人材育成から地域交流へ 長崎大・髙村教授に聞く、共同大学院開設のマインド

2015年10月16日

 長崎大学と福島県立医科大学は2016年4月より、「災害・被ばく医療科学共同専攻(修士課程)」の共同大学院を設置することとなった(7月10日既報)。この共同大学院では、被ばく医療、放射線健康リスク制御の分野で実績を持つ長崎大学と、東日本大震災を経験し災害医療分野での実績と経験を持つ福島県立医科大学とが、それぞれ独自の実績と強みを持ち寄り、相乗的に総力を結集し人材育成を図ることを目指している。同専攻には、医科学コースと保健看護学コースの2コースが置かれ、学生は、本籍を置く大学に通学してテレビ会議システムを用いた遠隔講義を受けるほか、両大学が開設する実習に参加する。

発災直後から続く長崎大学の福島支援
 実は、長崎大学は、東日本大震災・福島第一原子力発電所事故の直後から、福島の支援に継続的に取り組んでいる。被ばく医療、リスクコミュニケーション、子供の教育、高齢者支援など、発災から4年以上にわたり、状況の変化に応じて、同学の多くのスタッフが福島の人たちに寄り添い応援してきた。なかでも、事故後、一時全村避難を余儀なくされたものの、2012年1月に福島県下で初めて「帰村宣言」を行い、他の自治体に先駆けて復興へと動き出した川内村とは、2013年4月に包括連携協定を締結し、村内の児童施設「なかよし館」に長崎大学のサテライト施設である「長崎大学・川内村復興推進拠点」を開設し、土壌や食品などの放射能の測定、その結果をもとにしたリスクコミュニケーションに加え、小学校での授業や高齢者の介護予防など、活動の幅を大きく広げている。

TAKAMURA

共同大学院の相乗効果を強調する髙村教授

「放射線災害に備える人材が必要」、海外も視野に
 「医師もそうだが、放射線被ばくと健康影響について、長期的に住民に対し説明できる看護師・保健師レベルでの人がほとんどいなかったことが今回の事故の教訓」、さらに、これから原子力発電を導入する国々も増えつつあることから、「日本だけの問題ではない」として、アジアを始めとする海外からの留学生を積極的に受け入れ、国際的にも災害・被ばく医療分野に貢献できる人材育成を目指す。新たに設置される「災害・被ばく医療科学共同専攻」に向け、こう意欲を燃やすのは、事故発生直後の2011年3月19日に福島県放射線健康リスク管理アドバイザーに任命され、山下俊一長崎大学副学長とともに、福島の支援活動に取り組む同学原爆後障害医療研究所・髙村昇教授だ。「放射線災害に備える人材が必要」と、共同大学院設置に至った背景を力説する髙村教授だが、現在、原子力発電所再稼働に際し立地地域を中心に問題となっている避難計画に関し、「そもそもなぜ避難しなければいけないのかという説明が欠落している」、さらに突っ込んで「安定ヨウ素剤は何のために飲むのか、キチンと説明しないと住民には不安感が生じる」などと述べ、このような「なぜ?」に対し適切に対応できる人材育成の必要を強調する。
 また、長崎大学は国際機関との連携の歴史も古い。WHO職員として出向した経験もある髙村教授は、国際機関が持つ人的資源を積極活用することも考えており、国際スタンダードに則った人材を育成し、将来的には共同大学院で学んだ人たちが、プロジェクトを主導できる専門スタッフとして国際機関で活躍することにも期待をかけている。

ORITA

放射線に関する理解活動を通じ川内村との交流を図ってきた折田助教

「知の交流を通じた地域への貢献」に
 長崎大学として、川内村での活動の中核となり、同村を結ぶ役割を果たしてきたのは、同学大学院医歯薬総合研究科の折田真紀子助教だ。折田助教の川内村での活動は、帰村が始まった直後の2012年5月、当時保健学科修士課程に在学中、実地研修のため、1か月間村に滞在したのが始まりで、住民の家庭を訪問し、放射線の基礎知識や線量のこと、健康への影響などについて、わかりやすく説明して回った。2013年4月の「復興推進拠点」開設から、2年半余りが経ち、「折田氏が住民との間に信頼関係を築いてきたのは非常に大きい」と、髙村教授は述べる。一方で、今後の村の復興に向けて、村民人口の急激な減少と高齢化が障壁となっている。髙村教授は、今回の共同大学院開設を「知の交流を通じた地域への貢献」とも標榜し、学生が実習などで村を訪れることで「交流人口増加の起爆剤になれば」と期待を寄せている。

 髙村教授は、来る10月30日、原産協会の会員フォーラム(於、東海大学校友会館〈東京・霞が関〉)で、「放射線被ばくと住民の健康管理」をテーマに講演を行う予定。