IEAによる米国と日韓のエネルギー見通し-WEO 2025報告書から-

既報の通り、国際エネルギー機関(IEA)は2025年11月12日に「2025年版世界エネルギー見通し(World Energy Outlook 2025:WEO 2025)」を発表しました。これは、主にCPS(現行政策シナリオ)、STEPS(公表政策シナリオ)、およびNZE(2050年ネットゼロエミッション)シナリオ――の3つのシナリオ*に基づいて、世界のエネルギー状況、気候変動への影響等を分析評価しています。
WEO2025は、今回の見通しの特徴として、①エネルギー需要の増加の中でのエネルギー安全保障と重要鉱物供給問題の深刻化、②電力時代の到来、③エネルギーシステムの重心が中国から他の新興経済国に移行、④再生可能エネルギーの継続的増加と原子力の復活、を挙げています。上述の3つのどのシナリオでも2050年には世界が1.5℃を超える温暖化を示していますが、NZEシナリオでは長期的に気温上昇は1.5℃以下に戻ると指摘しています。
WEO2025は世界全体を見ているわけですが、第8章では地域別洞察として、米国、中南米、EU、ロシア、ユーラシア、中国、インド、日韓、東南アジア、中東、アフリカの11か国・地域を個別に分析評価しています。ここでは、その中から米国と日韓に関するIEAの洞察の概要を以下に紹介します。
*IEAの3つのシナリオ:
・「現行政策シナリオ」(Current Policies Scenario, CPS): すでに実施中の政策や規制のみを反映。新技術導入には慎重な見通し。
・「公表政策シナリオ」(Stated Policies Scenario, STEPS):政府の公表済み戦略等を含むが、意欲的目標の完全達成は前提としない。
・「2050年実質ゼロ排出量シナリオ」(Net Zero Emissions by 2050 Scenario, NZEシナリオ):2050年ネットゼロ前提。
米国のエネルギー見通し
OBBBAが大きく影響、原子力は2030年代から本格拡大
米国のエネルギー政策を取り巻く環境は、大きく変化している。2025年の「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル法(One Big Beautiful Bill Act:OBBBA)」の成立は、国内エネルギー生産――とりわけ、石炭、原子力、地熱、石油、天然ガス――そしてエネルギーインフラ開発を重視する姿勢を明確に示すものである。これらに対して、税控除の復活や拡大・強化を図っている。その一方で、風力、太陽光発電(PV)、電気自動車(EV)に対する税額控除については、段階的廃止を加速させている。こうした政策変更に加え、規制、連邦政府職員の人員配置、公的資金・資金調達の変更が相まって、米国のエネルギー環境が再編成されつつある。
現行政策シナリオ(CPS)では、米国の一次エネルギー需要は2035年まで年率0.5%増加すると予測されており、過去20年間の概ね安定した需要から成長へと回帰する。天然ガスは2035年にかけて需要が大幅に増加し、2050年まで米国最大のエネルギー源であり続ける。石油需要は中期的に緩やかな増加が続くものの、長期的には横ばいになる。一方、石炭は2050年に向けて着実に減少する。原子力発電は、短期的には安定しているが、2030年代には現在開発中の大型炉および小型モジュール炉(SMR)が、政策的支援とテクノロジー企業からの強い関心を背景に相次いで稼働を開始し、新たな波が到来する。この原子力の復活は、建設および燃料分野における労働力とサプライチェーンの継続的な発展にかかっている。バイオエネルギーは2050年まで最大の再エネ源であり、太陽光発電と風力は近年と比べて緩やかであるが、拡大が続く見通し。

米国の電力部門および各最終需要部門はそれぞれ独自のエネルギーミックスを有しているが、CPSではいずれの部門においてもエネルギー需要の増加が見込まれている。電力分野では、天然ガス需要が2035年まで増加を続け、2050年に至るまで最大の発電源であり続ける。一方で、次世代地熱、バイオエネルギー、水力、太陽光発電、風力といった幅広い再エネ技術についても、需要の拡大が見込まれている。

