第51回原産年次大会 今井会長 所信表明

2018年4月9日

(はじめに)
日本原子力産業協会会長の今井でございます。開会にあたりまして、ご挨拶申し上げます。

(福島第一の状況、福島復興)
東日本大震災から7年が経過いたしました。7年の間に福島第一原子力発電所内の作業環境は大幅に改善し、建屋内滞留水や汚染水発生量低減方策も一段落いたしました。今後は引き続き使用済み燃料の安全な取り出しや浄化処理水の処分について取り組まなければなりません。
福島の復興につきましては、明日のセッションで詳しくお話いただく「イノベーションコースト構想」などの復興政策が進む一方で、福島県産品に対する風評被害の問題など、依然として多くの課題が残されております。
原子力産業界は引き続き一体となって、福島の復興・再生に取り組んでいかなければなりません。

(エネルギー政策)
さて、本年2月に大雪が降った際に、低い気温のために電力需要が高まったことと、太陽光パネルが数日間にわたって雪に覆われたことなどの要因が重なりまして、東京電力管内の電力が逼迫したことがございました。このときに東京電力は他の電力会社からの電力融通を受けて停電を回避したことがございました。
欧州などと違って、四方を海に囲まれたわが国が再生可能エネルギーの導入を拡大しようとした場合には、その出力変動を国内で吸収するような設備や制度を整備しなければなりません。これには大変な時間とコストがかかりますので、短期間のうちに大量の再生可能エネルギーを導入し、エネルギーを転換することはできません。
このような観点から、先月衆議院に提出されました「原発ゼロ基本法案」は現実的ではないと思います。
現実に目を背けて原子力を避け、現在と同じように火力発電に頼り続けるならば、わが国は国際社会に約束した2030年のCO2削減目標を達成できなくなってしまいます。
つまり、地球環境問題と向き合いながら安く安定的な電力を使っていくためには“再生可能エネルギーと原子力の共存”こそが不可欠であり、再生可能エネルギーの導入を拡大すると同時に、安全が確認された原子力発電所をしっかりと運転していくことが重要でございます。
さらに、2050年にCO2を80%削減するという目標を達成するためには原子力発電所の新増設が欠かせません。

(既存プラントの最大限の活用)
再稼働の状況を見ますと、先月、大飯発電所3号機と玄海原子力発電所3号機が運転を再開したところでございますが、この2基を含めましても、新規制基準をクリアして再稼働に至ったプラントはわずか7基に過ぎません。また、規制をクリアした原子力発電所が裁判所に運転差止めを命じられた事例がいくつか発生しております。
停止している原子力発電を補っているのは、主に火力発電であり、多量のCO2排出を伴うばかりでなく、焚き増ししたための燃料費によって国民負担が増大している状況でございます。また、再稼働の遅れはプルトニウム利用の計画にも影響いたします。
わが国の原子力発電所の安全対策は、震災の経験を踏まえまして格段に向上いたしております。早急に、新規制基準への適合性審査を進めていただき、既存の原子力発電所を最大限に活用していただきたいと思います。

(40年ルール)
また、現在行われている東海第二原子力発電所の審査は、運転開始から40年を経過いたしますと、審査の結論が出る前に運転期間が終了、つまり廃炉が確定してしまいます。このようなルールは合理的ではないので早急に見直していただきたいと思います。

(海外展開)
世界を見ますと、中国、ロシア、インドなどでは積極的に原子力発電所の新増設が進められております。世界の原子力発電所の設備容量は合計で4億900万kWとなり、3年連続で過去最高を更新いたしました。まさに右肩上がりでございます。
そのような中で、わが国の技術や知見は諸外国から大いに期待されており、英国やトルコのプロジェクトには、日本のプラントメーカーが積極的に関わっているところでございます。様々な困難を乗り越えてプロジェクトを成功させていただきたいと思います。

(人材育成)
原子力が未来を担っていくためには、設計から始まりまして、建設、運転、メンテナンス、廃止措置などを支える、人材の確保、育成が重要でございます。
優秀な人材を確保するためには原子力の価値や果たすべき役割、将来のビジョンなどを明確にし、広く社会に発信していく必要があると思います。そして確保した人材を育成していくためには、何よりも生きた現場が必要でございます。
また、夢ややりがいを感じられる新規プロジェクトの存在も重要でございます。原子力におけるイノベーションについては明日のセッションで議論いたしますけれども、新しい原子炉の開発だけでなく、例えばデジタル技術の活用によって、運転やメンテナンスなどの分野にもイノベーションが期待できます。
新しい技術の導入によって、原子力技術がより魅力的なものになれば、優秀な若者が原子力産業を目指すきっかけにもなるものと期待しております。

(今回の年次大会について)
さて、第51回となる今回の原産年次大会は「原子力が未来を担うエネルギーたり得るには」というテーマといたしました。本日と明日の2日間で、「エネルギー政策」、「福島第一と復興の現状」、「海外展開」、「原子力におけるイノベーション」、この4つについて議論してまいります。実りある大会になることを期待致しております。
最後に、今年もお忙しいスケジュールの中ご登壇いただく方々、また国内外からお集まり頂いた大勢の皆様に対しまして、この場を借りて厚く御礼申し上げます。
これをもちまして、私の所信といたします。ご清聴、どうもありがとうございました。

以 上

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