【第51回原産年次大会】セッション1「エネルギー政策」

2018年4月11日

 「第51回原産年次大会」では4月9日のセッション1で、「エネルギー政策」について議論した。ここでは、現在検討が進められているエネルギー基本計画の見直しをとらえ、3E(エネルギー安全保障、経済性、気候変動)の観点から3つのパートに分かれ、世界のエネルギー事情や海外の経験・見方を共有しつつ、原子力の役割やその競争力について集中的に意見が交わされた。

パート1:エネルギー安全保障

(左より吉崎氏、松野氏、ヒバリネン氏)

 双日総合研究所チーフエコノミストの吉崎達彦氏がモデレーターを務めたパート1では、資源エネルギー庁原子力政策課長の松野大輔氏が、1970年代の石油危機や東日本大震災の経験などを受けた日本のエネルギー選択の歴史を示し、エネルギー自給率の低下への危惧を述べた。また、最近の電力需給を巡る出来事として、1月下旬から2月上旬にかけて、大雪や厳しい寒さによる電力需要の高まりから、東京電力エリアの供給予備率が想定以上に低下し、他電力からの融通も実施されたことをあげ、「電力供給が危機に瀕したことは決して忘れてはいけない」と警鐘を鳴らした。さらに、OA機器や家電の普及、高齢化に伴い民生部門の電化率が上昇傾向にあることを示し、「資源をいかに安定的に電力へと変換するか」としたほか、日本が資源小国であることを繰り返し述べ、「『技術のエネルギー』としての原子力」の活用に当たっては、将来的に人材や技術の維持が課題となっていることを強調した。
 海外からは、欧州原子力産業会議(FORATOM)副理事長で、フィンランドにあるクリーンエネルギーのリーディング・カンパニー「フォータム社」に勤務するエサ・ヒバリネン氏が、EUにおけるエネルギー安全保障の重要性を述べた上で、「特に原子力は安定供給に優れている」ことから、産業界としても注目していることを訴えかけた。また、原子力エネルギーの特性として、安全確保の必要性、化石燃料の温存や気候変動緩和への貢献の他、「最も大きいことが最も良いとは限らない」と、標準化や、よりシンプルな設計で、コスト低減が図られることもあげ、将来に向けたイノベーション創出の可能性を示唆した。原子力発電所は現在、EU加盟国28か国中、14か国で運転されており、EU全体の発電電力量の27%を占め、電力の低炭素化にも寄与している。
 これを受け、吉崎氏は、「地政学リスク」の観点から、日本が化石燃料の多くを中東に依存している現状から、資源の入手先の多様化や、エネルギーミックスでなるべく多くのカードを用意しておく必要性を強調した上で、「エネルギー安全保障は今までよりも強化しなければならない」、その中で「原子力を今後どのように育てていくか」などと問題を提起した。
 欧州のエネルギー事情に関して、松野氏が、「選択肢が多い。全域で考えれば非常に多様なエネルギー源を持っている」と、日本との違いを指摘し、「技術で頑張らねばならない」と、将来のエネルギー政策への展望を示したのに対し、ヒバリネン氏は、「日本にはまだまだ技術の可能性がある」として、特に、消費者が市場に参画して引き起こす新たなイノベーション創出に期待を寄せた。
 さらに、ヒバリネン氏は、事故を経験した日本の原子力発電に対し、「原子力はリスクに関して非常にグローバル」と指摘した上で、安全面、コスト面、標準化などにおいて、「緊密な連携が不可欠。それにより競争力も高まっていく」などと考えを述べた。
 会場との質疑応答で、放射性廃棄物の最終処分地選定が先行するフィンランドに対し助言を求める声があり、ヒバリネン氏は、複数の自治体から候補地があった経験から、「100%の透明性が必要。それしか地元の信頼を得る方法はない」などと強調した。

パート2:経済性

(左より市川氏、遠藤氏、キー氏)

