加速器中性子による医学診断用テクネチウム99mの製造実用化へ前進

2015年6月29日

 放射性同位体を結合させた医薬品を体内に投与してがんの診断を行う核医学検査で用いるテクネチウム99mを、「加速器中性子」による新たな方法で生成し、既存製品と同等の効果を確認したことを、日本原子力研究開発機構の研究グループが6月26日に発表した。テクネチウム99mのもととなるモリブデン99は現在、海外の研究用原子炉で主に製造されているが、施設の老朽化などに伴い、今後日本が必要量を定常的に確保することが課題となっており、今回の成果により代替生成法の実用化が期待できそうだ。
 核医学検査は、放射性同位体を含む医薬品が疾病部位に集まりやすい性質を利用し、対外から放射線を専用カメラで検知し分布状況を画像化することで検査を行うもので、がん細胞がどの程度まで進行し広がっているかを調べるのに役立っている。検査で用いられる放射性同位体としてはテクネチウム99mが最も多いが、その親核種であるモリブデン99は、ウラン235を90%以上に濃縮した高濃縮ウラン(HEU)ターゲットを原子炉内に挿入し、燃料の核分裂反応により発生する中性子を用いてU235を核分裂させる「HEUターゲットによる核分裂法」が主流となっている。しかしながら、製造に供する原子炉の老朽化や米国による核不拡散政策の問題から、モリブデン99の代替生成法の確立が世界的に課題となっている。2010年には、アイスランドの火山灰による欧州の空港閉鎖により、モリブデン99の輸入が停止し供給体制のリスクが露呈する事態となった。
 これらの経緯から、原子力機構は千代田テクノルなどと協力し国内製造に向けた研究開発を進め、2011年に、小型加速器から発生する重陽子ビームを炭素などの標的物質に照射して生成する高速中性子「加速器中性子」を用いてモリブデン99を生成し、昇華温度の違いを利用してテクネチウム99mを高純度で分離抽出することに成功した。今回、原子力機構は、その純度が放射性医薬品基準をクリアしていることを確認するとともに、骨診断用医薬品を用いたマウス生体内分布画像が既存のテクネチウム99m製品と同等であることを明らかにした。