原子力機構、世界の公衆宇宙線被ばくで線量マップ作成

2016年9月30日

 日本原子力研究開発機構は9月29日、公衆が受ける宇宙線による被ばくについて、世界の各地域別の評価に基づく線量マップを作成し、世界平均は0.32mSv/年で、これまでの「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」(UNSCEAR)による評価値より約16%低かったなどとする研究成果を発表した。
 地球上には、宇宙からの放射線(一次宇宙線)、それが大気との反応で生じる放射線(二次宇宙線)、大地からの放射線などが存在するほか、人は放射性核種を呼吸や食事を通して摂取しており、このような人が受ける自然放射線のうち、約16%は宇宙線によるものとされている。また、宇宙線による被ばく線量は、大気層の密度や地球の磁場構造の違いにより、標高の高い地域や極地方で高くなる傾向にあり、土壌なども影響して地域ごとに複雑に変化する。
 原子力機構の放射線挙動解析グループでは、独自に開発した宇宙線強度計算モデルと、全世界の標高データとを組み合わせ、地表面での宇宙線による被ばく線量マップを作成し、そのマップと人口データベースとを重ね合せることで、公衆の宇宙線被ばく線量の人口平均値や分散を230か国に対して評価した。その結果、被ばく線量は、米国やロシアなど、比較的緯度の高い国で高く、バングラデシュ、インド、ナイジェリアなど、赤道付近の国で低くなることが示された。最も高かったのは高地に人口が集中するボリビアの0.81mSv/年で、最も低いシンガポールの0.23mSv/年と比べ約3.5倍の開きがあった。日本は、平均値で0.27mSv/年と世界全体で153番目に高く、最小値は沖縄県波照間島の0.24mSv/年、最大値は富士山頂付近でボリビアの平均値に比肩する0.86mSv/年だった。さらに、今回の評価では、全世界の平均値が、UNSCEARの評価値より約16%低い0.32mSv/年であることも示され、評価値の差について、本研究グループでは、より高い精度計算モデルとデータベースを利用したことに起因するものとみている。
 本研究成果により、自然放射線のうち、宇宙からの寄与を詳細に把握することが可能となり、福島第一原子力発電所事故により放射線被ばくへの関心が高まるところ、今後の線量評価における国際標準の検討に向け基礎データに資することが期待されそうだ。

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地表面での宇宙線による被ばく線量率マップⓒJAEA