東京都市大学 設立10年を迎える原子力安全工学科 実践的授業で高い就職内定率

2017年2月2日

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 横堀誠一教授

~工学部 原子力安全工学科 横堀 誠一 教授に聞く~

<学科設立10年目を迎え入学定員数を1.5倍に増員>
 東京都市大学工学部の原子力安全工学科は2008年に開設され、2017年4月より10年目に入る。本学科は、都内の大学で原子力を冠した唯一の学科であり、30人だった入学定員をこの4月から一気に45人に増員して募集している。
 学科の設立は福島第一原子力発電所事故前であり、これからの原子力を担っていく人材が必要になるという電力会社やエネルギーメーカーの需要が背景にあった。しかし福島第一原子力発電所事故後でも、原子力エネルギーは必要という社会的なニーズはある程度維持されていると思うので、本学科でもその時その時の社会の情勢を反映しつつ対応しながら、次の10年間も確実に維持できると考えている。
 福島事故後、原子力関連業界においては健全炉の廃止措置や事故炉の廃炉など仕事の重点内容が変わってきて、日本国内でも新たな次世代プラントの建設が困難な状況になっている。本当に新しい仕事をやりたいという学生は、将来外国で仕事をする可能性も視野に入れて考えていかなければならない。本学では語学教育に力を入れ、希望者は4年間の在学中に約半年間オーストラリア語学研修へ行くことができる。
 東京都市大学工学部原子力安全工学科は設立後まだ約10年だが、東京都市大学の前身である武蔵工業大学は1960年に原子力研究所を開所し、そこから60年近い歴史がある。川崎市麻生区王禅寺地区では原子炉は廃止措置中であるものの、今も炉本体以外の施設や設備を利用することができ、大学での原子力教育を担ってきたプライドも持っている。
 本学科のこれまでの運営に対しては、「原子力の安全性を特に求めた教育を主眼に置いた人材育成のための専門性ある安全工学科および共同大学院の設立と円滑な推進」を認めていただき、2015年度の第48回日本原子力学会貢献賞を受賞している。

工学部原子力安全工学科(10号館)

<電力会社や大手メーカーほか就職内定率に高い実績>
 これまでの卒業生を数えると、社会に200人くらい送り出していることになる。就職内定率はほぼ100%で、しかも相当早い時期に100%に達する上、1人で内定を複数獲得する学生が多い。また、大学院への進学率も学内では本学科がトップであり、6割ほどが進学する。
 現在原子力を扱うほとんどの電力会社に本学からの就職実績があり、原子力発電所を持つ全ての電気事業者へ本学科の卒業生を送り込みたいと思っている。東京電力には一昨年5人が就職した。学生を連れて電力会社のツアーなどに行っても、よく本学の卒業生が出迎えてくれ、教員も在学中の学生も心強く感じている。原子力関連メーカーに関しても、毎年本学から採用していただいている日立製作所を始め、系列会社を含めると相当数が就職している。電気事業者やプラントメーカーばかりでなく、放射線管理や放射線計測機器メーカーへの就職実績も上げている。さらに、原子力規制庁や日本原子力研究開発機構(JAEA)のほか、原子力関連企業以外でもトヨタやキヤノンなど大手メーカーへも就職している。
 在学中に各種の資格を取得する学生も多く、2年生で放射線取扱主任者試験第一種を取得する人も出てきている。また原子力の学科として日本で初めて日本技術者教育認定機構(JABEE)認定の審査を受ける計画が進み、審査が承認されれば、2017年度入学生からJABEE認定プログラムの修了生として卒業時に技術士(原子力・放射線部門)の一次試験が免除されるようになる。