長期的な見通しには、不可避的に不確実性が伴う。政策の枠組みの進展や、それに対するエネルギー関係者の対応によって、見通しが変化していくためである。公表政策シナリオ(STEPS)では、米国の動向は電力分野における再エネ供給基準をはじめとする州レベルの取組みから、より強い影響を受けることが示されている。STEPSでは、一次エネルギー需要は2035年まで概ね安定して推移する。天然ガスの増加は限定的で、石油は緩やかに減少し、石炭の利用は大幅に減少する。一方、原子力の見通しは引き続き良好で、再エネについては、州の義務措置の延長などを一因として導入が拡大する。
データセンター向け電力供給は、ガス、再エネ、原子力の順に
2024年の米国のデータセンター向け電力供給の最大の電源は天然ガスであり、供給量の40%以上を占めている。再エネ(圧倒的に太陽光発電と風力)が全体の4分の1を供給し、原子力が約20%、石炭が約15%を占めた。ほぼすべてのデータセンターが電力系統に接続されているため、これらの電源別構成比は、米国のデータセンターが集中する州における電力ミックスを概ね反映したものとなっている。
IEAは、データセンターへの今後の電力供給について、OBBBAの成立による政策環境の変化を反映して、2025年4月のIEA報告書「エネルギーとAI報告書」を更新した。具体的には、太陽光発電や風力を含む複数の再エネ技術に対する税額控除の段階的廃止に向けた現在の計画を考慮した。その一方で、企業のネットゼロエミッション目標、州レベルの再エネ供給基準、そしてガスタービンのサプライチェーン問題も考慮したという。

CPSでは、データセンター向けの電力供給量は現在の約2,000億kWhから2035年には6,400億kWhに3倍以上に増加する見通しである。新たなデータセンター需要に対応するため、天然ガス火力による発電が最も増加し、2035年までに2,600億kWhに拡大する。この増加の多くは2030年以前に生じる。こうした動きは、天然ガス需要の継続的な拡大を反映したものであり、その大部分は、既存の系統接続済みガス火力発電所の稼働率を引き上げることで賄われる。また、一部の開発事業者は、大規模なデータセンターを専用の天然ガス発電所と共同立地させる計画もあるが、ガスタービンのサプライチェーンの制約により、これらのプロジェクトの一部は2030年以降にずれ込む可能性がある。
追加供給のうち、2番目に大きな電源は風力と太陽光発電(PV)であり、両者を合わせた発電量は2035年までに約700億kWh増加する。これは主に、データセンターが立地する州において、風力および太陽光発電の発電設備容量が拡大していることによるものである。
原子力は、追加的な電力供給源として3番目に大きな位置を占めており、特に2030年以降、複数のハイパースケーラーが新しいデータセンター向けに電力を直接供給するためにSMRを運転開始すると見込まれている。その結果、データセンター向けの原子力発電量は2035年までに約700億kWh増加する。米国のテクノロジー企業はすでに2,500万kW以上のSMRの資金調達計画を立てているが、この大部分は2035年以降に実現する見通しである。
世界のエネルギー大国として継続、しかし原子力発電設備容量では2030年頃に中国が首位に
米国は、石油と天然ガス需要の両方で世界トップである。石炭需要で世界3位、再生可能エネルギーは2位にランクされている。米国は世界第2位の発電国であり、中国の半分の発電量であるが、インド(3位)の2倍以上である。米国はまた世界最大の原子力発電所群を運転しており、その発電設備容量は現在1億kWを超えている。

