福島第一の安定化を支えた「Jヴィレッジ」が間もなく再スタート

発災後、福島第一安定化の拠点となったJヴィレッジ(2011年10月、©東京電力)

 原子力産業新聞では、1~3月に「福島第一原子力発電所廃止措置 現地で見る2018年の見通し」と題し、汚染水対策や使用済み燃料プールからの燃料取り出しなど、現場の取組状況を3回シリーズで紹介した。
 中長期ロードマップに基づき、廃炉を戦略的に進めるための作業環境も整ってきたが、2011年3月の福島第一原子力発電所事故発生を受け、当時、プラントの安定化や放射性物質の放出抑制を基本に据えた「事故収束」が推し進められた。その対応拠点として、作業員らの汚染検査・除染、防護装備の着脱、線量計の配布・回収などが行われていた場所が7月28日、本来の役割に復帰する。「Jヴィレッジ」だ。1997年に日本初のサッカーナショナルトレーニングセンターとして、福島県楢葉町に開設され、国内外の多くのトップチームが活躍した「Jヴィレッジ」がこのほど、全天候型練習場(2019年春オープン予定)、新たなホテル棟などを加え再スタートすることとなった。サッカーを通じたスポーツ振興はもちろん、今後、コンベンション機能も兼ね備えビジネスニーズへの対応も目指す「新生Jヴィレッジ」始動を前に、Jヴィレッジ副社長の上田栄治氏に話を聞いた。

Jヴィレッジの上田栄治副社長

- 福島第一原子力発電所事故から7年余りが経ち、施設の再開に至った気持ちは。

 自身は2013年7月からJヴィレッジに勤務しているが、発災当時は、日本サッカー協会女子委員長を務めており、利用する側の立場にあった。事故を受け、福島第一対応の中継基地として、サッカーピッチに仮設の寮などが置かれているのを見たときは、非常に驚き、がっかりし、また、本当に元通りになるのかと思った。実際に復旧工事が始まったのは、2015年3月頃で、人手が足りず工事はまず遅れるだろうと思っていたが、3年くらいでここまでできたのは、工事に係った人たちの尽力だと感じており、非常に感謝している。

- 今後の福島の復興加速化に向けて何が課題か。また、「Jヴィレッジ」では何ができるか。

全天候型サッカー練習場(約1万平方m、屋内最大高さ22m)

 やはり風評の払拭だと思う。「Jヴィレッジ」は、福島第一から約20kmの距離にあって、「本当にここでサッカーができるの?」という人がまだまだいる。日本のサッカーチームだけでなく、2019年のラグビー・ワールドカップでも、合宿に利用してもらい、「ここは大丈夫だ」と大きく発信されることで、徐々に風評も解消できるのではないかと思う。
 この8月には、子供から大人まで、色々なスポーツの合宿などのため、延べ7,000人近くの予約を受けている。誠心誠意で対応し、「安全なところだ」ということだけでなく、食事もおいしく、宿泊とトレーニング施設も近接し便利だということを感じてもらえるよう、皆で着実に取り組んでいくつもりだ。

- 福島第一で働く作業員らへ、何かメッセージがもらえれば。

 自身も現場を視察したことがあるが、数千人もの作業員が働いていると聞く。そうした人たちの力がなければ、われわれはこうして安心して暮らすことはできない。是非、引き続き頑張ってもらいたいし、また、多くの人たちに働く姿を見てもらうことも重要だと思う。

利便性向上に向け建設が進むJR常磐線「Jヴィレッジ駅」(仮称)

 上田氏は、この他、隣接のサッカー・エリート養成機関「JFAアカデミー福島」再開への期待、「Jヴィレッジ」元総料理長・西芳照シェフの思い出話を熱く語った。
 なお、「Jヴィレッジ」では、再スタートを祝し、7月28、29日に記念式典・オープニングイベントが開催されることとなっており、一般向けのグラウンド開放、トークショーやサッカー教室などを予定している。