原子力人材育成ネットワーク報告会 研究炉利用における課題など提示
産官学一体で原子力人材育成活動・事業等を推進する「原子力人材育成ネットワーク(NW)」の7回目となる報告会が2月16日、都内で開催された。
同NW運営委員会委員長を務める高橋明男原産協会理事長は開会挨拶で、福島第一原子力発電所事故以降、原子力産業への就職を目指す学生数の減少や、現場での実務経験の機会(OJT)の縮小などが原子力人材確保・育成の課題であると言及。同NWが近日中に「戦略的人材育成の司令塔」の設立について検討を開始する予定であることにも触れた。「戦略的人材育成の司令塔」は、原子力人材育成に係る活動の全体調整、国際標準となる人材育成プログラムの確立などを推進する中核組織となるもので、既に具体的検討に向けて海外調査も行われている。
同NW事務局長を務める日本原子力研究開発機構(JAEA)の桜井聡原子力人材育成センター長は、2017年度のNW活動状況として、8月に国際原子力機関(IAEA)と人材育成にかかる実施取り決めを締結したことを披露した。これにより、IAEAと、同NW事務局を構成する原産協会、原子力国際協力センター、原子力機構の4者間の協力のもと、2012年より行われている「Japan-IAEA原子力エネルギーマネジメントスクール」を始め、人材育成の関係活動がさらに効果的なものとなることが期待される。この他、桜井氏は、IAEA原子力発電基盤訓練コースや、年間で約40回のNW会合の開催、IAEA技術研修員37名の受入れ窓口業務、人材育成NWホームページ管理など、NWの広範な活動実績を報告した。今回の報告会では、IAEAと連携した活動について報告し、討議する特別セッションも設けられた。
続いて内閣府原子力委員会事務局原子力政策担当の澄川雄氏が講演を行い、2017年7月決定の「原子力利用に関する基本的考え方」で原子力人材育成の方向性について触れているが、原子力委員会はさらに踏み込んだ見解の作成に向けて議論を進めていることを報告。大学の実験設備の劣化に対し抜本的な対策が必要なことや、インターンシップにより視野と経験を広めることなどが重要であることを認識しているとし、放射線や原子力エネルギー利用の魅力を伝えるポスターを組織的に作成し共有して利用することや、大学における原子力教育改善のための第三者によるレビューを実施することなども効果的であるとの意見が出ていると紹介した。
近畿大学原子力研究所の若林源一郎准教授は、2017年3月にようやく再稼働にこぎつけた近畿大学原子炉(UTR-KINKI)が新規制基準に対応するにあたっての苦労を語った。当初は1ワットの超低出力である同炉に対してリスクの大きさに合わせたグレーデッド・アプローチが適用されるはずだったが、結局は商業用原子力発電所に準じた対応を求められることとなって約3年の時間と約1億円のコストがかかってしまい、私立大学には過度に重い負担であると訴えた。
京都大学原子炉実験所の川端祐司所長は、同学研究炉の稼働には使用済み燃料の扱いが条件に含まれるために核セキュリティサミットの協議事項であり、大学の一部局での対応では難しいと憂慮した。また同原子炉実験所は2018年4月より「複合原子力科学研究所」と改名し、多種多様な学術研究と人材育成を目指していくことにも触れた。