高効率な水素製造が可能なイオン交換膜型反応器を開発、高温ガス炉「ISプロセス」に向け

2017年3月10日

 芝浦工業大学と量子科学技術研究開発機構(量研機構)の研究グループは3月2日、高温ガス炉の熱利用として期待される水素製造技術「ISプロセス」の高効率化に向け、新たな反応器を開発したことを発表した。放射線によるプラスチック改良技術として知られる「高分子グラフト重合法」で開発したイオン交換膜を用いたもので、「ISプロセス」の循環物質のヨウ素を従来の約8割削減した条件下でも反応の成立性が確認され、今後、機器の小型化や消費エネルギー低減など、実用化への道筋となりそうだ。

ISプロセスの原理(科学技術振興機構発表資料より引用)

 「ISプロセス」という呼び名は、ヨウ素(I)と硫黄(S)を循環物質として用いることに由来しており、高温の熱で化学反応のサイクルを駆動し水を熱分解するもので、(1)ブンゼン反応、(2)ヨウ化水素分解、(3)硫酸分解――の3つの反応工程により構成される。これらの反応工程については、機器小型化要素技術の研究開発が進められており、今回の研究で、ブンゼン反応(I2+SO2+2・H2O → 2・HI+H2SO4)に関して、水素イオン(H+)以外が透過しにくいイオン交換膜を組み込んだ電解槽「膜ブンゼン反応器」の開発により、生成物の硫酸(H2SO4)とヨウ化水素(HI)を隔離させることで反応効率が向上し、ヨウ素循環量の低減、機器小型化に見通しがついた。

水素イオンを選択的かつ効率的にイオン交換膜と耐食性を有する高活性電極触媒を開発し、大型化が可能な多層構造の膜ブンゼン反応器を開発した(科学技術振興機構発表資料より引用)

 ブンゼン反応の生成物はヨウ化水素分解、硫酸分解に送られるが、研究グループでは、両分解反応工程で生成される水素、酸素を膜分離する新しい概念の「膜分離新ISプロセス」の開発も、イオン交換膜と合わせて進め、高効率で低コストの水素製造を目指している。
 「膜ブンゼン反応器」の成果に際し、量研機構は、網目構造を持つ新しいイオン交換膜を開発し、水の透過を既存の膜より60%削減するとともに、水素イオンの選択的かつ効率的な透過を可能にした。また、消費電力の削減とともに、「膜ブンゼン反応器」の陽極側では、硫酸が生成するため高い耐食性が求められるが、芝浦工大では、貴金属を用いた複合構造の電極触媒を開発・導入し両者ともに向上させた。

高温ガス炉熱利用システムのイメージ(原子力機構発表資料より引用)

 高温ガス炉「HTTR」(大洗町)の開発を進める日本原子力研究開発機構では2016年3月、「ISプロセス」による水素製造試験装置の試運転に成功している。「ISプロセス」を高温ガス炉と組み合わせることで、CO2を排出せずに、大量の水素を高効率・低コストで製造するシステムを構築することが期待される。