランド、チェコ、ハンガリー、スウェーデンなどが新増設や建設再開に向けた政策や投資確保を進めています。
報告書はまた、建設や燃料製造、濃縮サービスなどが特定のプレーヤーに集中しがちな原子力産業において、サプライチェーンの多様化が不可欠と強調。持続的に拡大していくためには、イノベーションに加え、コスト管理や将来の収益見通しの透明性確保が不可欠と指摘しています。また、燃料供給の多様化に向けた取組みが、米欧や中国で進みつつあるとしています。
2050年原子力3倍化に必要な条件
さらにIEAは、2023年のCOP28で誓約された「2050年原子力3倍化」が実現する場合、世界の原子力発電設備容量は2020年の4億1,300万kWから2050年には12億4,000万kWへ拡大し、NZEシナリオの見通しを1億6,000万kW上回ると分析しています。この3倍化を達成するためには、2030年代~2040年代に年間4,000万kWの大規模な導入ペースが不可欠であるとし、投資額も現在の700億ドル超から2035年頃に2,100億ドルへ急増すると予測しています。強靭なサプライチェーンや高レベルな労働力、長期的な政策支援が不可欠とも指摘しています。
報告書は、米国がこうした世界的な動きで中心的な役割を果たす可能性にも言及しています。2025年5月の大統領令は、米原子力規制委員会(NRC)の改革を通じて国内原子力産業の再活性化をめざし、2050年までに3億kWを米国内で新設する方針です。さらに、欧州連合(EU)、中東、アフリカ、東アジア、北米、中米でも、脱炭素化戦略の一環として原子力への関心が再燃しています。

※2035年の電力のユニバーサルアクセス、2040年のクリーンクッキングアクセス達成を前提とした「Accelerating Clean Cooking and Electricity Services Scenario (ACCESS)」もあります。




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