エネ研シンポ、IEA・グールド氏を招きWEO2018について議論
日本エネルギー経済研究所は1月11日、東京・港区の政策研究大学院大学で、国際エネルギー機関(IEA)が昨秋発表した報告書「ワールド・エナジー・アウトルック(WEO)2018年版」について話し合うシンポジウムを開催した。シンポジウムでは、報告書の執筆責任者を務めたティム・グールド氏(IEAエネルギー供給見通し担当部長、=写真)が講演に立った後、元IEA事務局長の田中伸男氏(笹川平和財団会長)、西澤淳氏(三菱商事執行役員)、李志東氏(長岡技術科学大学情報・経営システム工学課程教授)とともにパネルディスカッションを行った。
グールド氏は、世界のエネルギーの現状について、石油・ガスに関しては、2010年以降、ベネズエラ、ナイジェリア、UAE、イラク、サウジアラビア、ロシアの6大生産国による貿易収入額が「ジェットコースター」のように激しく上昇・下降を繰り返しているとした上で、中国の天然ガス需要の急増が市場に与える影響を懸念した。また、今回のWEOで、電力にアクセスできない人口が初めて10億人を下回ったとしている。
2040年までの一次エネルギー需要については、2017年時点で最も多い中国は今後伸びが鈍化するものの首位を維持し、インドはさらに急成長しEUを大きく凌ぎ、アフリカもサハラ以南の農村部開発の進み具合にもよるが増加し続け、東南アジアとともにEUとほぼ並ぶといった予測を図示した。また、原子力に関しては、躍進著しい中国やインドとは逆に、先進国では今後政策変更がない場合、高経年化が進行し発電規模がかなり減少するとの分析結果を示し、「地理的な面で大きな変化が待ち受けている」などと展望した。
こうした途上国を中心とするエネルギー需要の急増や、先進国における原子力の将来予測を踏まえ、グールド氏は、地球温暖化問題の解決に懸念を示し、「低炭素エネルギーの利用を徹底しなければならない。もはや万能薬などなく、総合的な政策を考えなければならない」と述べた。
パネルディスカッションでは、まず中国のエネルギー需要増に関して、西澤氏が、世界で拡大しつつあるLNG市場の現状について述べ、「米国の競争力もポイント」などとコメントした。また、李氏は、中国の原子力発電に関し、運転開始が進む一方で新規の建設は低迷しつつある現状から、再生可能エネルギー開発を加速化する必要性に言及した。これらを受け田中氏は、米中貿易摩擦、電力の需要サイドの動き、再生可能エネルギーの限界について最近の状況を述べ、今後の原子力開発に関しては、中国における建設費の上昇傾向や、福島第一原子力発電所事故以降、先進国で大型軽水炉を新設する困難さを指摘した。