東大・早野教授がツイッターに掲載した6年分の写真を公開、震災後は福島でも活動

 欧州合同原子核研究機関(CERN、ジュネーブ)を中心に「反物質」の研究で活躍している東京大学理学系研究科教授の早野龍五氏が、同学退任を機に、東京・西麻布の「アウグスビアクラブ」で、自身のツイッターに掲載した6年間分の写真を一挙に公開するというユニークな写真展を開催中だ。
 早野氏は、2011年元旦から、写真を撮って「○○之圖」(○○ のず)というタイトルを付けてツイッターに載せることを毎日欠かさず続けてきた。この間、2011年3月の東日本大震災・原子力発電所事故が発生し、CERNの国際研究プロジェクトとともに、福島における被ばく調査や学生指導などの取組にも力を入れるようになり、今回展示されている写真群にも、同氏が開発した乳幼児専用の内部被ばく装置「BABYSCAN」、県産の桃「あかつき」といった福島にまつわるものが含まれている。
 2011年から2016年大晦日までに撮った写真は全部で2,192枚にも上っており、スペースの関係上、2年分ずつPart1~3に分けて展示することとなった。今回、2013~14年の撮影写真を展示したPart2の期間中、3月17日に、「アウグスビアクラブ」に早野氏を訪ね、他の来客とともに展示を案内してもらった。

写真展のパンフレット、中央が「福島高校の生徒、CERNのグローブ講堂で各国の高校生の質問に答える之圖」

 Part2の展示写真の冒頭には、「福島高校の生徒、CERNのグローブ講堂で各国の高校生の質問に答える之圖」(2014年3月31日撮影)があった。これは、早野氏が、福島の高校生をCERNで開かれた放射線ワークショップに引率したときのものだが、そこで海外の学生たちから、「君たちは本当に福島から来たの?福島には人が住んでいないと思っていた」と問われ、この時のショックが、同氏を福島の活動に向かわせたという。
 早野氏は3月15日に、東大で最終講義を行ったが、会場となった本郷キャンパスの小柴ホールには聴講者が入りきれず、別室にモニターを設置するほどの大盛況だったそうだ。写真の中に写る人物を指差して「彼は最前列に体育座りで聴いていたよ」と、最終講義の模様を思い起こしたり、海外の仕事場CERN、趣味の歌舞伎鑑賞など、幅広いジャンルに及ぶ一コマ一コマを振り返りながら丁寧に説明する同氏に、記者がカメラを取り出しアングルを決めようとすると、すかさず「レンズが向くと僕もカメラを向けたくなっちゃう」と、愛用のカメラを手に切り返す。早野氏の写真には、大雨の日に母親が子供に傘を差し向けるシーンなど、何気ないワンショットが目を引く。「こんなのがとても好きなんだけど、顔を写すのは肖像権の問題もあって…」と話す。そういった細やかな気配りが福島に寄り添った数々の取組につながっているのだと感じた。
 写真展が開かれている「アウグスビアクラブ」はクラフトビール「IPA」などがお勧めだ。早野氏と同店との付き合いは8年前の開店以来で、展示写真の中には「賢いビールを知らない人は罪だと思います之圖」というのもある。「できれば福島でも写真展を開きたいが、ここの3倍の広さが要るね」と同氏は笑いながら話す。
 写真展は3月31日まで開催(「アウグスビアクラブ」:東京都港区西麻布3-2-21、電話03-6804-1655)。