原子力委、有識者を招きコミュニケーションのあり方について議論

2018年3月12日

 原子力委員会は、今夏目途に刊行予定の「平成29年度版原子力白書」で原子力を巡るコミュニケーションのあり方について特集する。これに向けて、同委は3月6日の定例会議で、日本科学技術ジャーナリスト会議理事の小出重幸氏、リテラシー代表取締役の西澤真理子氏他からヒアリングを行い、主に英国の取組事例と比較しながら議論した(=写真)。
 2016年12月に原子力委員会は、国民の原子力に対する信頼回復に向け、(1)一般向け情報、(2)橋渡し情報、(3)専門家向け情報、(4)根拠等――の各階層をつなぎ、一般の人たちが自らの関心に応じ専門的情報までたどれる「根拠に基づく情報体系」を整備していく考えを示した。さらに、昨夏同委は、原子力利用の基本的考え方を取りまとめ、その中で重点的取組の一つとして「原子力利用の前提となる国民からの信頼回復」を掲げており、科学的知見や事実に基づく双方向対話の必要性などを述べている。今回の定例会議では、「根拠に基づく情報体系」と合わせて原子力関連の理解深化を図るコミュニケーション活動について、日本における問題点や諸外国の事例などを整理した「ステークホルダー・インボルブメントに関する取組」を示し議論した。

「ステークホルダー・インボルブメント」の考え方(原子力委員会発表資料より引用)

 そこでは、まずステークホルダーを「一定の状況において関心または利害関係のある当事者」と定義し、(A)情報環境の整備、(B)双方向の対話、(C)ステークホルダー・エンゲージメント(参画)――の3段階からなる「ステークホルダー・インボルブメント」を通じ信頼構築を目指すとしている。日本の原子力分野におけるコミュニケーション活動については、これまで「決定事項を伝えて分かってもらうことが主眼とされてきた」などと問題点をあげた上で、英国や米国の対話を通じたコミュニケーション活動の事例を今後の参考として紹介している。
 例えば、英国では、BSE問題により科学技術に関する政策決定者への不信感が高まったことなどから、専門家とメディアをつなぎ科学的根拠に基づいた情報を一般公衆に提供する「サイエンスメディアセンター」が機能するなど、民間・学協会による取組も進んでおり、岡芳明委員長のメルマガでも、昨秋の渡英における注目情報として紹介されている。
 これに対し、厚生労働省審議会やIAEAでの活動実績もある西澤氏は、まず「リスクコミュニケーションの概念自体が日本にはない」と指摘し、英国のBSE問題の経験から、「『安全』は客観的事実だが、『安心』はあくまで主観であって専門家だけでは決められない」などと、教訓を述べた上で、「戦略的かつシステマティック」に取り組む姿勢が日本に求められているとした。
 また、小出氏は、これまでの原子力事故の取材経験を振り返り、福島第一原子力発電所事故による信頼失墜の要因を「コミュニケーションに失敗したこと」などと分析した上で、英国「サイエンスメディアセンター」の取組について、研究よりも「実務にフォーカス」していることから、緊急時に機能を発揮するものとして、日本も参考にすべきと訴えた。
 岡委員長が「関係者が英米の事例も参考にして、まず俯瞰的に理解すること」などと、問題を提起すると、小出氏は、ジャーナリズムの役割の重要性を強調し、「原子力学会、電気事業連合会、原産協会などが集まって一つの価値観を作り上げ、マスコミにメッセージを投げかける」ことを提案した。