【第48回原産年次大会】セッション1:なぜ原子力か-世界の観点

 第1セッションでは電力市場の自由化を進めてきた国やエネルギー安全保障と気候変動への対応から新設を進める国、あるいは積極的に原子力の海外展開を図る国など、6か国から講演者を招待。日本科学技術ジャーナリスト会議の小出重幸会長をモデレーターに、海外の経験に耳を傾けてその知恵に学び、日本の将来に活かすとともに今後原子力が世界で果たす役割について考えた。

 まず、ブラジル原子力発電公社のL.ギマランイス理事が、ブラジルがなぜ原子力開発を推進するのか、同国で進めている「水力・(原子力を含む)火力補完システムへの移行」を中心に概説した。

ブラジル 1億9,200万人の人口を擁するブラジルの発電設備容量は約1億kWと世界第9位、年間発電量も4,500億kWhで第10位だが、一人当たりの電力消費量は2,400kWhと少ない。総発電電力量のうち74.3%が水力発電によるもので、原子力シェアは2.7%。水力発電の設備容量は年々右肩上がりで増加しているものの、水源の貯水量はそれに比例した増加傾向を示しておらず、不足分は原子力を含めたサーマル(火力)発電で補う必要性が高まってきた。また、2001年に電力供給危機を経験しており、ブラジルはその翌年から電力システムの移行を開始した。

 原子力発電はこの問題の解決策の一つとして期待されており、原子力産業界は法令に基づき独占体制がとられている。現在、電力公社傘下のエレトロ・ニュークリア社が操業するアングラ1、2号機(各PWR)が稼働しており設備容量は合計約200万kW。これらに続く同3号機(140万kWのPWR)は現在建設中だが、今年の12月には送電開始予定。さらに4~8基の原子炉を2030年までに開発する計画で、将来的に国内でPWR設計することも検討している。

 国家エネルギー計画2030では、2025~2030年の間に北東部と南東部にそれぞれ200万kWを新設するとしており、米国電力研究所の用地選定ツールを使って潜在的な候補地マップを作成中。候補地の一つでは、ベンダーへの技術提案募集や早期立地許可報告書などプラント建設のパラメータ設定や電力事業者要求文書の策定、経済・財務面での実現可能性調査、社会・経済的影響の調査といった活動を実施している。課題としては、国民受容や資金調達、完成発電所のオーナーシップ、サプライチェーンなどを解決する必要がある。

 ブラジルはウラン資源に恵まれており、国土の30%しか探査していない状況での埋蔵量は世界第6位。全土の探査が完了すれば第二位となる可能性もある。こうした資源量を背景に、ラゴアレアルでウラン採掘・製錬工場、レゼンテでは燃料加工工場が稼働中であるほか、ウラン濃縮施設もレゼンテで建設中となっている。

 次に、中国原子力産業協会(CNEA)の趙成昆副理事長が中国における原子力発電の現状と今後の見通しについて述べた。

 中国1980年代に原子力プログラムを開始して以来、中国の原子力発電開発は10年毎に3段階に区分できる。それらは、(1)発電設備ゼロから出発し、秦山と大亜湾で3基・210万kWを建設した始動期、(2)原子炉8基を910万kWまで連続建設し、フォローアップ開発のための基盤整備をした合理的開発期、(3)エネルギー・ミックスの再構築と環境改善に焦点を当てた国策の下、2014年末までに運転中22基・2,010万kW、建設中26基・2,845万kWに至った急成長期--である。

 福島第一事故はこうした中国の原子力開発に重大な影響を及ぼしており、国務院は事故後直ちに中国の全原子力施設で包括的な安全点検を実施。これらにおける安全管理を強化するとともに、2012年に原子力発電安全計画を公表するまで、新規プロジェクトの開始を凍結した。また、第12次5か年計画期間中は内陸部における新設承認も凍結している。原子力安全審査タスクフォースは1年間の調査の後、稼働中原子炉すべてが安全であるほか、建設中原子炉もみな、規制基準に適合しているとの見解を公表したが、核安全局は同事故の教訓を踏まえて発電所改善策に関する全般的な技術要求も公表。中国における発電所の運転性能向上を目指している。

