「大洗原子力夏の学校」、大型ホットラボ施設が集結する利点活かし多彩な実習体験

2015年9月2日

 原子力に係る廃止措置や安全性向上について、実際に作業を体験させることで、実務の正確なイメージを持つことができるよう指導する人材育成の取組が、毎年夏に茨城県の大洗町で行われている。「『最先端の放射線管理区域内実験装置』を利用した実習体験」を掲げ、東北大学、日本原子力研究開発機構、日本核燃料開発(株)、日本原子力発電(株)の4つの機関が協力して実施する「大洗原子力夏の学校」だ。
 「原子力発電所はいかなる事情よりも安全性を最優先」、「福島第一原子力発電所や老朽化した原子力発電所の廃炉を安全かつ円滑に進めていく」、「原子力先進国として周辺国の原子力安全を向上させる」、これらを実現するため、高いレベルの原子力技術・人材の維持・発展を図る経済産業省の「安全性向上原子力人材育成委託事業」は、地域ごとに特色ある人材育成拠点の構築・発展を目指すのが特色だ。

テトラアーク炉によるアクチノイド化合物作成実習(東北大学)

テトラアーク炉によるアクチノイド化合物作成実習(東北大学)

 「大洗原子力夏の学校」も、その事業の1つで、基礎講習に加え、東北大学の金属材料研究所附属量子エネルギー材料科学国際研究センター、原子力機構の大洗研究開発センター、日本核燃料開発(株)が、大洗に位置し互いに隣接している特色を活かし、これら3機関の大型ホットラボ施設を用いて、放射線管理区域内作業の実習を行う。また、日本原子力発電(株)では、東海総合研修センターを用いて、原子炉シミュレータ体験、ポンプ、弁などの訓練用系統の実設備運転体験といったより原子力発電事業に密接した実習を行う。今年度も8月3~7日、全国から37名の学生、社会人が大洗に集まり、1週間の講義・実習が行われた。

 「大洗原子力夏の学校」プログラムの中核となるテーマ別実務教育は、廃止措置関連と安全性向上関連に大別されるが、このうち、安全性向上関連では、原子力機構の持つ3つの原子炉(JMTR、HTTR、常陽)の他、東北大学の量子エネルギー材料科学国際研究センターが柱としている材料研究、物性的研究に関する施設も用いられる。例えば、アーク溶解炉を用いて、ウランなどのアクチノイド、ランタノイドを安全に取り扱いながら、化合物を合成し精密評価を行う一連の手法について、実習生は最前線で活躍している研究者から直に学ぶ。この他、金属材料の照射試験技術および照射脆化の評価に関するテーマでは、同学の透過型電子顕微鏡(TEM)などの最先端機器が用いられており、研究者らは実習生に「実際に触れてもらう」意義を強調している。

装備を身に着け、工具類の取扱いを体験する廃止措置実習(原子力機構)

 一方、廃止措置関連では、原子力機構の施設で廃止措置に従事している技術者らが、原子力施設特有の安全管理について指導しながら、実習生は、実際に装備を身に着け工具類を手に取り、廃止措置作業で行わる配管の切断などを体験する。また、日本核燃料開発の施設を利用して、福島第一原子力発電所の廃炉に必要な研究開発項目にあげられている「模擬炉内損傷燃料を用いた特性試験」に関連し、実際に核燃料物質を用いた実験を経験させ、核燃料物質や原子炉に対する安全取扱い・管理能力を養うなど、将来の燃料デブリ取り出しも見据えたプログラムとなっている。

模擬デブリの組織観察を行う走査電子顕微鏡(日本核燃料開発)

模擬デブリの組織観察を行う走査電子顕微鏡(日本核燃料開発(株))

 「大洗原子力夏の学校」のコーディネートに当たる東北大学の小無健司准教授は、他にも大洗のホットラボ施設では、高専学生向けインターンシップなど、多彩な人材育成プログラムが行われており、これらを通じ、全国から集まる学生たちのコミュニケーションにもつながっていることをあげながら、「今後も社会人や原子力以外の人たちにもアピールできるようなプログラムを提案していきたい」と話している。