 「経済性」を考えるパート2では、電力市場の自由化が進む中で原子力発電を一定水準維持していく方策について、3人の有識者が講演しパネル討論を行った。
 モデレーターを務めたクレディ・スイス証券チーフ・マーケット・ストラテジストの市川眞一氏は、「火力、水力、再生可能エネルギー、原子力といった各電源のコストは、往々にして単純な発電原価で語られるが 資源小国日本で、電力の真の経済性は、緊急時を含めた安定供給力を加味して考えるべき」と強調した。
 市川氏は、エネルギーの経済性を考える視点として、(1)地球温暖化のリスク、(2)資源のない国の潜在的コスト、(3)エネルギー価格の逆進性――を挙げ、各視点から、(1)化石燃料の利用は可能な限り縮小すべき、(2)自前のエネルギー源を確保し調達先を多様化すべき、(3)エネルギーのベストミックスは産業競争力だけでなく低所得世帯の負担にも配慮すべき――と訴えた。
 また、慶應義塾大学大学院特任教授の遠藤典子氏は、「政府が試算した電源別の発電コストには、燃料費だけでなく、炭素価格、FIT賦課金、原子力事故リスク対応費用などの政策コストが反映されている」と指摘。その上で「制度設計次第で大きく変動する発電コストの多寡にかかわらず、エネルギー安全保障上のリスクが高まり、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)が普及する電力多消費時代に、エネルギー変換効率の高い準国産電源の原子力を維持する経済性に揺るぎはない」との見解を示した。
 海外から、米ニュークリア・エコノミクス・ コンサルティング・グループCEOのエドワード・キー氏が、「電力自由化と原子力発電の両方で豊富な米国の経験は、悪い意味での経験」と前置き。米国の原子力は、自由化された地域で財政的な問題に直面しており、電力市場とは共存できない可能性があると指摘した。
 この米国の失敗について、キー氏は、(1)市場の電力へのアプローチ、(2)低い電力市場価格、(3)原子力の公共の利益への補償がないこと――によって引き起こされ、問題解決には、(1)より多くの財源確保に向けた州の取組、(2)再規制化/電力市場からの撤退、(3)連邦政府の役割――が必要だとしている。
 その後のパネル討論で、キー氏が「民間所有が限定的な中国は結構うまくいっている。原子力は市場主義とマッチしない」と問題提起。また、市川氏は「政府の政策的関与は重要だが、価格やテクノロジーなどの側面で問題」との見方も示した。
 これに対し、遠藤氏は、「公社化をいうと、国に何ができるのかとか、モラルハザードにつながるといわれるが、逆にこのまま民間でできるのかという視点に立ち返れば、そうでない側面の方が大きくなる」と述べ、「100年も続く事業の主体として残るのはどこかという場合に、国の関与が必要」と指摘し、さらに、「電力会社が通常の廃炉を共同で行う仕組みをつくってはどうか」と具体策も提案した。
 また、キー氏は、「原子力部門は、設備投資が大きく、長期にわたり回収しなければならないため、収益保証がない限り、民間部門が投資することは難しい。中国のように、政府が政策や仕組みをつくって民間がやる方式もあるが、民間がすべてやるのは得策といえず、国の役割が重要になる」とした。
 これらの意見を踏まえ、市川氏は、「原子力発電の経済性については、多角的に考えなければならないという点で意見が一致した」、「公有化など方法論は色々あるが、いまの政府の腰は引けている。国の方針が見えていないところに原子力に対する国民の不信感がある」などと議論をまとめた。

パート3:気候変動

(左より有馬氏、フレーザー氏、ハード氏)

 パート3では、気候変動への対応に向け、「脱炭素化に重要な役割を果たす原子力利用を進めるための明確な政策」はいかにあるべきか考察した。
 国際エネルギー機関(IEA)ガス・石炭・電力市場部門長のピーター・フレーザー氏は、「エネルギーについては、原子力を含めできるだけ多くのオプションを確保することが大事。現存する原子力発電を放棄してしまうと、脱炭素化はより困難になる」と警鐘を鳴らした。
 同氏は、世界のCO2排出量は今なお増加中で、そのほとんどが電力セクターによるものであることを示し、「炭素排出量を低下させるための取組はまだ十分とは言えず、今後、脱炭素化を図るためには、効率化、再生可能エネルギー、原子力、CCS(二酸化炭素回収貯留)のすべてが必要である」と強調。太陽光、風力、蓄電池など、クリーンエネルギー技術のコスト低下により、電力供給は新たな局面を迎えているが、原子力利用の減少する地域では脱炭素化が困難となっているとした。低炭素発電化に成功した例として、カナダのオンタリオ州が、原子力、天然ガス、再生可能エネルギーへの再投資によって石炭火力発電所を閉鎖したという取組も参考になると紹介した。
 環境NGO「ブライト・ニュー・ワールド」代表のベン・ハード氏は、「原子力をめぐる政治では地元の権限が大きな力を持つこともあり、他国での成功例や失敗例などデータを示しながら戦略的に対話を進め、理解獲得に努める必要がある」と指摘した。
 同氏は、まず環境の側面から我々がどのような未来を作ろうとしているのかを考えるべきで、そこからテクノロジーの果たすべき役割が見えてくると述べた。経済成長とともに1人当たりのエネルギー消費量が増加の一途を辿っている今日、我々が責任を持って管理していく限り、危険を閉じ込められる原子力発電と比べ、大気汚染による健康被害や大規模な自然破壊などをもたらす化石燃料による発電は一層深刻な脅威となっているとの考えを示した。原子力発電は、「小さなペレットから大きなエネルギーを生み出す極めて高効率の素晴らしいエネルギー技術で、クリーンかつ自然を守るというビジョンにぴったりあてはまる」ことを発信していくべきだと力説した。
 モデレーターを務めた東京大学公共政策大学院教授の有馬純氏は、「日本が温室効果ガス排出削減の約束草案を達成するためには、再生可能エネルギーの活用とともに原子力発電所の再稼働は不可欠。さらに2050年以降も見据えて取り組むならば、リプレースも検討すべき」と主張した。そうした将来ビジョンに向けて、同氏は、原子力を取り巻く政策・規制・事業環境を整備し、「明確な政策的方向性」を示すことが求められると指摘している。さらに、国民対話の重要性を述べる一方で、特にエネルギー政策に関しては、世論調査結果のみにとらわれず、整合性ある議論がなされるべきことを強調した。