原子力と安全について考えるワークショップ、コミュニケーションのあり方など議論

2017年2月24日

 原子力と安全について考えるワークショップ(資源エネルギー庁主催)が2月23日、都内のホテルで開催され、「原子力のリスクを適切に管理する」考えのもと、産業界の取組、リスク情報を活用した意思決定、社会からの信頼回復に向けたコミュニケーションのあり方などを中心に、海外の有識者らを交え議論した。これまでの「一義的に安全に責任を負う原子力事業者が、自ら安全性を向上させるため、たゆまぬ努力を続ける」との取組姿勢に加え、ステークホルダーである推進官庁、規制機関、一般国民・自治体などが、各々の役割を担い、事業者の取組を促していく「継続的な原子力の安全性向上のための自律的システム」の構築を目指すもの。
 開会に際し挨拶に立った資源エネルギー庁長官の日下部聡氏は、規制基準を満たすことで慢心してしまうことは、原子力だけでなく保安行政共通の問題点との懸念を示した上で、行政、事業者らが「それぞれの立場で指摘し合い安全性向上を目指す」必要性を強調し、議論に先鞭を付けた。
 基調講演を行ったIAEA国際原子力安全諮問グループ(INSAG)議長で、電力中央研究所原子力リスク研究センター(NRRC)顧問のリチャード・メザーブ氏は、IAEAの福島第一原子力発電所事故報告書の一説から、本質的な教訓として、「原子力安全について体系的なアプローチが必要」なことを指摘した。同氏は、「強い産業界」、「強い規制機関」、「強いステークホルダー」の3層からなる「多層構造による頑健なシステム」の構築を提唱し、その上で重要となる強いリーダーシップの発揮と、健全な安全文化の醸成に際し、「慢心は敵」と強調し、「常に問い直す姿勢を持ち続ける」必要性を訴えかけるなどした。
 社会との対話のあり方に関するディスカション(=写真)で、IAEA原子力局コミュニケーションアドバイザーのアイハン・エヴレンゼル氏は、INSAGのステークホルダー関与に係る文書について触れ、「『情報の共有』イコール『コミュニケーション』ではない」としたほか、200以上のSNSアイコンを図示し、「世界人口の半数は30歳未満。物事が急速に変わっていく」と述べた上で、「コミュニケーションの手法もアップデートしなければならない」などと強調した。
 これを受け、資源エネルギー庁原子力政策課長の浦上健一朗氏は、広報に係った経験から、行政機関の情報伝達における課題の一つとして「正確さとわかりやすさのトレードオフ」を掲げ、マスメディアに対し、社会との橋渡しとしての役割に期待を寄せるなどした。また、東北電力副社長の渡部孝男氏は、東日本大震災時に女川原子力発電所長として、住民の支援に協力した経験を踏まえ、地域社会の一員として「まず自分たちを知ってもらう」必要性を強調した。
 一方、フリーキャスターの伊藤聡子氏が、「事故が起きたにもかかわらず、原子力発電所を再稼働したいのは、事業者が利益を得たいため」という意見も多いことを指摘し、「なぜ原子力が必要なのか」を丁寧に説明していくべきと訴えると、浦上氏、渡部氏からはそれぞれ、キーワードとして、「全体性」、「時間軸」があがり、原子力については、震災やオイルショックなど、過去の経験を風化させず、エネルギー需給全体の中で語っていくべきものとの認識が示された。