学術会議シンポでエネ調原子力小委委員長の安井氏が講演、「未来社会の安全・安心」で討論

2019年7月5日

 「安全工学シンポジウム」が7月3~5日、日本学術会議(東京都港区)で35学協会の共催で行われた。今回は、「多様化する社会の安全・安心」がテーマ。4日の「未来社会の安全・安心」と題するセッションでは、総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会で委員長を務める安井至氏(持続性推進機構理事長)の特別講演を受け、安全工学会、日本機械学会、電子情報通信学会、化学工学会からのパネリストと会場参加者を交え意見交換が行われた(=写真)。
 安井氏は、先般閣議決定されたパリ協定に基づく長期戦略の検討を行う有識者懇談会に参画したが、同戦略に関し、「『気候正義』に基づいた新たな価値観が示された」、「300年に及んだ化石燃料利用の歴史を変えるのは大変なこと」などと所感を述べた。また、長期戦略で目指す最終到達点である「脱炭素社会」に向けて、2050年に産業界が直面する課題を例示し、鉄鋼・セメント製造でCO2排出ゼロはほぼ不可能なことを指摘。将来の日本のエネルギー供給を巡る課題として、送電網不足、原子力のバックエンド対策、異常気象対策などをあげ、「そろそろ検討を始めないと間に合わない」と警鐘を鳴らした。
 安井氏は、福島第一原子力発電所事故の教訓にも触れたが、自然災害の一例として昨今多発する集中豪雨の発生要因「線状降水帯」について説明した上で、「日本は自然のリスクに満ちあふれている。それ故『せめて人災だけは起きて欲しくない』という感覚が強い」と強調。さらに、「『リスクベース』での対応が理解できず、『安心』で議論しがち」などと、日本の国民性を指摘し、リスクを定量的にとらえられるよう科学リテラシー向上の必要性を訴えた。
 パネル討論では、安全工学会から野口和彦氏(横浜国立大学都市科学部教授)、日本機械学会から須田義大氏(東京大学生産技術研究所教授)、電子情報通信学会から荒川薫氏(明治大学総合数理学部教授)、化学工学会から三好徳弘氏(住友化学常務執行役員)が登壇。
 三好氏は、住友化学の持続可能な開発に向けた将来ビジョン「Sumika Sustainable Solutions」を紹介。44の製品・技術で5,000万トン規模のCO2削減やプラスチック資源循環に取り組んでいるという。
 須田氏は、自動運転による未来のモビリティ構想を披露。道路での自動運転導入には交通安全に関わる法整備や社会受容の課題もあり、「一つの技術だけでできるものではない」と強調し、自身の関わる東大の部門横断的な連携組織では理工学以外の学問分野も巻き込んだ再編を行ったとしている。
 荒川氏は、政府の統合イノベーション戦略が標榜する超スマート社会「Society 5.0」の実現に向けたAI技術やIoT(Internet of Things)の進展への期待を述べる一方、サイバー攻撃やプライバシー漏洩のリスク増大を指摘。倫理観の醸成や情報弱者へのサポートなど、取り組むべき課題をあげ、「科学技術の追求だけでは解決できない」と強調した。
 「リスク共生社会の構築」を提唱した野口氏は、社会に潜在するリスクの複雑化を述べ、「どのリスクをどのようなバランスで受け入れるか。どういった未来社会を目指すか」について、さらに学会間で連携し議論する必要性を訴えた。情報発信のあり方に関する討論の中で、野口氏は「コミュニケーションというのは、相手の話によって考えが変わることがあって意味をなす。説得し合うだけの議論では成り立たない」と主張。会場参加者からは議論の透明化を図る仕組み作りを求める意見などが出された。