7年ぶりに「原子力白書」公表 福島第一原子力発電所事故の経験など包括的に説明

2017年9月14日

 原子力委員会は9月14日、2010年から2016年までの原子力利用の状況についてまとめた「平成28年版原子力白書」を公表した。同白書は、福島第一原子力発電所事故の教訓と原子力を巡る環境の変化を踏まえ、政府の取り組みについて国民および国際社会に適切に説明することを目指している。
 今回の白書には、「はじめに」として7月21日に閣議決定された「原子力利用に関する基本的考え方」の全文を掲載。原子力を取り巻く環境の変化や、継続して内在する本質的な課題など重点的取り組みについて述べ、国民の原子力への不信・不安に真摯に向き合い、社会的信頼を回復することなどが必須であると喚起している。全5章から成る本編では、福島事故を踏まえての対応と復興への取り組み、原子力安全対策などの基盤的活動や国際的な知見等について、関連図表とともに紹介されている。

 第1章では、福島第一原子力発電所事故への対応として、国会や政府の事故調査報告書の提言を示した上で、原子力規制委員会による一元的な新規制基準適合性評価の実施や原子力事業者による自主規制組織「原子力安全推進協会」の設立など、安全確保体制を強化してきたことを説明。また事故の影響が続く福島で、風評被害対策やイノベーション・コースト構想などの復興・再生の取り組みが進められていることも取り上げ、中長期ロードマップに基づいた福島第一原子力発電所の廃止措置の進捗についても記載されている。
 第2章では、原子力利用に関する基盤的活動として、(1)原子力安全対策、(2)核セキュリティ、(3)平和利用の担保、(4)放射性廃棄物の処理・処分、(5)原子力人材の育成・確保、(6)原子力と国民・地域社会の共生――の各分野についての取り組みを紹介。原子力人材の育成・確保については、再処理、廃棄物の処理・処分、さらに福島第一原子力発電所の廃炉を確実に実施するため、様々な技術の確立が必要であり、これを担う人材の育成と確保が必要であることが明記されている。さらに産学官の幅広い連携による「原子力人材育成ネットワーク」で、原子力人材育成ロードマップを取りまとめ、研究炉等大型教育・研究施設の維持など戦略的に取り組む事項が挙げられていることなどにも触れられている。
 第3章では、原子力のエネルギー・放射線利用の現状を示し、エネルギー資源の輸入依存度が94.4%と高く、温室効果ガス発生量低減の努力も求められる中、原子力発電所再稼働に向け、原子力への社会的信頼回復が必須であるとした。また国民の理解と協力を得つつ、安全の確保を大前提として、核燃料サイクルを確立することが国の基本方針であることを確認。さらに放射線利用に関しては、10年ぶりの調査で4兆3,700億円の経済規模に上るとした内閣府の試算が掲載されている。
 第4章では、原子力の研究開発について、福島第一の廃炉・汚染水対策や環境回復、原子力安全研究を推進していくことなどを述べ、産業界と研究開発機関・大学をまたぐようなネットワークを構築し、厚い知識基盤の構築等を検討すべきとした。また、高速増殖原型炉「もんじゅ」は再開せずに廃止措置へ移行することにも触れられている。
 第5章では、国際的取り組みについて、(1)国際協力、(2)核軍縮・核不拡散体制の維持・強化、(3)国際的な原子力の利用と産業の動向――の各分野で、日本が世界をリードする位置付けを確立すべきことなどが述べられている。
 ウェブ版の白書では、国民にわかりやすく内容を伝えることができるよう、記載の根拠となる情報源へのリンクが貼られる形で掲載される。