【第52回原産年次大会】フランスの原子力政策と産業界動向について

2019年4月12日

 4月9日のリーダー・パースペクティブでは仏オラノ社CEOのフィリップ・クノル氏が「フランスの原子力政策と産業界動向」をテーマに登壇した。

 クノル氏は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が示した「2倍の電力と2倍のCO2削減」、フランスのエネルギー多年度計画(PPE)に基づく「原子力産業の見通し」、原子炉の新規建設における2021年までのロードマップ、燃料サイクルについての研究開発、産業界の課題について語った。

 地球温暖化は非常事態にあり、フランスでも環境問題として議論が過熱している。学生は「2050年には自分たちも50歳になる。京都議定書やパリ協定もあるのにCO2の排出量は増えるばかり。大人たちは何をしているのか」と問うているという。

 世界レベルでCO2を半減しなければならない。その一方で2050年には2倍のエネルギーが必要になるとされる。国ごとにコミットする炭素強度や排出原単位はあるものの、どんどん石炭が燃やされ、相反する状況を生んでいる。世界的には排出量そのものが減っていないという現実に直面している。

 これに対して解決策の一つになるのが「CO2の排出が少ない原子力だ」と同氏は強調する。世界エネルギー予測(WEO)によると、2050年までに原子力発電量を80%に伸ばしていくことがソリューションの一環となる。

 石炭の発電では、kWhあたり800gのCO2が排出される。ガスは400〜500g。原子力は、水力や太陽光よりも少なく、風力に匹敵する。原子力は二酸化炭素の排出量が極端に少ない。ところが、フランスでは4分の3の国民が原子力はCO2を排出していると思っているという。「気候変動の問題に対応する解決策の一環を原子力が担っているという理解を得たい」とクノル氏。

 2050年までにフランスが完全な脱炭素化を目指すにあたって、フランスのエネルギー多年度計画(PPE)が示した目標は、2028年には温室効果ガス排出量を2016年比30%減、2020年までに化石燃料消費量を2012年比35%減、再生可能エネ発電容量を2018年比100%増を目指すというもの。また、2023年までに住宅30万戸を電化リノベーションし、大気汚染源である化石燃料車から車両60万台以上を電気自動車への転換を図るといった具体策も示した。これにより2028年までに総エネルギー消費量を14%低減する狙いだ。2035年までに発電の多様化と原子力発電の割合を50%まで低減する。

 フランスの電力発電の95%は再生可能エネルギーと水力、原子力で構成されているため、CO2の排出は少ない。住宅と輸送の電化を進めることで実現性を高める。

 原子力の目標は2035年までにシェア50%へ減らすことが挙げられており、その方法として、2035年までに10年かけて14の原子炉を停止し、原子力発電所再生計画を検討している。ただし、原子炉の停止は、50年の運転に達したらということだ。さらに新しい原子力プログラムとして、2021年に向け、フランス政府とフランス電力は、新設原子炉のコスト低減策や新たな資金調達モデルなどについて検討を進める。

 原子力は批判の対象になりがちだが、経済性も高い。しかし反原発派は「原子力が安いから再生可能エネルギーの障壁になっている」と訴えてくる。そのため、「原子力は経済性が高い」ということは言わないようにするというのがマクロン大統領の意向だという。

フランスの原子力セクターでは、リサイクルや処理戦略が進む。既にフランスの10%の電力がMOX燃料などリサイクル材料で発電されている。リサイクルにより、経済的メリットだけではなく、安定供給にもつながっている。MOX燃料を発電量900MWクラスのPWRで使い、そのPWR閉鎖後は、年数の若い1300MWクラスのPWR発電所で再利用する。中期的にMOX燃料を6つのプラントで使う計画があり、原子力のリサイクルの第1段階という位置付けになっている。

 第2段階として、PWRにおけるプルトニウムのマルチリサイクルの研究を進める。開発プログラムの中で使用済みMOX燃料を使い、いずれは繰り返し使う。2025年に試験的に運用を開始するのが目標。研究成果を次世代につなぎ、2030年以降に新設される原子炉で使う。

 第3段階は、その開発をさらに続けて、リサイクルした材料を、高速中性子炉で使うという。この次世代原子炉は、日本のパートナーとの国際協力体制でプロジェクトを進めている。この3段階のステップでクローズド燃料サイクルの研究を行う。

 同社は、ウラン採掘、転換、濃縮、燃料の製造を手がけるほか、燃料のリサイクルやロジスティクスなど原子力に関するサービスを多岐にわたり提供する。全世界で16,000人の社員がおり、廃炉や解体の専門家は2,000人という規模。このほか、医療分野ではがん治療の臨床試験を実施しており、クノル氏は「原子力は気候変動だけではなく、がん治療などの医療分野でも果たせる」と自社の事業を紹介して講演を終えた。