日本学術会議・原子力総合シンポが開催、参加者と幅広く討論

2019年12月3日

 「原子力総合シンポジウム2019」が12月2日、日本学術会議(東京都港区)で開催された(=写真、同会議主催、関連48学協会共催・協賛・後援)。今回は、「社会のニーズと調和する原子力技術の開発・利用」をテーマに、3つの基調講演の後、会場参加者との質疑応答を中心に総合討論を行った。
 総合討論は、野口和彦氏(横浜国立大学大学院環境情報研究院教授)の進行のもと、パネリストとして、粟津邦男氏(大阪大学工学系研究科教授)、上坂充氏(東京大学大学院工学系研究科教授)、岡嶋成晃氏(日本原子力学会会長)、開沼博氏(立命館大学衣笠総合研究機構准教授)、松岡猛氏(宇都宮大学基盤教育センター非常勤講師)、山口彰氏(東京大学大学院工学系研究科教授)が登壇。
 討論に際し、原子力利用の原点として、原子力基本法が目的とする(1)将来におけるエネルギー資源確保、(2)学術の進歩と産業の振興、(3)人類社会の福祉、(4)国民生活の水準向上――や、原子炉等規制法が目的とする「原子力利用に伴う災害の防止」などが論点として提示された。
 これに対し、会場参加者から「資源・エネルギーは50年、100年、1,000年先を見据えた議論をすべき」との意見があったのに対し、総合資源エネルギー調査会の委員を務めている山口氏は、原子力の議論に関し、「政策的視点や社会による意思決定も関係する」と、リードタイムに関わる制約をあげる一方、「技術基盤は将来にわたって着実に維持していかねばならない」とも述べた。また、「持続可能な社会を実現するための原子力技術」との基調講演を行った粟津氏は、「例えば、2050年の生活者の視点に立って2020年の時点で何をすべきか。逆に30年前の1990年頃の考え方が今うまくいっているのか」を考察する「フューチャー・デザイン」と呼ばれる政策立案手法を紹介。さらに、将来的な人類社会への福祉の関連で、岡嶋氏は、国連の掲げる「持続可能な開発目標」(SDGs)をあげ、原子力科学技術がエネルギーの確保や気候変動問題の解決だけでなく、貧困撲滅や産業の技術革新に問題にも貢献する可能性を強調した。
 日本の原子力・エネルギー問題の関連では、会場参加者より、「原子力には、都会の人たちが受益者で、立地地域がリスクを背負っている特殊性がある」、「エネルギー需要そのものの妥当性も検証すべき」といった声があった。これに対し、地域との対話活動に取り組む開沼氏は、「リスクを背負っているだけでなく、世界最先端の技術が生まれていることがもっと発信されるべき」と、エネルギー生産地に対する理解を切望。福島第一原子力発電所事故の教訓について講演を行った松岡氏は、東日本大震災時に行われた計画停電に伴う需要抑制について、「のど元を過ぎる前に」と、遠からず検証しておく必要性を指摘した。
 また、同シンポジウムの成果について「若い人たちに継承していく努力が必要」との意見があったのに対し、上坂氏は10月に敦賀市で開催された将来の研究炉に関するシンポジウムでの大学生との討論を、開沼氏は8月に富岡町で開催された「福島第一廃炉国際フォーラム」の高校生セッションの経験をあげ、それぞれ若手を交えた議論の重要性を強調した。