 さらなる技術革新としては、AP1000をベースに開発した出力140万kWの「CAP1400」の初期設計が審査に合格しており、今年から山東省石島湾で実証炉プロジェクトが始動する。また、中国が知的財産権を保有する「華龍一号」の開発も大きく前進しており、予備安全解析書の審査が現在進行中。国家能源局は福清と防城港の両サイトで2基ずつ同設計を採用することを決定しており、今年中に初の華龍一号を着工する計画である。

 2020年までの展望としては、運転中の設備容量を5,800万kWに拡大し、その時点の建設中設備も3,000万kWにするのが目標。2015年までは沿岸部の建設を優先すると同時に、内陸部での建設に向けて国民とのコミュニケーションや社会的リスク評価などの準備を実施する。新規建設炉には第3世代の安全基準への適合を要求する方針で、これは中国の主流になる予定。第13次5か年計画以降の安全目標は、設計上の対策により大量の放射性物質放出の危険性を排除するとともに、緊急時においても限られた対策の実施で済むようにすることだ。

 原子力は中国のエネルギー生産利用方式改革方針に対応しており、低炭素成長ロードマップの実施においても重要な役割を担う。ある調査機関の予測では、2030年に原子力設備は1億6,000万kWとなり、発電シェアは10%に到達。また、2050年には2億4,000万kW、発電シェア15%に達して石炭消費量6億トンの削減に貢献出来る見通しである。

 仏原子力・代替エネルギー庁(CEA)のC・ベアール原子力開発局長は「仏国のエネルギー移行法における柱」について説明した。

仏国 仏国では現在、PWR58基、6,313万kWが稼働中で、2014年中は4,160億kWhを発電。総発電量に占める割合は75%となっている。エネルギー全体の自給率は2013年に53%と、安定的に約5割で推移。再生可能エネルギー開発にも力を入れているため、発電量の90%以上がCO2フリーとなっている。仏国は欧州連合(EU)の政策とリンクしたエネルギー政策を取っており、一次エネルギー消費と温室効果ガス排出量を(1990年比で)それぞれ20%削減、エネルギー・ミックスに占める再生エネの割合も20%に拡大する計画。すなわち、仏国では原子力と再生可能エネルギーの両方が必要であり、原子力をベースロード電源とし、再生エネでこれを補完する方針となっている。

 現在、議会審議中のエネルギー移行法案では、原子力設備を現行レベルの63GWに制限し、オランド大統領の公約どおり、原子力発電シェアを2025年までに50%まで引き下げることなどが盛り込まれた。しかし、昨年10月に下院が審議した後、上院は今年3月、原子力設備の上限を64.8GWに、また、原子力発電シェアの引き下げ期限を「しかるべき時期」に修正して審議。それぞれの法案について上下両院が和解しなかったため、最終審議のための法案が下院に再提出された。下院が最終決定権を持っていることから、6月以降にもエネルギーの移行が実施に移される見通しだ。

 それでも、政界ではバルス首相が原子力について「我が国の主権と地球温暖化対策にとって不可欠」と明言しているほか、エネルギー省のロワイヤル大臣も「第3世代炉の運転フィードバックを利用して、一層高性能の第4世代炉を準備する必要性がある」と指摘。原子力は今後も仏国の主要な発電源であり続ける。

 このため、原子力関連で将来に備えてやるべきことは、軽水炉の寿命を延ばすとともにクローズド燃料サイクル路線を継続して再処理を最適化する。また、プルトニウムのマルチリサイクルを可能にするほか、使用済み燃料のエネルギー・ポテンシャルをすべて使うこと。現在の軽水炉利用から第4世代炉のナトリウム冷却高速炉に進むには数十年かかるが、現在のサイクル技術は原子炉の世代交代の架け橋となることから、今から準備を進めておくことが必要だ。具体的には原型炉「ASTRID」の運転を2020年代半ばに開始し、2030年代半ばに十分なフィードバックが行えることを目指す。また、その開発には日本を含めた世界数多くの国々と協力してやっていく方針だ。

