WNN論考紹介—ASEANのSMR導入に向けた規制調和の必要性

2026年10月23日

世界原子力協会(WNA)のニュースサイト「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」は2026年10月16日、東南アジア諸国連合(ASEAN)における小型モジュール炉(SMR: small modular reactor)の導入と規制のあり方についての論考を「Viewpoint」として掲載しました。

筆者は、エンジニアリング・マネジメント・開発コンサルティング会社モット・マクドナルドで原子力(防衛・民生)分野のグローバルプラクティスリーダーを務めるミン・タン氏と、同社でシンガポール・マレーシアのエネルギー市場を担当するステファニー・リャウ氏です。同社は、シンガポールから先進原子力技術の安全性・実現可能性調査を改めて受託しており、筆者らはASEANの原子力導入に実務で関わる立場から論じています。

本記事では、この論考の要点を紹介します。

1. 背景は電力需要増と規制の断片化

ASEANの電力消費量は、工業化や都市化に伴い、今世紀半ばまでにほぼ3倍に増えると予想されています。SMRは一般に出力5万〜30万kWe程度の原子炉で、工場で製造され、送電網の規模が小さい国や産業用途にも適した、信頼性の高い低炭素電源となり得ます。

2. ASEAN各国の状況

現在、商業用の原子力発電所を運転しているASEAN加盟国はありませんが、各国では次のような具体的な動きが進んでいます。いずれの国も原子力規制、未整備な制度設計、資金、人材・技能、社会受容性など共通の課題を抱えています。

国名主な目標・動向
インドネシア2040年までに数百万kWe規模の原子力発電設備容量の達成を目指す。
マレーシア2035年以降の選択肢として原子力を検討。
フィリピン2050年までに原子力発電設備容量480万kWeを目標とし、SMRの評価やバターン原子力発電所計画の再開を検討。
シンガポール導入を前提としない形で、先進原子力技術の安全性・実現可能性調査を実施。
タイ60万kWeの原子力発電設備容量を目標に設定し、電力計画にSMRを再び組み入れた。
ベトナム大型原子力発電所2か所に加え、2050年までに原子力発電設備容量800万kWeの追加を計画。

3. 課題は、断片的な規制審査が、SMRのモジュール性の利点を損なうこと

各国は独自の規制、基準や許認可手続きを維持しています。SMRのような新規導入の技術(FOAK)の場合、同一の原子炉設計に対しても複数の国による審査が行われ、それぞれで資料の提出が求められます。その結果、炉メーカーは繰り返し行われる、多大なリソースを要する提出プロセスに直面します。個別に審査するために体制は拡大、スケジュールは長期化、総コストは上昇し、投資家の信頼も損なわれます。ASEAN全域での規制枠組みの収斂と調和が図られなければ、SMRの魅力、特に標準化と再現性に関する魅力が損なわれるリスクがあります。

4. 解決に向けた3つの解決策

第一は、最大限の共通性です。規制用語の統一や安全要件の整合を進め、適切な場合には共通の規制成果物(審査を通じて作成される評価結果や文書)を各国が相互に承認し重複を減らすことです。

第二は、技術中心のライセンスです。最も厳しい審査はASEAN規制当局が共同で実施する全般設計評価を通じて一度だけ実施し、サイト固有の考慮事項は各国の管轄下で行うことです。

第三は、サプライヤーおよび技術の中立性—ISO 19443[1]やNQA-1[2]などの基準を参照した中立的なサプライヤー資格認定などで強靭な地域サプライチェーンを発展することです。

5. 筆者のロードマップと期待される効果

筆者は、規制の収斂に向けた段階的なロードマップとして次のような取組みを挙げています。

  1. ASEAN原子力規制機関ネットワーク(ASEANTOM)を活用した用語の統一や共通エビデンスマップの作成。
  2. ASEAN地域のニーズに応じた共同技術評価の実施。
  3. 材料、製造、検査要件での収斂により、規格・基準・品質要件を整合させる。
  4. 燃料補償およびライフサイクルの考慮と燃料調達・輸送・廃棄物・廃止措置に関する地域一貫の戦略作成。
  5. ASEAN地域の投資家が認める財務および市場の枠組みの明確化。
  6. 共通の成果物の国別枠組みへの組み込み。

6. 政府や産業への意味

筆者は、政府や産業への意味として、以下を指摘しています。

規制の収束は、複数の市場にわたるエンジニアリング成果物を整理し、分類や試験の再作業や曖昧さを減らし、ASEANにおける専門知識の統合を可能とする。さらに、規制決定のスピードを向上させながらも、立地や運営に対する政府の権限が維持される。また、投資家にとっては、より明確で予測可能なスケジュールが、銀行の利用可能性を高める。炉メーカーやサプライヤーにとっては、共通の仕様と品証システムにより海外のSMRサプライチェーンの参入を促進する。

7. 結論

最後に、筆者らは、SMRの大規模導入の成否は、物理的な技術よりも規制プロセスの調和に大きく左右されると結論づけています。規制の収斂を進めることは、安全性を最優先しながら、現実的で資金調達の見通しが立つ低炭素エネルギーへの転換を実現する道筋になるとしています。

出典:World Nuclear News「Viewpoint: Unlocking ASEAN’s nuclear potential – a case for regulatory convergence on SMRs」(2026年10月16日)


  1. ISO 19443は、原子力分野に製品やサービスを供給する組織向けの品質マネジメントシステム規格です。 ↩︎

  2. NQA-1は、米国機械学会(ASME)が定める原子力施設向けの品質保証規格です。 ↩︎

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