量研機構他、粒子線治療ビームの到達位置をオンタイムで画像化することに成功

2018年2月22日

 量子科学技術研究開発機構の量子ビーム科学研究部門はこのほど、群馬大学、名古屋大学と共同で、粒子線がん治療に用いられる陽子線および重粒子線治療ビームが到達する位置を、オンタイムで鮮明に画像化できることを実証したと発表した。独自に考案した「電子制動放射線の計測」により実現したもので、実験で得られたデータの解析結果などから、微弱な治療ビームでも即座に画像化できることが示された。正常組織へのダメージを最小限に抑え複雑な形状のがん細胞を塗りつぶす「最新の粒子線がん治療」では、非常に微弱な治療ビームが必要なことから、本画像化手法の適用により、粒子線がん治療の広範な普及が期待される。

図1 測定のセットアップ ©量研機構

 体内に入射した粒子線がん治療ビームを直後にオンタイムで画像化できれば、治療計画通りに照射が行われているかを常に確認できる。そこで研究グループでは、重粒子線などの治療ビームが体内を進むとき、体を構成する原子の中の電子が弾き飛ばされ、止まるまでの間に放出する電磁波「電子制動放射線」に着目し、これを測定することで、治療ビームの飛跡と到達位置を画像化することを試みた。
 本研究ではまず、飛跡の長さが、98mm、123mm、149mmとなるようにエネルギーを調整した3つの重粒子線用の治療ビームを、治療対象を模擬した標的(水容器)に入射し、治療ビームの照射中に飛跡から放出される「電子制動放射線」を、放射線イメージング装置で順にオンタイム測定した。

図2 飛跡の長さが98mm、123mm、149mmとなるようエネルギーを調整した3つの治療ビームを放射線イメージング装置により測定し得られた画像 ©量研機構


 画像から得られた飛跡の長さは、実際の長さとおよそ5mmの精度で一致しており、異なる長さのビーム飛跡を明確に区別できることが実証された。
 さらに、今回の実験で得られたデータから、「治療ビームの強さ」と「放射線イメージング装置の感度」との間の関係が導かれ、放射線イメージング装置をより高感度なものに置き換えるだけで、最新の粒子線がん治療で用いられる非常に微弱なビーム(入射重粒子数で実験ビームの約50万分の1)でも、図2と同程度の画質で画像化できることが明らかとなった。
 量研機構では、「最新の粒子線がん治療」は、複雑な形状のがん組織全体を細かな領域に分割し、それぞれの領域を微弱な強度で1か所ずつピンポイントでがん組織を死滅させるのだが、領域ごとのビームをイメージングすることが、ビーム強度が弱いため非常に困難だったなどと、今回の研究開発の意義を説明している。今後の実用化に向けて、量子ビーム科学研究部門と放射線医学総合研究所とで、同機構内の異部門が協働した研究も進められる模様だ。