【第51回原産年次大会】セッション3「原子力におけるイノベーション」

2018年4月11日

 セッション3では、原子力が将来にわたって貢献し続けるために必要となるイノベーションについて、国内外メーカーの4名から話を聞いた。モデレーターは、日本原子力学会の若手連絡会会長も務める東京工業大学先導原子力研究所助教の西山潤氏
 民生用航空機、発電システム、防衛装備など、多方面を手がけるロールスロイス社からは、戦略・ビジネス開発マネージャーのマーティン・J・グッドフェロー氏が登壇し、小型モジュール炉(SMR)の開発について発表を行った。世界的な温室効果ガス排出削減のトレンドの中、将来の電気自動車の普及増などを見据え、「さらに低炭素電源が必要」と、原子力エネルギーを開発する意義を述べている。一方で、安全性への不安や建設期間の長期化といった原子力発電を巡る懸念に対し、「ライフサイクル全体を通じた安全性が社会的受容性のカギ」、「建設工期の遅れはコスト増につながる」と強調し、簡素化と短期建設、プログラムの確実性を不可欠要素とするロールスロイス社によるSMR設計コンセプトを披露した。また、将来的にデジタル技術をSMRのシステムに最大限活用することで、大幅なコスト削減につながることを示しながら、「原子力におけるイノベーション」の意義を強調した。
 東芝エネルギーシステムズ原子力システム設計部の青木保高氏は、原子力発電プラントの安全性・信頼性向上に向けた技術開発について発表した。現場作業員の教育に資するAIを活用したバーチャルプラントの開発や、内閣府プログラム「ImPACT」で実施する高レベル放射性廃棄物の低減を目指す研究開発などが紹介された。その中で、「ImPACT」による取組では、高レベル放射性廃液から、半減期数十万年以上の核種も含め有用元素を分離・回収し、再利用することで、資源問題と廃棄物低減の同時解決を目指している。東芝エネルギーシステムズでは、今後も様々な技術的課題の解決に挑戦し、「原子力の技術・経験を未来につなげていく」としている。
 GE日立・ニュークリアエナジーからは上級副社長のデビッド・スレジック氏が、低コストの30MW小型モジュールBWR「BWRX-300」の開発について披露した。「BWRX-300」は、これまでのESBWR開発の経験を活かし、プラントの大幅な減容とともに、地下に設置することでコンクリート量も低減を図るよう設計され、より市場競争力が高まるとしている。この他、固有の安全性を有するナトリウム冷却高速炉「PRISM」の開発を紹介するなど、次世代原子炉に向けたイノベーションへの意気込みを示した。
 また、ロシアのエンジニアリング企業のアトムストロイエクスポルト社からは、原子力産業用の監視制御システムの開発に参画した経験を持つアレクセイ・サチック氏が、効率的な発電所管理のための「MULTI-D デジタルプラットフォーム」について紹介した。
 4者の発表を受け、西山氏は、「色々な分野の連携で新たなイノベーションを生み出していく」必要性とともに、米国の若手核物理学者のテイラー・ウィルソン氏による特別講演を振り返り、「『原子力が非常に魅力的な分野である』と若い人たちに示していくことが、新たなイノベーションにつながる」と強調し、セッションを締めくくった。