第50回原産年次大会 今井会長 所信表明

(はじめに)
 日本原子力産業協会の会長を務めております、今井でございます。開会にあたりまして、ご挨拶を申し上げます。
 今回は第50回の原産年次大会となります。第1回大会は1968年に開催いたしました。

(過去の原子力を振り返る)
 当時は、運転を開始した東海発電所に加えて、建設中の3基を含む、多数の原子力発電所の新設が予定されておりました。
 また1968年は、旧日米原子力協定が締結された年でもあります。
 そのため第1回年次大会では、ウラン燃料の需要増大に対して、いかにしてこれを確保するか、また使用済燃料に含まれるプルトニウムをいかにして平和利用するか、という「核燃料問題」が基調テーマでした。
 原子力発電は、少量の燃料で、長期間にわたって多量のエネルギーを発生するので、当時主力とされた石油火力に比較して、燃料の輸送や備蓄が容易であり、また外貨負担を軽減できます。さらに使用済燃料をリサイクルできれば、
エネルギー自給率も向上致します。
 こうした理由から、当時のエネルギー政策において求められていた「低廉性と安定性の調和」を実現するものであるとして、原子力が大いに期待されていたことが、第1回大会の記録からうかがえます。
 その後、日本の原子力発電はわが国の高度成長とともに拡大し、低廉な電気を安定的に提供し続けることによって、長期にわたり日本経済を支えてきました。
 二度のオイルショックの経験から、原子力をベースロードとしたエネルギーの「ベストミックス」が構築されたのもご承知の通りです。
 第二次オイルショック直後の1979年3月には、スリーマイルアイランド事故、1986年4月には、チェルノブイリ事故もございましたが、原子力発電は、これを乗り越えて安全運転を積み重ねてきて参りました。
 その結果、2000年代以降になりますと、世界的なエネルギー需要の増大と地球環境問題を背景に、原子力発電が各国で再評価され、「原子力ルネッサンス」と言われるまでになったのは、記憶に新しいことと思います。

(原子力をめぐる現在の状況)
 そこへ2011年3月に福島第一原子力発電所の事故が発生したわけであります。
 事故後、エネルギー政策をめぐる議論は紛糾し、日本政府はエネルギー基本計画において、原子力を「重要なベースロード電源」としながらも、脱原子力を求める国民世論を踏まえて、原子力依存度は「可能な限り低減する」ことを決定致しました。
 また、わが国の原子力発電所は、順次、運転を停止して新規制基準への適合性審査を受けることになり、その過程で全ての原子炉が停止する経験も致しました。現時点においてもまだ、再稼働したプラントは、わずか5基に過ぎません。
 この先、原子力はもう必要とされず、他のエネルギーに置き換えられ、わが国の原子力発電はこのまま衰退していくのでしょうか?
 私は、決してそうしてはならないと思います。わが国のエネルギー需給は依然として海外から輸入した化石燃料に大部分を頼っており、安定供給の面において準国産エネルギーである原子力発電の重要性はいささかも変わってございません。
 また地球環境問題に関しても、わが国が国際社会に約束した、2030年に温室効果ガスを2013年からの17年間で26%削減するという目標があり、これは省エネルギーや再生可能エネルギーの普及に最大限に努めつつも、一定程度の原子力発電を活用しなければ達成不可能です。
 このように原子力発電は「安全性」を前提とした上で、「安定供給」、「経済効率性の向上」、「環境への適合」の「3E」の視点から、依然として極めて重要な電源であり、わが国にとって欠かすことのできないものです。
 従って、我々原子力産業界は、原子力が再び人々に信頼され、社会の役に立っていけるよう、事故を十分に反省したうえで、現在の難局を乗り越えていかなければなりません。

(原子力の未来にむけての展望)
 今後も原子力発電を続けていくにあたって、政府には原子力発電の重要性を国民にしっかりと説明していただくとともに、わが国が将来にわたって原子力を活用し続ける意思を、明確に示していただきたいと思います。
 事業者は安全性を最優先にして、再稼働した原子力発電所の安定運転を積み重ねるとともに、透明性を持って国民と対話し、原子力への信頼を回復しなければなりません。
 また、世界から注目されている福島第一原子力発電所の廃止措置に、あらゆる技術や知恵を結集して取組むことと同時に、福島の復興にも尽力しなければなりません。
 あわせて、核燃料サイクルの問題をはじめ、高レベル放射性廃棄物処分の問題、運転を終えた原子力発電所の廃止措置や、それに必要な人材の確保・育成などについても丁寧に対応し、原子力事業を着実に進めていく必要があります。
 一方、世界で運転中の原子力発電所は、439基、4億600万キロワットとなり、合計出力は前年に続いて過去最高を更新しました。
 現在も中国、ロシア、インドなどで約70基の原子力発電所が建設されている最中であり、その他に英国やトルコなどを含めて約100基にも及ぶ建設計画がございます。
 そのような建設計画を持つ国からは、わが国が持つ、これまでの建設・運転の経験、福島第一原子力発電所事故の教訓等を踏まえた、技術や知見が大いに期待されております。関係者には是非、その期待に応えていただきたいと思います。
 わが国の原子力産業界が現在の難局を乗り越えていくためには、業界がこれまで以上に一致団結して、また諸外国とも連携していかなければなりません。
 当協会は、そのような協力や連携の促進を通して、これからも原子力産業界の発展を後押しして参りたいと思います。

(今回の年次大会について)
 さて、第50回となる今回の原産年次大会は、「いま、過去を未来へ結ぶ」をテーマといたしました。今年も国内外の著名な方々にお集まりいただいております。
 開会セッションに続いて、セッション1では、「過去・現在・将来における原子力の役割」と題して、世界が直面する気候変動問題などを振り返り、原子力がどのような役割を果たせるか、日米の有識者の見解を伺い、日米協調の重要性など多様な視点を取り入れて議論してまいります。
 午後のセッション2では、「福島の現状と復興に向けて」と題して、国内外の方々がお集まりのこの場において、現地における復興の取組み状況を伺った上で、福島の復興のために原子力産業界が果たすべき役割についての、示唆を得てまいりたいと思います。
 明日のセッション3では、「海外の動向と日本への期待」と題して、新規原子力導入国の現状と見通しを伺いながら、海外の経験や展望に学び、日本への示唆や期待を伺ってまいりたいと思います。
 また、三つのセッションの後には、「若手が語る原子力の未来・夢」と題して、特別セッションを行い、将来を担う国内外の若手の方々から、原子力の将来展望や、原子力を活用した将来に対する夢を語っていただきたいと思います。

(結び)
 最後になりますが、お忙しいスケジュールの中、国内外から今回ご登壇いただく方々に対し、この場を借りて厚く御礼申し上げます。
 これをもちまして、私の所信表明といたします。
 ご清聴、ありがとうございました。

以 上

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