 河原林順教授の放射線計測研究室

 大学の真価が問われるのはやはり教育と研究だ。4年間で専門性を持った社会人として送り出すため、教える側も学ぶ側も互いに気を引き締めなければならないと感じている。教員についてもその道の第一人者と言われる方の雇用に努めている。原子力発電三大メーカーや電力出身の教員も多く、産業界の情報も常にキャッチアップしている。
 当学科は原子力機械を扱う側面があるので、知識として学ぶだけでなく、自分の手を動かして作業することで理解が深まるため、ものづくりに取り組むことも重要だ。はんだごてなどを使った作業のほか、旋盤にも取り組み、塊になっている鉄を削っていく中で、金属材料も壊れたりヒビが入ったりするということを体感する。泥臭い部分ではあるが、こうしたことを体験して理解した上で原子力システムや燃料棒などの設計を行うのが工学の本質だと考えている。
 コミュニケーションについても講義に取り入れて、ディベートなどの授業を通じて自分をアピールする能力も身についていく。国内大手自動車メーカーに就職した学生は、車が好きなことは勿論だが、車も原子力も安全が重要、さらに車も原子力も熱流体が関係する分野であるとの3点を前面に出して面接に臨み、内定を勝ち取った。他産業に共通なこともあるようだ。リスク関連の授業では、原子力事故が起きた時にどういう説明をするのかなどグループ討論を行い、それぞれが発表してみんなで意見を交換する。また、原子力を学ぶ上で、放射線の知識は必須であり、カリキュラムにもしっかり組み込んでいる。霧箱やシミュレーターなどを使った実践的な授業も多い。
 昔は研究室と教授室が離れていたが、今は研究室と教授室が隣接しており、いつも学生の様子を見ることができる。卒業した先輩たちも何かにつけて研究室に遊びに来る。研究室はみんな仲が良いが馴れ合いになるというわけでもなく、日々切磋琢磨できる環境となっている。

<世界に向けて東京都市大学のビジョンを発信>
 東京都市大学の大学院を修了すると、共同運営の早稲田大学と本大学の両総長の印鑑が入ったダブルネームの修士証書が発行される。早稲田大学とは、毎年秋には両大学主催のシンポジウムを開催し、学外に向けても本学科のアクティビティを披露する取り組みを行っている。昨年度は廃炉、今年度はもんじゅと、タイムリーな話題を取り上げているので、マスコミもシンポジウムの取材に来ている。
 これから大学進学を考えている高校生に対しては、本学オープンキャンパスの際に研究室のデモンストレーションを行っているほか、教員や学生が高校に出向いて原子力発電の仕組みなどについて説明する出前授業を実施するなど、原子力に興味を持ってもらう機会を作っている。学園祭で本学科が開催したサイエンスカフェは、学内で最も来場者が多かったイベントになった。
 これまでの10年とこれからの10年では、教える側も学ぶ側も社会も全て変わっていくと思うが、東京都内で原子力教育に取り組む学科として、どのようなことを考えてどのように教えているのかというビジョンを世界に向けて発信していく必要があると考えている。

<原子力安全工学科で学ぶ学生たちの声>
杉浦辰則氏 4年生
 私は昔から教職志望で、理科の教員資格が取得できる大学として東京都市大学に入学した。最初は授業も難しいことだらけだと感じたが、原子炉シミュレーター実習など実践的な内容も多く、興味を持って取り組むことができた。来年度から中学校で理科を教えることになり、自分の世代では教わらなかった原子力の分野も学習指導要領に入ってきているので、大学で学んだ知識を活かして、エネルギーについてきちんと理解してもらえるよう教えていきたい。
木島直人氏 4年生
 理系の工学部を複数受験した中から東京都市大学を選んだ。周りは原子力について勉強したいからこの学科に決めたという人が多く、仲間にいろいろと教えてもらいながら4年間学んできた。わからないことがある時には教授室にもよく駆け込んでいたが、じっくりと説明してもらうことができた。自身は車が好きでサークルも自動車部に所属しており、4年生となった4月初旬には部の先輩も働いている外資系自動車メーカーに就職先が決まった。上司も外国人という環境となるが、頑張っていきたい。