柏崎刈羽原子力発電所を訪れて-現地で見る/聞く安全の取組

2018年10月15日

 東京電力柏崎刈羽原子力発電所では、今夏月例の所長会見で、同発電所内で進められている安全対策の状況について順次説明を行っている。2007年に発生した中越沖地震を受けての耐震性強化や、福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえた(1)津波から発電所を守る、(2)電源を絶やさない、(3)原子炉等を冷やし続ける、(4)放射性物質の拡散を防ぐ――ため、鋭意進められている取組だ。設楽親所長は、これらの取組に向け、現場の工事を着実に進めていくとともに、その進捗状況について、地域の皆様への丁寧な情報発信に努めるとしている。

緊急時にも「電源を絶やさない」、「原子炉等を冷やし続ける」ために備える車両群、同時に使えなくなることのないよう構内に分散して配備されている

 過日現地を訪れ、こうした安全対策の取組を直に見ることができた。
 緊急車両の配備状況、貯水池、フィルタベント設備と、いずれも屋外から安全対策の現場を眺望した。一方、外からは見えない地道な取組も数多くある。非常用電源などの重要な機器を浸水から守る水密扉、炉心損傷を想定した原子炉建屋水素処理設備、そして、配管サポート(支え)の追加・強化については、1プラント当たり実に1,400~3,000箇所に及ぶという。さらに、こうした対策が有効に機能するよう、厳しい訓練が繰り返し行われていることも忘れてはならない。

高台に新設された貯水池、2万トンの水を貯めることができる


 
危険を体で実感させる「体験型総合訓練棟」

高所からマット上に落下したダミー人形

 「バーーン!」高所からダミー人形が落下する。床面に敷かれたマット上とはいえ、その衝撃に戦慄が走る。ここは、柏崎刈羽原子力発電所敷地内に設置された「体験型総合訓練棟」。もちろん実際に遭遇しては決してならないが、現場作業に潜在する様々な危険を模擬的に体験させることで、危険に対する感受性を高め、危険予知能力や安全意識を向上させることを目的として、2018年に運用を開始した。

専用のゴーグルを装着して行うVR危険体験、実際に起きてはならない高所落下などを模擬体験することで事故の怖さを実感させる

 「体験型総合訓練棟」には、高所作業での危険を体験させる設備の他、電気の危険性や電気設備の仕組みを体験させる「電気・火災体験訓練室」や、これまでに起きた事故とその教訓について、パネル・映像、作業中の短絡により発火した電源盤などの実物展示を通じ、過去の失敗事例を伝承する「トラブル展示室」もある。

人財育成について聞く-「五感」を養うには運転中の現場へ

左より、大山昌晃氏、土田哲夫氏、秋山藤之氏(第一運転管理部兼第二運転管理部部長(担当))

 「体験型総合訓練棟」に先立ち、東京電力は2016年12月、原子力部門の全社員に原子力安全を高める知識・スキルを継続して学ぶ機会を提供するため、これまで本社や各発電所が保有していた人財育成機能を集約する「原子力人財育成センター」を設置した。

柏崎刈羽6号機を模したBWR運転訓練センターのシミュレータ、「チーム訓練により過酷事故を含め様々な事故対応を習熟させる」と大山氏は話す

 柏崎刈羽原子力発電所は現在、1~7号機のすべてが停止中だ。「シミュレーターで実機に近い環境で訓練できるが、やはり、五感に感じる熱、音、振動などは、火力発電所でも運転中のプラントに派遣して現場の感覚を身に付ける必要がある」と、同センター柏崎刈羽人財育成グループマネージャーの大山昌晃氏は、実体験の重要性を強調する。さらに、「実際に『運転している姿を見る』ことは意味がある」と、今後もこうした運転中の現場への派遣を継続していくとしている。
 柏崎刈羽原子力発電所の「ビジターズハウス」のエントランスには、日本機械学会から贈られた表彰プレートが飾られている。中越沖地震発生時に現場で的確な対応に当たった運転員チームに贈られたものだ。とはいえ、あれから10年以上が経過し、当時を知る運転員の中には既にリタイアしている者もいることだろう。「経験ある熟練者の活用も重要」、運転に係る土田哲夫氏(第一運転管理部発電グループマネージャー兼作業管理グループマネージャー/課長)も口をそろえる。
 そして、「K・S・A」と大山氏は言う。仕事を行う上で、「どのような知識(nowledge)が必要か」、「どのようなスキル(kill)を伸ばすべきか」、「どのような態度(ttitude)で臨むべきか」。発足から1年半の「原子力人財育成センター」だが、こうした要素から一つ一つの仕事を詳細に分析し、教材の開発や後進の指導はいかにあるべきか、などと世界レベルの人財を育成すべく鋭意取り組んでいる。