 インド原子力庁(DAE)ホミ・バーバのSA.バドルワジ・チェアはインドの原子力開発プログラムについて説明した。

インド 2015年1月31日現在、インドの総発電設備25,870万kWうち原子力は578万kWに過ぎず、半分以上が石炭火力である。今後20年間の目標として、原子力発電シェアを世界平均に近い約10%に増やすため、三段階の原子力計画を実施する方針。まずは急速な拡大が実現可能なところから核分裂性物質の在庫基盤を構築し、最終的には長期的なエネルギー安全保障を実現することになる。

 原子力は温室効果ガスを排出せずに数百年にわたってエネルギー安全保障を確保する可能性があるだけでなく、実績と信頼性のあるベースロード電源になり得る。設計から廃炉までの全段階を通じて安全性を優先する必要はあるが、インドは2051年に全発電設備の50%を原子力とすることを目指している。

 インドの原子力計画では(1)ウランを核分裂および親物質の両方に利用(2)トリウムの活用(3)持続可能性—が目的。持続可能性を追求する上で重要な検討事項であるクリーンさや長寿命核廃棄物の削減、経済性、原子力安全などを勘案した結果、環境への影響の最小化が可能なクローズド燃料サイクルを推進している。第一段階としてウラン235を原子炉で燃焼し電気とプルトニウム239を生産。次に高速増殖炉でプルトニウム239を燃焼して発電容量を拡大するとともに一部のトリウムをウラン233に転換。第三段階ではウラン233とトリウムを燃料とする原子炉利用を実施する。

 現在は第一段階にあり、18基の加圧重水炉(PHWR)と2基のBWR、および1基のロシア型PWR(VVER)でウラン燃焼による発電を実施中。福島第一事故後はインド原子力発電公社とインド規制当局がこれら既存炉の安全性を検討し、大規模な自然災害に耐えうる設計マージンがあることを確認。規制当局に法律上の独立性を付与するため、法案を国家に提出したほか、規制や指針のさらなる見直し、緊急時対応準備の強化を継続している。

 重要な優先事項はPHWRの建設サイトと軽水炉設備の拡大で、海外からの技術協力により100万kW以上の軽水炉建設に力を入れている。現在建設中の原子炉が2017年に完成すると、設備容量は1,008万kWに、また計画中の原子炉が2021~22年に完成すれば2,708万kWとなる予定。2032年では4,800~6,300万kWを目指しており、それ以降は高速炉で設備容量を増強するとともに、トリウム炉も活用する計画だ。

 高速増殖炉開発については、すでに1985年から電気出力1.35万kW実験炉(FBTR)が稼働中。50万kWの原型炉(PFBR)も燃料装荷の許可待ち段階に達しており、今年末にも臨界条件に達する見通しとなっている。

 ロシアの原子力総合企業ロスアトム社のK.コマロフ第一副総裁は、原子力発電開発最新動向について同社としてのビジョンを披露した。

ロシア 本セッションのテーマである「なぜ原子力なのか?」という課題は、実質的に、なぜ原子力のない世界で前進不可能なのかという課題と同じである。原子力は世界経済の安定的な発展に必要欠くべからざるものであり、その理由として以下の点があげられる。すなわち、(1)原子力抜きで今後数十年間に持続可能なエネルギー供給を保証できない(2)大規模な原子力開発は今日、CO2排出量の大幅削減に重要な貢献をすることが立証されている(3)原子力は現代の技術革新の原動力になっている――である。

 エネルギー資源の不足とCO2の排出量抑制という状況下で電力消費量の増加に対応するには、現実問題として原子力開発以外の選択肢はなく、太陽光や風力発電に集中的に投資したとしても、世界市場における全体的なエネルギー・ミックスは数年たっても今と変わらないだろう。原子力発電は最もエネルギー集約度が高く、過去20~30年間に世界のエネルギー価格が乱高下してきたことを考えると、この点は特に原子力発電の重要な利点と言える。