近年、米国は石油および天然ガスの双方で世界最大の生産国である。米国の石油生産量は第2位の生産国のほぼ2倍であり、天然ガスの生産量は第2位の生産国より60%上回っている。こうした生産水準により、米国は石油・ガスの純輸出国となり、世界のエネルギー市場およびエネルギー安全保障において、ますます影響力のある国となっている。
今後、米国は石油・ガス生産における世界的リーダーとしての地位を維持しつつ、原子力など他の優先技術の活用を拡大していく見通しである。米国はCPSおよびSTEPSのいずれのシナリオにおいても、2035年に至るまで、石油および天然ガスの生産・消費の双方で世界最大の地位を維持する。
OBBBAはまた、国内における多くのエネルギー技術の拡大を後押ししている。原子力発電は、税額控除の継続、資金調達の拡充、規制障壁の撤廃または緩和によって支えられ、再び成長軌道に乗る見通しである。CPSでは、原子力発電設備容量は2030年まで安定し、その後2040年には3分の1増加、2050年までに80%以上の拡大が見込まれている。こうした成長にもかかわらず、中国は2030年頃に米国の原子力発電設備容量に追いつき、その後2050年にかけて首位の座を維持するとみられている。
(編集部注)なお、米国は2025年5月の大統領令で、2050年までに国内の原子力発電設備容量を現在の4倍に引き上げる方針を示している。
日韓のエネルギー見通し
人口減少の中での経済成長、電力需要増加 ― ともにエネルギー安全保障と脱炭素化めざす
日本と韓国のGDPは2050年まで年間0.8%成長する一方、同地域の人口は年間0.6%ずつ減少し続ける見通しである。デジタル化や自動化、AI、ロボット、半導体といった高付加価値分野が経済見通しの基盤となり、両国政府は労働力不足を補い、経済成長を維持するため、イノベーションや生産性向上、産業構造転換に一層注力している。
日本は原子力政策を転換、2040年の原子力シェアは約20%
2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画に基づく日本のエネルギー戦略は、脱炭素化とエネルギー安全保障を同時に達成するための複数の道筋を示している。重要な転換点は、再エネを主力電源として明確に位置付け、2024年の24%から2040年までに40〜50%まで電源構成に占める比率を引き上げる方針を打ち出した点である。同計画はまた、原子力政策の転換も示している。すなわち、原子力を再エネと並び、エネルギー安全保障と効果的な脱炭素化の双方に不可欠な電源として位置付けている。原子力シェアについては、2024年の9%から2040年には約20%へ引き上げることを想定している。一方で、原子炉の再稼働をめぐっては、安全審査や設備の改修、そして国民理解に左右されるため、再稼働の時期は依然として不確実性を伴う。再稼働の遅延は代替電源への依存を余儀なくされ、脱炭素化とエネルギー安全保障の両立をめざす道筋が一層複雑化する可能性がある。
韓国の原子力シェアは2038年までに35%に拡大
韓国の第11次電力需給基本計画(2024-2038年)は、エネルギー安全保障を考慮しながら、需要増加と脱炭素化へのコミットメントのバランスを取ろうとしている。新規原子炉やSMRの導入を通じて、原子力シェアを約30%から2038年までに35%へ拡大する方針が示されている。再エネの発電量シェアは増加し、石炭やLNGのシェアは低下する見通しである。エネルギー安全保障の強化とカーボンニュートラルへの移行という2つの目標の同時達成をめざし、2038年には発電の70%以上が原子力、再エネ、水素・アンモニアなどの低排出電源が占めると想定されている。不確実性は残るが、韓国は既設原子力発電所の運転期間延長やSMR開発に対する支援を維持する可能性が高い。ただし、大型原子力発電所の新規建設については、その進展ペースが鈍化する可能性がある。全般的には、再エネや次世代技術への重点が今後一層高まっていくとみられる。
日韓の電力需要増加の一因は、データセンターの電力需要の急増
こうした戦略と政策を反映して、この地域の電力需要は2024年の約1兆4,600億kWhから、2040年にはSTEPSで約1兆6,600億kWh、CPSで1兆6,700億kWh強へと増加する。両シナリオに共通する需要増加の一因は、データセンター向け電力需要の急増である。現在、日本と韓国におけるデータセンターの電力需要は200億kWh強で、設備容量は500万kW強である。短期的には、両シナリオともデータセンター向け電力需要はほぼ倍増すると見込まれており、2024~2030年に電力需要増加の約20%を占める。
石油需要は減少続く、ガスは2030年以降徐々に減少へ、再エネは増加基調
両国で低排出燃料とエネルギー安全保障の強化に向けた政策支援により、化石燃料需要は2024年から2040年にかけてCPSで年平均1.5%、STEPSでは年平均2%以上減少する。同地域のエネルギー関連CO2排出量はその過程でわずかな変動があるが、2014年以降減少しており、この傾向は両シナリオにおいて継続する見通しである。2040年には、この地域のエネルギー関連CO2排出量は、CPSでは現在より30%超、STEPSでは40%低い水準となる。

