将来の研究炉に関し学生も交えたシンポ、敦賀にて開催

2019年10月18日

新たな研究炉に寄せる期待が学生たちからも述べられた

 原子力研究や人材育成を支える試験研究炉への期待について話し合うシンポジウムが10月17日、福井県敦賀市の若狭湾エネルギー研究センターで開幕した。
 廃炉となる高速増殖原型炉「もんじゅ」の敷地に新たな試験研究炉を設置することとなったのを受け、2022年度からの詳細設計開始に向け検討を進めている文部科学省が主催。シンポジウムでは、2日間にわたり、産業界や大学・研究機関のニーズ、立地地域との共生のあり方などを議論し今後の検討に資する。
 開会に際し挨拶に立った福井県の櫻本宏副知事は、県内に立地する原子力発電プラントの廃炉進展の一方、3年後に控える北陸新幹線延伸や敦賀港の活気などから、「嶺南地域は関西圏の交通において高いポテンシャルを有する」と訴えた上で、さらなる地域振興を目指し「試験研究炉の活用に向けた機運醸成」を図っていく意欲を示した。
 基調講演で、東京大学大学院工学系研究科教授の上坂充氏は、試験研究炉の概要について説明し、中性子を用いた基礎・応用科学研究、核医学放射性同位元素製造などの産業利用とともに、「将来の原子力人材育成に必須」として、教育・訓練の場としての役割を強調。
 また、京都大学複合原子力科学研究所教授の川端祐司氏は、2017年に再稼働した「KUR」(研究用原子炉)と「KUCA」(臨界集合体実験装置)の利用状況とともに、「関西イノベーション国際戦略総合特区」や「熊取アトムサイエンスパーク構想」を通じた立地地域とのつながりについて述べたほか、中性子イメージングの多彩な研究成果を披露。水分挙動の可視化で、米国同時多発テロで見られた急激な高温加熱に伴う「コンクリート爆裂」現象の分析や、燃料電池開発にも活かされていることなどを紹介し、幅広い産業応用の可能性を示唆した。

海外からIAEAのラム・シャルマ氏が「国際的な教育・訓練に役立つことが重要」と日本の研究炉に期待、多国間で共同活動を行う国際研究炉センター(ICERR)のスキームも紹介

 シンポジウムの1日目には学生パネルディスカッションが行われ、福井大学大学院工学研究科の渡辺将弘さん、福井工業大学大学院工学研究科の青木祐太郎さん、東京大学大学院工学研究科の尾関政文さん、京都大学大学院エネルギー科学研究科の石黒明成さん、近畿大学大学院総合理工学研究科の島津美宙さんが登壇し、自身が取り組む研究や今後の試験研究炉に期待することを発表。
 「KUR」で実習を行った青木さんは「チェレンコフ光を実際に目で見たことが印象に残った」と話し、溶融塩炉の設計を研究する渡辺さんは「SMRに関心がある」として海外留学への意欲を示した。韓国での原子炉運転実習経験を持つ島津さんは、「日本の原子力産業に関心を持つ韓国学生とも交流がある」として、試験研究炉を通じた海外とのネットワーク作りの意義を強調。
 原子力教育に関しては、福井大学附属国際原子力工学研究所教授の宇埜正美氏が、敦賀キャンパスを拠点とした学部教育について紹介した。同氏は、新たな試験研究炉への期待として、学生の原子炉実習の他、考えうる様々な研究テーマを列挙。これに対し、会場参加者からは産学連携の可能性に関する質問があった。
 2日目は、民間企業や海外大学の関係者も参画し社会貢献の視点から議論が行われる。