 世界では今、「新たな原子力ルネッサンス」ともいうべき傾向が表れており、原子力発電設備は現在の3億7,400万kWが2030年までに6億kW近くまで拡大すると予想されている。建設工事の大半は原子力開発がほんの初期段階にある国や地域で行われる見通しだが、原子力プロジェクトにおける顧客の要望にも明らかな変化が見られている。例えば、ベンダーは単に原子炉を建設するだけでなく、発電所のライフサイクル全般の課題に対する包括的ソリューションの提案が求められている。これには顧客が抱える人的資源や関連インフラ、法的および規制枠組み関連の課題も含まれる。当社は世界で初めて、そうしたソリューションの包括的な提案をプロモートしていることから、過去5年間に国外で受注した契約件数は減るどころか、大幅に増加した。

 バングラデシュなどの新興国では原子力導入自体が大きなステップであり、発電設備のみならず産業基盤や燃料の確保といったものが必要。これらすべてを一括して請け負うと言えたなら、その国にとって原子力は電力供給手段に留まらず、国としての経済開発のステップになり得る。そうしたニーズが現実にあるからこそ、ロシアではそうしたトータル・パッケージを提案するに至っている。

 日本との協力関係については、当社は2009年の政府間協定に基づいてウラン濃縮サービスの供給実績があり、日本のエネルギー企業の間で信頼できる供給業者としての評判を取得。福島第一事故後は様々なバックエンド施設について日本で展開することも考えており、日本の燃料サイクル市場で数多くの日本企業と互恵的なビジネス展開していきたい。

 駐日英国大使館のK.フランクリン原子力担当一等書記官は、エネルギー気候変動省(DECC)のヘイ原子力開発局長に代わって、「英国の民生原子力計画:将来のために実現を」と題する講演を行った。

英国 英国のエネルギー供給政策においては、三つの政策を同時に成立させる必要があり、それらは(1)2050年までに電力需要が倍増するため、信頼性のある強靱な電力供給が必要(2)2050年までに1990年比で80%、CO2排出量を減少させる必要がある(3)消費者の費用負担を最小化するとともに電気料金を下げる--である。このため、英国政府は電力市場改革に取り組んでいる。

 市場における以下のような変化は、新たなエネルギー投資が必要であることを示唆している。すなわち、2020年までに再生可能エネルギーの比率を引き上げるという法的取り決めや、同じ時期に既存の火力・原子力設備の25%が廃止措置になること、また、既存原発の多くが老朽化し、寿命延長段階にきていることなどだ。英国ではエネルギー・ミックスを予め指定するよりも、市場力学によってバランスが決定されることが最良と認識。市場予想に基づく2030年のエネルギー・ミックスでは、2024年から新たな原子炉が運転開始するとして、総エネルギー・ミックスにおける原子力シェア約20%は維持されるとみている。

 英国政府は2008年、低炭素で信頼性が高く安全な原子力発電所が将来の英国のエネルギー・ミックスに役割を果たせると判断し、2030年までに最大1,600万kWの設備新設を進めている。原子力国家政策声明書で指定済みの新設サイト8か所のうち、EDFエナジー社の子会社はヒンクリーポイントとサイズウェルで4基・640万kW相当の欧州加圧水型炉(EPR)新設を計画。日立製作所子会社のホライズン社はウィルファとオールドベリーで最大780万kWのABWRを、また、東芝が筆頭株主のNuGen社はムーアサイドで最大360万kWのAP1000を建設する予定である。

 これらが発電する電力には、差額決済方式の固定価格買い取り制度を適用する。ヒンクリーポイントC(HPC)に対しては、政府が1000kWhあたり92.5ポンドを行使価格として35年間支払うことが決定。市場の卸売価格がこれを下回った場合、政府がEDFに差額を支払う一方、逆の場合はEDFが差額を支払う。ただし、サイズウェルCサイトでの新設計画が確実になればHPCの行使価格は89.5ポンドに引き下げられる。

 ただし、新規の原子力事業者は新設計画について廃炉基金プログラム(FDP)を提出する義務がある。廃止措置を担保することは原子力に対する国民の支持構築に役立つと考えており、国務大臣がFDPを承認しない限り建設は認めらない。産業界でも多くの英国企業が新設計画に加えて、既存炉の廃止措置や寿命延長にも関わっている。