特集:世界原子力大学(WNU)夏季研修 参加者たちの声 自身の視野広げるきっかけに

2015年11月4日

 2015年世界原子力大学(WNU)夏季研修が7月4日から8月14日の6週間、スウェーデンのウプサラ大学で開催された。講師は総勢20名で、日本からはメンター(講師およびグループワークサポート)として尾本彰・東京工業大学教授が参加、また増田尚宏・東京電力福島第一廃炉推進カンパニー・プレジデントも講演を行った。参加者は36か国からの、規制当局、研究機関、事業者、などに所属する24歳から40歳までの若手が68名(男性47名、女性21名)。日本からは7名が参加し、原産協会は「向坊隆記念国際人育成事業」として電力・メーカーからの4名の参加費を助成した。
 WNU研修は主に午前中に講義、午後に小グループに分かれての議論およびプレゼンテーションが行われた。第3週目にはテクニカルツアーが開催され、バーセベック原子力発電所、リングハルス原子力発電所、オスカーシャム原子力発電所、エスポ岩盤研究所、フォルスマルク最終処分場、ウェスチングハウス燃料工場を視察した。また研修後や週末には、パーティーや観光、バーベキューやカラオケなどのアクティビティを通じて他国からの参加者と交流を深めた。研修後それぞれの国へ帰ってからもソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などを通じて参加者同士の絆を深めている。
 ここでは、向坊隆記念国際人育成事業助成を受けてWNUに参加した4名と、日本原子力研究開発機構から参加した嶋田氏の声を紹介する。(10月20日既報)

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 参加者5名による原産協会での報告会

東芝電力システム社原子力安全システム設計部 磯部陽介氏
 WNU研修でのディスカッションは日本と異なりスピードが速く、多くの参加者は積極的に主張するため、発言の切れ目にすかさず主張しないと自身の意見は簡単に埋もれてしまうことに苦労した。そのため、要所で議論の内容を確認しながら進め、参加者の理解度と議論の方針を確認しておくこと、日本での常識が通じないことを肝に銘じ、結論と根拠を簡潔に発言することを心がけた。講義では安全文化を考える手段として、事故の原因究明や再発防止への取り組みについて古い歴史を持つ航空機事故を例に紹介するケースが多く、原子力事故を考える際にも参考にすべき部分が多いと感じた。WNUの総まとめとしての最終プレゼンテーションでは、プロジェクトを動かす力を総合的に訓練できたように感じる。諸外国の仲間とゴールを設定し、問題を切り分け、仕事を分担してプレゼンまでの準備を進めたことは大きな自信となった。WNUの研修を通じて、原子力に係る様々な側面について多様なバックグラウンドを持つ参加者と共に学ぶことで自身の視野が大きく広がったと感じている。同じ業界で働く同世代の参加者との交流を通じて大いに刺激を受け、彼らとのネットワークを構築できたことも大きな収穫だった。

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  スウェーデンのウプサラ大学ⓒウプサラ大学

関西電力原子燃料サイクル室原燃契約管理グループ 金澤聡子氏
 これまで原子力分野に関しては燃料調達という狭い知識しかなかったため、事前勉強を含めて、炉型や新規制基準への対応の方向性や状況等について知識を得ることができたのは全体像を把握する上で非常に有意義だった。また議論を通じて、導入国側と輸出国側の原子力に対する意識の違いを再認識したほか、事業者、規制側、研究機関、サプライヤーとそれぞれ視点が異なっていることに気づき、自分の盲点を実感することができた。原子力安全についての講義では、自らの取り組みのみが「ベストプラクティス」だと考えるのではなく、常に他者の取り組みや意見を取り入れる柔軟性および向上心を持つことが大事だと感じられた。震災以降、世界中が日本の原子力政策や電力会社の取り組み動向に注目しており、トライ&エラーの過程も含めて取り組み内容を世界に発信してフィードバックを得ることも有意であり、日本語のみならず英語で対外発信することが重要であるのも実感した。WNU研修での議論や発表を繰り返す中で、自分の意見を速やかにまとめて説明する瞬発力が鍛えられ、今後国際的な場で議論を進める上での良い訓練となった。

