原子力学会SNWシンポジウム 不信感の払拭に向けて発信力の強化を

2016年10月17日

img_8088 日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)第17回シンポジウム「エネルギーは我が国の生命線/このままで大丈夫か」が10月15日、東京工業大学で開催された。
河原暲SNW会長は開会挨拶で、原子力技術の推進のためには、人々の理解と合意を得た上でバランスのとれた政策を決めていく必要があるとし、原子力エネルギー分野への正しい理解を得る努力を継続して行っていくことが基本であると述べた。
 基調講演では、石川和男NPO法人社会保障経済研究所代表が「原子力の正しい進ませ方とやめさせ方」と題して、原子力に対する庶民感覚として、マスコミやネットで煽られた漠然とした不安や政治的な原子力容認が賞賛されない空気が蔓延していることを指摘。こうした中で原子力を進めていくためには、原子力容認派自ら全ての原子力発電所はいずれ廃炉になるという当然のことを語り、福島第一原子力発電所事故は正しく緊急停止した後の停止中の事故であって再稼働は危険でないと、繰り返し説明し説得していくことが必要だと強調した。その上で安全な廃炉に向けて安い原子力発電で資金を貯めておく必要性に触れ、原子力も化石燃料も過渡的なものとして将来は再エネ100%化を目標とする意見を否定しないことなどが重要であるとした。また原子力を応援するには、精神論だけでなくヒト・モノ・カネが必要であり、一般大衆向けの映像メディアを作るなどの発信機能が必須だとの考えを示した。
 続いて諸葛宗男元東京大学大学院特任教授が、「原子力発電の安全性はどこまで向上したか」と題した基調講演を行った。多くの国民がまだ大きな不安を抱いているのは原子力発電がどれだけ安全になったのか分からないためで、国や電力会社の説明では安全性が高まった(Safer)ことには触れていても「安全性が十分(Safe Enough)」であるとは書かれておらず、安全指標の最重要指標である「安全目標」が未決定である点が問題だとの考えを示した。また福島第一原子力発電所事故の原因について、国会事故調査委員会では地震による配管破断だった可能性を指摘しているが、原子力規制委員会では津波によるものとしてこれを完全に否定していることをきちんと説明して、事故原因が未解明との風評を払拭すべきだとした。さらに国民は原子力発電所の安全とともに、事故後の早期電力復旧などその他の安全についても期待していることも言及した。
img_8115 後半は、早瀬佑一SNW/エネルギー・環境研究会代表をモデレーターに迎え、パネル討論が行われた。木村浩特定非営利活動法人パブリックアウトリーチ研究統括は、原子力への認識や判断(社会的受容性)は、ベネフィット認知、リスク認知、信頼の3つの要素から形作られるとし、情報源がメディア一択となってしまっていることに懸念を表明しつつ、事実が決定する過程についても知ることの重要性を説明した。村上朋子日本エネルギー経済研究所研究主幹は、原子力政策の方向性を「いかなる事情よりも安全性を優先」としては目標がないためいつまでも際限がなく、2011年以降にエネルギー安全保障、経済性、地球温暖化対策を取り巻く状況がいずれも悪化しているデータを示しながら、原子力の役割なしに3Eを達成するのは困難であるとの見方を示した。大江弘之弁護士/キュービック・アーギュメント代表は、日本の高速増殖炉開発について、中核的技術を抽出して日本の強みや国産化すべき部分を明らかにした上で、海外技術の利用や共同開発の機会も活かしていき、強い政治リーダーシップを持って核燃料サイクルを完成させていくべきだとした。
 金子熊夫EEE会議代表は閉会の挨拶で、原子力に対する国内世論は未だ厳しいものの日本にとって原子力発電は不可欠であり、SNWでもネットを活用したり政治家へ提言したりするなど発信力を強化しながら、少しでも国民の間に建設的な議論を広げていくことを求めた。