天然ガスは需給調整可能(dispatchable)な電源として、どちらのシナリオでも重要な役割を果たすが、いずれのシナリオでも2030年以降は利用が徐々に減少していく見込みである。再エネの設備容量はCPSでの増加速度がSTEPSよりも遅く、これはガス需要が高いことを意味している。
両国はネットゼロ排出の達成に向けた取組みを進めるなかで、再エネの拡大を非常に重視している。再エネの設備容量は両シナリオで増加するが、その拡大ペースは異なる。CPSでは2040年までに約1.5倍に拡大すると見込まれる一方、STEPSでは追加の政策支援や技術開発の加速を背景に、設備容量はほぼ倍増し、4.2億kWに達すると予測されている。
日韓の現状:一次エネ需要の8割が化石燃料で、そのほとんどを輸入
2024年の日本と韓国の一次エネルギー需要の80%は化石燃料で、そのほとんどが輸入に依存している。これらの化石燃料輸入は、重要なチョークポイント(要衝)を通過している。具体的には、原油輸入の約70%がホルムズ海峡を、85%がマラッカ海峡を経由しており、LNG輸入についても70%以上が南シナ海を通過している。LNGのスポット価格水準は近年非常に変動が激しく、2022年にはエネルギー危機の長期化に伴う価格上昇を背景に、MBtu(100万英国熱量単位)あたり平均34米ドルに達し、ピーク時には85米ドル/MBtuまで上昇した。2024年には平均12米ドル/MBtuまで下落したが、2022年の地政学的要因による価格変動により、日本と韓国は域内エネルギー資源への投資を強化し、戦略的備蓄を拡充、また新たな政策や企業のコミットメントを通じてサプライチェーンの多様化を図っている。同時に、両国政府は短期的な価格ショックを緩和するための緊急財政措置を導入した。日本では2022年以降、ガソリン、電気、ガス消費の補助金に10兆円以上が支出されている。
日韓ともに脱炭素化、エネルギー安全保障、手頃な価格などの面から原子力を追求
日本と韓国は、脱炭素化、エネルギー安全保障、手頃な価格を支援するため、安定的かつ低排出な技術に対する投資家の信頼を高めるべく、さまざまな施策を追求している。原子力発電はそのような技術の一つである。両国は、変動性の再エネを補完し、脱炭素化目標の達成、エネルギー自給の強化、および化石燃料輸入費用の削減に資する、需給調整可能で低炭素の供給源として、原子力発電を推進している。現在、原子力はこの地域で2,800億kWhの電力を供給しており、これは太陽光発電、水力、風力といった他の主要な低排出電源による発電量の合計に匹敵する。どちらのシナリオでも、原子力は地域最大の低排出電源であり、2040年には約5,000億kWhに達すると見込まれている。日本の当面の優先課題は、新規建設計画の発表に加えて、既設原子炉の再稼働を進め、発電量に占める原子力比率を引き上げることである。韓国では、建設中の2基の新設(セウル3号機と4号機)を進めることが優先課題である。仮に原子力開発が遅れ、発電量が現状の水準にとどまった場合、2040年にはこの地域で1.8億kW超の追加の太陽光発電設備、あるいは40bcm(400億立方メートル)の追加的な天然ガスが必要となる。

原子力開発促進への政府のリーダーシップを強調
両国の状況は異なるが、原子力発電の開発に向けた予見可能な許認可プロセスを確立し、収益性を高める制度改革を実施するとともに、融資保証、グリーンボンド、専用の投資ファンドといった金融手段を整備し民間資本を動員するためには、公共部門のリーダーシップが不可欠である。同時に、人材育成への投資とサプライチェーンの多様化は、レジリエンスと競争力の強化につながる。韓国はこの分野で重要な強みを有し、国内外での堅調な原子力プロジェクトによって支えられている。同様に、放射性廃棄物の安全かつ最終的な処分のための明確な道筋は、国民の信頼と長期的な持続可能性の両面で極めて重要である。日本では、サイト選定に向けた法的手続きが着実に進展している。透明性の高いロードマップを提示し、国民の懸念に対応することで、政策立案者は原子力が低排出社会の柱であり続けるよう、後押しすることができる。
また、電力系統はエネルギー安全保障にとって、もう一つの重要な投資分野であり、その整備・強化への投資は、電力部門を安定的に運用するうえで不可欠である。
■
お問い合わせ先:情報・コミュニケーション部 TEL:03-6256-9312(直通)