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経験豊富な講師陣によるレクチャーⓒWNU

日立GEニュークリア・エナジー燃料サイクル部原子力化学システム計画グループ 北本優介氏
 WNU研修の中で、福島第一原子力発電所事故後の世界の認識として、日本の原子力産業は衰退しており国際的には最前線から後退しているという印象を持たれているのを感じた。一方で、福島の復興や既設プラント再起動、新設再開などを含めた日本の原子力産業の復興についての関心は高く、自国の原子力政策の方向性決定の材料として認識している国もあった。原子力産業の海外展開を考えると、ロスアトムなどの主要な原子力輸出企業は、設備納入や運転に加えて廃棄物や使用済燃料の引き取りや中間貯蔵の引き受けも可能とするなど、核燃料サイクル全体をマネージして支援可能な点を売りにしているのに対し、日本勢はメーカー単独での設備輸出が主で核燃料サイクル全体のソリューションを提供できる体制とはなっていないため、今後政府や電力およびメーカー等の連携によるトータルソリューションを提供することが課題であると考えた。また、特に新興国に原子力発電所を設置する場合には、他国の原子力サプライヤーとの競争のみならず、関連インフラの設置などの初期投資コストを踏まえて、火力/水力等/再生エネルギーといった代替エネルギーソースとの競争に打ち勝たねばならず、優良技術の提供およびコストダウンによる競争力強化に加えて政府と連携したファイナンス獲得支援などで、原子力導入に対するモチベーションを高めることが必要だと感じた。

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テクニカルツアーでエスポ岩盤研究所訪問ⓒWNU

三菱重工業原子力事業部炉心・安全技術部炉心技術課 小池武史氏
 WNU研修では、様々な専門分野を持つ参加者が集まったため、グループワークで与えられる一つの課題に対しても多様な回答が得られた。導入予定の国の参加者は規制やプロジェクトの枠組みに関心を持つ一方、導入済みの国の参加者は最終処分やパブリックアクセプタンスに興味を示すなど、原子力に対する国のスタンスによって観点が違うことも印象的だった。自身の専門分野以外の知識を得られるだけでなく、国・文化・専門分野の異なる参加者からの視点・考え方を理解することができ、原子力に関する広い知識に加えて原子力に対する姿勢・考え方の観点からも視野が広がった。WNU研修中に川内原子力発電所1号機が再稼働を達成したのを機に、日本の参加者からの情報提供の要望があり、発表したところ他の参加者から沢山の祝福の言葉が返ってきた。日本の原子力情勢を海外の方に理解してもらうためには、国内で起きていることを国内に留めるのではなく海外へ発信していく強い意識を持つことが重要だと学んだ。通常の業務では得ることのできない知識の習得や体験を経験し、参加者およびメンターと良好な関係を築くことができた。また、こうしたつながりを築き上げ、バックグランドの異なる参加者と対等に議論できたことは大きな自信につながった。今後、グローバルな舞台の原子力産業で活躍するうえで必要な基盤を確立することができたと思う。

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 2015年WNU夏季研修修了生ⓒWNU

日本原子力研究開発機構安全研究センターリスク評価ディビジョン放射線安全・防災研究グループ 嶋田和真氏
 WNU研修当初は英語ネイティブ同士の議論についていけないことが多く、国際社会の厳しさを経験した。入念に準備をしてきてもテーマをその場で変えられてしまうなど、会話中は一瞬たりとも油断がならなかった。英語力だけでなく、的確な状況判断と短い言葉で明確に伝える技術の必要性を実感した。研修が進むにつれ、発言者がネイティブに偏らないようリーダーに立候補し、ネイティブ以外の参加者が議論に円滑に参加できるようファシリテーターを務めるなどの工夫をした。またシンプルな言葉で伝え明瞭に発音することを心がけ、専門知識が生かせる分野では議論をリードできた。講義および議論ではリーダーシップについてのテーマが印象に残っており、自身はいろいろなタイプのリーダーがいてよいと思うが、少なくともビジョンを示すことが必要な条件であると考えた。発表の際には、身近な事故のVTRを制作したりそれぞれ役割を決めて寸劇を入れたりするなど、各グループがユニークな試みを行った。研修を通じ原子力の体系的な知識や異なる国と文化に対する理解を得られたほか、世界で通用するためのリーダーシップとコミュニケーション能力についても学ぶことができた。

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 2016年WNU夏季研修は6月28日から8月5日まで、カナダのオタワで開催されることが決まっている。