【第51回原産年次大会】「核融合で遊んだ少年」:米核物理学者のT.ウィルソン氏に聞く

2018年4月12日

  原産協会が4月9日から都内で開催していた第51回年次大会に登壇するため、弱冠23才という米国の天才核物理学者テイラー・ウィルソン氏(=写真)が来日した。幼少期から原子力科学に魅了されていた同氏は、14才の時に自宅ガレージで核融合の実験に成功したという逸話の持ち主。一見して線の細い柔和な外見とは裏腹に、年次大会の特別講演では、世界中の人々の生活向上に貢献したいとする自らの科学技術への取り組みを力強く語った。
 同氏が描く原子力技術の明るい未来、医療やエネルギーおよび宇宙探査を超える分野への応用を予見する熱い思いに、多くの人材や民間資金が引き寄せられており、自ら作ったプロメテウス社で小型の受動的安全原子力電池(原子炉)を開発中。そのようなウィルソン氏の現在の取り組みや将来展望について、詳細を伺った。

・若手中心のプロジェクト体制
  活動の80%は原子炉の開発に充てており、資金の大部分はベンチャー・キャピタルなどの民間資金から。放射線生物学や材料化学といった学術的研究開発活動については、政府から助成金を得ている。これらの大部分がまだR&D活動であるため、利益が出た場合でも研究開発に再投資していくという形になっている。
 スタッフとしては原子力科学に関心を持つ様々なバックグラウンドの人が集まっており、大学や大学院を出たての新しい発想を持った若者が90%、原子力産業界で開発キャリアと経験を積んできた人が10%という構成だ。航空宇宙など異なる業界の人もおり、自らがマネジメントするチーム構成としては適していると思う。医療用放射線同位体の生産や原子炉の設計開発など、すべてのプロジェクトのスタッフを合計しても40人ほどだが、原子炉開発がテスト・ベッド(試験炉)段階に近づくにつれて、人数も増えていくだろう。

・2020年までに試験炉完成へ
  試験炉を開発するまでに必要な投資は6億ドルと予測しており、体制として官民1:1のパートナーシップが望ましいと考えている。民間で2.5億~3億ドルの資金が集まれば、政府も同じだけ出してくれることになる。現段階の目標は、試験炉の設計を固めることなので、サブ・システムを作ってはテストして改良するというプロセスを繰り返している。2020年までにコンパクトな熱交換器やセラミック製の炉心を備えたサブ・システムで、核燃料を使わない試験を開始したい。そこから1年ほど経過してから、実際に燃料を装荷して動かしていくという段取り。宇宙探査など特殊用途の原子炉の場合、実際に使用するものに15MWの出力が必要なら、1.5MWの実証炉として使っていくことになる。

・わくわく感のあるプロジェクトで人材確保
 1950年代は本当に沢山の人が原子力技術に関心を持っていて、原子力で人類の未来を率いていくんだという盛り上がりがあった。しかしその後、TMIやチェルノブイリ、福島第一などの原子力発電所事故が発生し、盛り上がりが沈静化。日本だけでなく国際的にも、原子力業界の人材パイプラインに影響があったと思う。
 個人的に感じていることは、わくわくするような魅力的なプロジェクトを提示すれば、それに興奮する若者が必ず出てくるはずだということ。それにはイノベーションが必要だし、何か必ず進歩があると思えるものでなくてはならない。原子力業界やコミュニティとしては、施設や研究を一般の人、特に若者にオープンにする義務があると考える。原子力発電所に行ったことがない人には、安全性など色々な点について先入観があるし、実際に見ることが出来れば、自分のキャリアとして考えるキッカケにもなる。また、そうした人達の啓蒙教育という側面もある。

・暫定貯蔵後に核種変換という考え方
 放射性廃棄物は原子力技術を利用する上で最大の課題であり、技術的な解決策はすでにあると思うが、社会的に受け入れられている答えはまだ無いというのが現状。重要な点が2つあり、1つは最終処分場の開発戦略が必ず必要ということだ。それも、地元の同意ベースで立地を進める必要があり、フィンランドで世界初の処分場建設計画が順調に進展しているのは、このプロセスで透明性を確保するとともに、地元に拒否権を与える方式になっていたから。米国ではネバダ州のユッカマウンテン計画が頓挫したが、この件からは、廃棄物政策において「地元州に立地を強制したり、透明性を確保せずに物事を進めるようなことをしてはいけない」という教訓が学べたと思う。

 また、技術的な点からは、「技術や文明は長期的に変化していくものだ」ということ。個人的には最終処分をするよりも、安全性を監視し続けることを前提に暫定貯蔵施設で管理していくことが望ましいと考えている。廃棄物の放射線レベルは比較的早く下がるものだし、何百年か何千年経過した段階で残っているものは再処理するとか、長寿命のものは核種変換する。そうすれば、最終的に廃棄物が全くないという状態まで持っていけるのではないか。
  現在、想定されている最終処分場は100万年単位のものなので、施設の寿命末期にどうなるのかを考えた上での設計妥当性を要求される。100万年という時間は、人類が地球上に今まで存在してきた期間よりも長いし、その間に文明がどう変わっていくかも見えてこない状況だろう。自分としては、核種変換技術に強い関心を持っており、例えば日本が、国内や他国のために長寿命核種を変換処理するということも考えられると思う。

・原子力技術の将来展望
 今後数十年が経過して、21世紀も半ばを迎える頃には、エネルギーをどのように生産し、分配、利用するかという状況はかなり変化していると予測する。現状では、核分裂による発電と再生可能エネルギーなどがベースロード電源として利用されているが、核融合も2050~2060年には電源ミックスの一部として現実味を帯びてくる。どの方式のものが良いのかや、経済性など不明な部分はあるものの、技術的には成立すると考えている。
 核融合は核分裂と比べて廃棄物がほとんど発生せず、燃料コストも少ないという利点がある。人類の文明が今後、何千年も続くことを考えると、再処理した場合でもウランはいずれ枯渇するし、電力貯蔵が可能になったとしてもベースロード用再生エネのバックアップとして核融合は必要だ。発電の方法と同様に、電力の利用方法も今後は大きく変わることが考えられ、ほとんどの交通手段が電化される可能性もある。信頼性の高い電力を必要とする人々も、今後ますます増えてくると思うし、核融合のみが長期的に信頼性の高いベースロード電源やバックアップ電源になり得ると考えている。