SNWシンポジウム 多大なエネルギー安全保障効果持つ原子力発電は今後も必要

2015年10月5日

SNWsymposiumIMG_6325 日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)第16回シンポジウム「エネルギー安全保障は原子力が柱」が10月3日、東京工業大学で開催された。
 小川博巳SNW会長は開会挨拶で、「エネルギーの安全保障」は国の最も重要な課題であるにも関わらず市民目線で極めて捉えがたいテーマだが、全力を尽くして国民の理解を得ていかなければならないと主張した。
 前半の基調講演では、山名元・京都大学名誉教授が「我が国のエネルギー安全保障と原子力」と題して、日本のエネルギー政策について包括的に説明した。液化天然ガスの国内在庫は約14日であるのに対しウランは約2.7年と高い備蓄効果を持つことや、発電コスト構成で燃料費がほとんどを占める天然ガス火力に対して原子力発電では資本費や運転維持費等支払先は国内中心となることなどの例を挙げ、多大なエネルギー安全保障効果を持つ原子力発電は国益として確保していかなければならず、新増設やバックエンドなどに関わる様々な課題を乗り越えていく必要があるとした。
 続いて作家の川口マーン恵美氏は、ドイツでの放射性廃棄物を列車で移送する時の線路座り込み等のデモ運動や立場を異にする政党の連立など40年以上にわたる反原発の歴史をたどりながら、ドイツ国内の脱原発事情はどう見ても政治的決定であると断言。結果として、エコでクリーンであることより儲け主義に走っている太陽光発電や、計画通りに稼働したら買い取り価格が莫大となってしまう風力発電など、不均衡をもたらしているドイツのエネルギー事情について説明し、日本は日本の道を歩むべきと力説した。
 元東京電力の早瀬佑一氏をモデレーターに迎えた後半のパネル討論では、秋元圭吾・地球環境産業技術機構主席研究員が、原子力発電所事故のリスクは大きいがそれ以上の危険をもたらすかもしれない地球温暖化リスクなどが気づかないうちに高まっていることを危惧。気候安定化をめざすには特に発電部門で二酸化炭素ゼロ排出に近いレベルが求められることなどに触れ、今後必要とされてくる原子力発電所リプレイスなどのリードタイムを考えると時間の余裕は多くないと訴えた。
 諸葛宗男・元東京大学大学院特任教授は、国際原子力機関(IAEA)が2007年に行った総合規制評価サービス(IRRS)の勧告10項目について、まだ3項目しか改善されたと言えないとの自身の評価を示した。日本の原子力規制委員会はまだ発足3年で比較するのは酷だが、米国での原子炉安全諮問委員会(ACRS)が規制委員会(NRC)と同時並行的に審査を行うシステムや、事業者に依存せずに審査を行える実施経験豊かな規制人材の育成などを日本も学んで取り入れていくことが最善だとした。
 井川陽次郎・読売新聞論説委員は、一部のメディアによる報道や電力会社広報の情報の出し方などにより多くの国民がエネルギー安全保障や電力安定供給の危機的状況を正確に理解しておらず、生理的拒否反応や情緒的反応をもとに原子力反対を表明していることを説明。政府や事業者および専門家については、信頼回復に向けて個別の疑問に丁寧に応えて続けていくしかないのではとの考えを述べた。一方マスコミに対しては、事実を公正・迅速に報道し、国民の正しい判断を導くよう努めることを提言するとともに、新聞やテレビなど既存のメディアでは若い人には届かない現状も指摘した。
 川口マーン氏は、ドイツは道徳的に正しくありたいという理想志向が強く、時に冷静さをかなぐり捨てて実現性の乏しい方向に進み失敗するケースも多いとして、「ロマンチストは危険」と日本がドイツの脱原発方針に追従することに警鐘を鳴らした。
 小川博巳SNW会長は、2014年12月のNHKスペシャル「メルトダウン・知られざる大量放出」で事実と反する内容が放映されたことについて、SNW、エネルギー問題に発言する会、EEE会議有志などがNHK会長に抗議し、放送倫理・番組向上機構(BPO)に申立を行っていることについて報告。専門家側もメディア対応時に報道趣旨を事前に確認することや提供情報の使われ方などを確認することなどを心得るべきだと提言した。
 金子熊夫エネルギー戦略研究会会長は閉会の挨拶で、エネルギーの議論でベースとなる数字を共有することの大切さや、日本の規制側の人材育成には工夫が必要なことなどに触れながら、今後も原子力があってこそエネルギー供給の安定が得られ、国家や社会の安泰が確保できることを伝えていきたいとした。