第11回東アジア原子力フォーラム参加報告

当協会は、韓国原子力産業協会(KAIF)主催で行われた第11回目となる「東アジア原子力フォーラム」(10月15日、於:韓国・慶州市)に参加しました。本フォーラムでは、原子力拡大の潮流を受けた東アジア原子力の現状とこれから、また原子力安全やSMR・核融合といった最先端の原子力技術の開発状況について、情報交換や知見の共有が行われました。本フォーラムには日本原子力産業協会(JAIF)、韓国原子力産業協会(KAIF)、中国核能行業協会(CNEA)、台湾核能級産業発展協会(TNA)の関係者など、約70名が参加しました。その後、10月16日、17日の2日間にわたり、慶州市隣接地域の原子力関連施設などを訪問し、関係者との活発な意見交換を行いました。

東アジア原子力フォーラム概要

〇 開会挨拶(セッション1)

JAIF増井理事長より、「2050年カーボンニュートラル達成に向け、原子力の役割が再評価される中、東アジアという地域が果たす役割は大きい。日本国内でも原子力発電所の再稼働やリプレースといった話が具体的に動き出している。本フォーラムでの議論を通して、各国が持つ経験と知見を共有し、課題解決に向け連携をさらに深めていきたい。」との挨拶がありました。

第11回東アジア原子力フォーラム 会場の様子
開会挨拶をするJAIF増井理事長

〇 セッション2

「東アジアにおける原子力産業の現状と将来の展望」

参加した各国・地域の代表は、それぞれの国・地域の原子力産業の現状とその展望について発表を行い、現在・将来の設備容量や、新設炉の建設状況についての進捗などが説明されました。

日本からは電気事業連合会 原子力部 副部長の雨宮大介氏が登壇。「日本における原子力の現状と将来の展望」というテーマで、既存炉の新規制基準適合審査の状況や、原子燃料サイクル事業の現状、また第7次エネルギー基本計画における「原子力の最大限活用」実現のため、我が国におけるリプレースや次世代革新炉開発の課題について発表がありました。

各国・地域の発表内容は以下の通り (発表順)

・韓国: 強固なサプライチェーンとUAE、チェコなど多数の海外プロジェクト遂行実績を背景に、東アジアで戦略的パートナーシップを強化し、より安全で持続可能な原子力の未来を共に築く重要性が示されました。

・中国: 国産第3世代技術(HPR1000、CAP1400)の一括建設・運用を進めるとともに、第4世代やSMR技術の研究開発と実証建設を継続し、原子力エネルギーの利用を多目的に拡大していく見通しが示されました。

・台湾: 安全性、放射性廃棄物処理、社会的合意という3原則に基づき、運転停止中の原子力発電所再稼働の可能性について、科学的根拠に基づく包括的な設備・組織のレビューが求められていることが発表されました。

〇 セッション3

「世界の潮流を反映した東アジア原子力産業の方向性」

世界的な原子力再評価の波を受け、各国が取り組む国内での新規建設、国外への原子力技術の輸出、また廃止措置などについて説明が行われました。

日本からはJAIF増井理事長が登壇。「日本の新規建設プロジェクトにおける、重要な課題」と題して、人口減に関わらずデータセンターの新規建設などにより電力需要の増加が見込まれるなか、それを満たすための新規建設への道筋と乗り越えなくてはならない課題について発表が行われました。

各国・地域の発表内容は以下の通り (発表順)

・韓国: 増大する国内外の原子力需要に応えるため、原子力を維持する国家エネルギー政策の重要性と、安全性強化・資源の制約克服に向けた東アジア地域内での協力の必要性が発表されました 。

・中国: 中国核工業集団有限公司(CNNC)が持つ原子力産業チェーン全体を基盤とした海外原子力発電所向けライフサイクル統合ソリューションの提供能力、および海外O&M技術のパイオニアを目指すというビジョンが発表されました 。

・台湾: 金山原子力発電所の廃止措置計画の進捗と将来展望について、使用済み燃料の屋外乾式貯蔵施設への移動や、2030年第1四半期を目標とする原子炉圧力容器(RPV)の解体など、具体的なマイルストーンが発表されました 。

〇 セッション4

「原子力発電所の運転: 安全、許認可、規制体系と応用」

本セッションでは、各国の原子力発電の安全性向上に向けた取り組み、および建設から廃止措置、再稼働と広範にわたる規制体系について発表が行われました。

日本からは原子力エネルギー協議会 (ATENA) 理事 松本純一氏が登壇。「日本における原子力発電の現況と ATENA の活動状況」というテーマで、福島第一原子力発電所事故後の日本の原子力安全への取り組み、またATENA として行ってきた、2024年1月の能登半島地震や原子力発電所の長期運転への対応などについて説明が行われました。

