学術会議、「食と放射線リスクコミュニケーション」をテーマにシンポ
東日本大震災・福島第一原子力発電所事故からの復興に向け、食料品に係る生産、流通、消費者意識などの問題について考えるシンポジウムが7月4日、東京・港区の日本学術会議本部会議室で行われた。2012年より、これまで主に福島県内で農業、漁業の従事者らと行ってきた意見交換を踏まえ、今回は、発災から5年を経過し今なお根強い風評問題に鑑み、「食と放射線リスクコミュニケーション」をテーマに総合的に議論した。
シンポジウムでは、まず福島県立医科大学医学部教授の長谷川有史氏が登壇し、福島では学校給食を中心に食品に対する不安が残っている現状を述べ、「福島の住民が自ら『負のレッテル』を貼ってはいないか」などと憂慮した上で、「国民一人一人が測定器を使い、放射線に関して自分自身の『物差し』を持つべき」と議論に先鞭を付けた。
被災地住民とのリスクコミュニケーション活動については、川内村を拠点に活動する長崎大学原爆後障害医療研究所助教の折田真紀子氏が、各地区に食品検査場を設置し科学的評価に関する理解促進に努めているほか、特に放射能を蓄積しやすいキノコに関しては、放射性セシウム濃度の分布を記録する「キノコマップ」を作成していることなどを報告した。
一方、関東・関西の市民を対象とした調査研究に基づき、「双方向リスクコミュニケーションモデル」を提唱した京都大学農学研究科教授の新山陽子氏は、「市民の知識は情報環境に制約される」と述べ、震災以降高まった政府やメディアに対する不信感から、市民は個人で情報を収集しリスクに対する強いイメージを形成したとして、専門家に対し「人々は何を疑問に思っているのか」をまず知り、それに答える情報を提供すべきと訴えた。
この他、流通業界から、日本生活協同組合連合会安全政策推進部長の鬼武一夫氏が、市民と食品中の放射性物質問題への取組として、震災後、東北地域の組合員を中心にのべ2,000世帯で実施してきた普段の食事を用いるいわゆる「陰膳調査」について報告するなどした。
これらを受け、地域経済復興に関して、水産物市場に詳しい東京大学農学生命科学研究科准教授の八木信行氏は、被災地の漁獲高の回復傾向を示しながら、福島県と他の被災県との復興格差を指摘し、流通力やブランド力を再構築するための本格操業、全国的なトレーサビリティや、「女性が浜に戻れる仕組み」として人材確保・育成の必要などを訴えた。また、福島第一原子力発電所の汚染水処理で貯留されているトリチウムを含む水の放出について、八木氏は、漁業関係者に強い反対意見があることに加え、新山氏の研究報告にも触れ「消費者に直感的拒否感があるのでは」として、問題解決の困難さを述べた。