原子力白書が決定、コミュニケーションについて特集し英国の事例などを紹介

2018年7月5日

 原子力委員会は7月5日の会合で、「平成29年度版原子力白書」を決定した。概ね2017年度末までの原子力行政を巡る事柄をまとめたもの。福島第一原子力発電所事故を挟み、2017年に7年半ぶりに再開された原子力白書だが、今後も、昨夏に策定した「原子力利用に関する基本的考え方」などをフォローするものとして、毎年作成することとしている。
 白書は冒頭、「福島の着実な復興と再生、様々な改善に真摯に取り組むことがわが国の原子力利用にとって必須」と述べ、福島第一原子力発電所事故の反省と教訓を踏まえた取組の必要性を強調している。
 事故から7年が経過した現在、「依然として国民の原子力への不信・不安が根強く残っている」ことから、「原子力分野のコミュニケーション」について特集した。諸外国の事例も参考にしつつ、関係機関でコミュニケーション活動のあり方を考え、信頼構築につなげていくための「ステークホルダー・インボルブメント」について提言している。
 諸外国の事例としては、特に英国の先進的な取組について踏み込んでおり、科学技術分野のニュースについて専門家とメディアをつなぐ「サイエンスメディアセンター(SMC)」、政策立案において国の公衆との双方向対話を支援する「Sciencewise」プログラムなどを紹介している。
 白書作成に向けて、原子力委員会は年初めより準備を進めてきたが、今回の特集に際しては、英国のジャーナリズム事情やリスクコミュニケーションに詳しい日本科学ジャーナリスト会議理事の小出重幸氏や、(株)リテラシー代表取締役の西澤真理子氏らを招きディスカッションを行うなどした。
 原子力における重点的取組・方向性に関して取り上げた最近の動きとしては、現場の安全性をさらに高水準に結び付けていく仕組みを確立する業界大での「新たな機能」の立ち上げ(「原子力エネルギー協議会」として7月1日に発足)や、原子力委員会が1月より検討を進めている「わが国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方」の見直しなどがある。
 また、白書全体にわたって、トピックスや注目点を取り上げたコラムを随所に設けている。例えば、コミュニケーションの関連では、2014年の原産年次大会に登壇した英国王立大学のマルコム・グリムストン氏の主張を紹介した。同氏は、「安全であることを一生懸命説明すればするほど、逆に危険であるという不安を与える」とした上で、国民の理解に向け、原子力反対派も含む利害関係者との信頼関係の構築などを指摘し、コミュニケーションにおいて心理的側面も考える重要性を訴えている。