【第49回原産年次大会】セッション1後半:専門家、慎重な市場設計を訴え

 初日午後に開催されたセッションでは、午前に引き続き山下氏がモデレーターを務め、スイスのAlpiq電力の渉外担当官、W.デンク氏と、米国で著名なエコノミストであるE.キー氏が登壇した。

ALPIQ 「ドイツの脱原子力から何を学べるか」と題して講演したデンク氏は、ドイツで拡大する風力や太陽光発電といった再生可能エネルギーが、近隣諸国にどのような影響を与えるかを、実際の需給例を用いて説明。
 デンク氏によると、太陽光も風力も自然に依存する特性上、ほとんどが系統運用上は信頼できない。数字で見ると8,600万kW分の設備容量が、ドイツの系統運用上はカウントできず、需給調整にまったく貢献できていない。そして見かけ上の発電電力量は増えているが、ドイツの国内消費電力量は横ばいであることから、電力需要の有無に関わらず、余剰分は強制的に近隣諸国へ輸出されることになると解説した。
 そして電力輸出は、近隣諸国が自分たちの設備を止めて、ドイツの再生可能エネルギーからの電力を受け入れなければならないということであり、これではドイツが国内で実施すべき需給調整を、近隣諸国にアウトソーシングしているだけだと厳しく批判した。
 また、ドイツでの再生可能エネルギーに対する過度な補助金についても言及。すでに電気料金のうち8割は税金、補助金、託送料金等、連邦政府の管轄下に置かれており、市場の影響力は2割に過ぎないと指摘。「これでは市場経済ではなく計画経済だ」と痛烈に皮肉った。
 スイスはドイツから様々な影響を受けており、スイス国内では既存の原子力発電所の運転期間を45年に設定するべきかどうかを問う国民投票が、今年の11月に実施される予定で、楽観は出来ない状況だという。

Kee キー氏は「世界の原子力と電力改革の経験」と題し講演。100年以上の歴史を持つ電力が、市場中心の電力取引が主流となるにつれ、「コモディティ商品(安ければ何でもいい)に成り下がってしまった」と指摘した。
 キー氏は、「市場が短期限界費用を最小化することのみに専心する」ためだと原因を説明。市場の時間軸はあくまでも短期であり、従来のように長期計画に基づいて、原子力発電所の新設や送電インフラ等といった長期投資を実施することは、市場では歓迎されないと解説した。
 そしてコモディティ化により、スポット価格で安いものが価値があると見なされる市場では、温暖化防止面での原子力発電のメリットや価値が正当に評価されていないと批判。そのため米国では、既存の原子力発電所が経済的な理由により閉鎖を余儀なくされており、原子力発電所が他のインフラと同様に国家にとって重要な資産であることを鑑みると、これは明らかに市場設計の失敗、システムの欠陥であると指摘した。
 そして電力自由化時代を迎える日本に対して、政府が強いリーダーシップを発揮して原子力の価値を認識するべきだと強調した。