各国・地域の発表内容は以下の通り (発表順)

・韓国: 原子力安全委員会(NSSC)がリスク情報活用型性能ベース規制(RIPBR)を2025年のコアプロジェクトとして採用し、規制のパラダイム変化を推進していることが発表されました。

・中国: 中国広核集団(CGN)が「厳・慎・細・実」という社風の下、中国国内の厳格な規制システムを遵守し、原子力安全文化の継続的な改善と環境保護・放射線安全管理の強化に注力していることが発表されました。

・台湾: 原子力エネルギーの安全性確保を最重要視する中で、住民投票の結果を受けて停止中の馬鞍山原子力発電所の運転延長・再稼働に向けた安全点検の再開が政府に命じられたことが発表されました。

〇 セッション5

「次世代の原子力技術: SMR などの次世代革新炉や、AI 技術の応用について」

先端技術の原子力分野での活用について、各国よりSMRやAIといった様々なテーマで発表がありました。

日本からは、量子科学技術研究開発機構 (QST) 那珂フュージョン科学技術研究所 先進プラズマ研究部 次長の浦野創氏が登壇。「QSTの核融合エネルギー開発」というテーマで、核融合の基礎的な知識から、研究所で取り組むJT-60SAの開発状況、また日中韓が協力する国際プロジェクトであるITERへの貢献について説明が行われました。

各国・地域の発表内容は以下の通り (発表順)

・韓国: 原子力エネルギー産業の競争力維持と電力供給の安定化のため、2028年の標準設計認可(SDA)取得を目指し、革新型SMR(i-SMR)の開発を設計、検証、規制、建設というフェーズで進めていることが発表されました 。

・中国: 自国開発のSMRであるACP100(玲竜一号)の実証プロジェクトを皮切りに、2027年の建設開始を目標とし、多目的シナリオに対応できるACP SMRシリーズを最適化・拡大していく計画が発表されました 。

・台湾: 原子力安全と効率性の向上を図るため、原子力発電所におけるAIと機械学習(ML)の利用に関する研究開発が発表され、リアルタイムの予測や診断を可能にするデジタルツイン技術への応用が強調されました 。

日中韓台参加者による集合写真

視察概要

フォーラムの翌日より2日間にわたり、以下の施設訪問を行いました。

○KHNP セウル原子力発電所 (Saeul NPP)

セウル原子力発電所(Saeul NPP)は韓国南東部の蔚山広域市にあり、韓国水力原子力(KHNP)が運営する原子力発電所です。旧称は新古里原子力発電所で、2022 年に現在の名称に変更されました。1・2 号機は韓国が独自開発した次世代加圧水型軽水炉「APR1400」を採用し、各炉 1400MW 級の大型炉です。

参加者一行は建設中の3、4号機、運転中の2号機の燃料取扱エリアや中央制御室を見学し、安全運転と地域社会との共生の取組みについて説明を受け、運転・保守体制の実態を直接確認しました。

建設中のKHNP セウル原子力発電所 3, 4号機 (画像出典: KHNP)

○KEPCO KPS 原子力整備技術センター (NMEC)

KEPCO KPS が慶州市で運営する原子力整備技術センター(Nuclear Power Maintenance Engineering Center:NMEC)は、原子力発電所機器の高度なメンテナンスと技術開発を担う施設であり、高度な非破壊検査設備も備え、国内すべての原子力発電所のメンテナンスをサポートするほか、技術者育成にも注力し、韓国のみならず国際的に信頼される原子力メンテナンスの拠点として機能しています。

参加者一行は同センターにおける主な事業の概要について、エンジニアリング部門の担当者より、動画および資料を用いた紹介を受け、実際に様々なメンテナンス作業が行われる工場現場を見学しました。

KHNPセウル原子力発電所での集合写真
KEPCO KPS NMECにて説明を聴く参加者

今回のフォーラムを通じ、東アジア地域における原子力産業の現状と将来像、ならびに技術革新の潮流を共有するとともに、安全性の確保と社会的理解の促進に向けた協力の重要性を再確認しました。  

来年の第12回東アジア原子力フォーラムは日本での開催を予定しています。当協会を含むこれら4者の産業団体は、引き続き協力的で友好的な関係を維持し、今後も人的交流や情報・意見交換を通じて、地域の原子力の持続的な発展に向けた連携・協力に努めてまいります。

お問い合わせ先:国際部 TEL:03-6256-9313(直通)