原子力総合シンポで防災を初めて取り上げ議論

2018年10月24日

 日本学術会議は10月22日、2018年度の原子力総合シンポジウムを開催し、「エネルギーの将来における原子力の位置付け」をテーマに討論した(既報)。さらに今回はもう一つのテーマとして、原子力防災が初めて取り上げられた。
 その中で、学術会議の防災減災学術連携委員長を務める慶應義塾大学特任教授の米田雅子氏は、56の学会から構成される「防災学術連携体」の活動を紹介した。同氏が代表幹事を務める「防災学術連携体」は、学術会議とも連携し、多分野の学会の参画を得て研究成果を防災・減災対策、災害復興に役立たせるよう取り組むネットワーク。9月には西日本豪雨および北海道胆振東部地震の被害について学術会議と共催で緊急報告会を開き、定員を超す参加者を集めた。また、2016年の熊本地震の際には、政府、自治体とも連携し、共同記者会見の開催や英文メッセージなどを含め、正しく迅速な情報発信に努めた結果、「デマ情報は少なかったのではないか」と、米田氏は述べた。「原子力は専門外」と話す米田氏だが、自然災害発生時の自治体の混乱や、重要な情報が伝わらず適切な避難行動につながらなかったという過去の経緯を振り返りながら、原子力防災に関して、「『安全神話』が国民に刷り込まれていないか」と指摘し、「福島第一原子力発電所事故を教訓に正しい準備を」などと助言した。
 この他、原子力規制庁上席原子力防災専門官の本間俊充氏が、技術的な観点から、原子力緊急事態の特徴を時間軸に沿って分析し、取り組むべき課題として、十分な訓練と責任ある組織の構築、意思決定プロセスの明確化、ステークホルダーの参画などをあげた。
 また、名古屋大学工学部教授の山澤弘実氏は、福島第一原子力発電所事故発生時の緊急時迅速放射能影響予測ネットワーク(SPEEDI)の運用の例を挙げ、「科学技術を扱う場面では、専門性を持つ人材が必要」などと、人材の適材適所を図るスキーム作りを、今後の原子力防災対策に向け要望した。