2020年の年頭にあたり

2020年1月6日

一般社団法人 日本原子力産業協会
理事長 高橋 明男

 新年明けましておめでとうございます。
 いよいよ今年からパリ協定の目標に向けた取り組みが開始されます。わが国は2030年までに温室効果ガス排出量を2013年度比で26%削減することを国際公約とし、「脱炭素社会」を今世紀後半のできるだけ早期に実現していくことを目指して2050年までに80%削減するという長期目標を掲げております。これらの目標達成をより確実にするためには、原子力発電を含むあらゆる技術を総動員していくことが不可欠と考えます。そのためにも早期再稼働および稼働プラントの運転実績を着実に積み重ねるとともに、たゆまぬ安全性向上や新増設・リプレースの実現に向けて産業界一丸となって取り組んでいかなければなりません。
 2020年の年頭にあたり、当協会の本年の取り組みについて4点述べたいと思います。

<原子力発電に対する理解の促進>
 わが国は、パリ協定の国際公約の実現に向けて2030年に発電電力量の20~22%を原子力で賄う計画です。それには30基程度の原子力発電所の稼働が必要ですが、これまで再稼働したプラントは9基と大変厳しい状況です。2050年の目標達成も考えると、残るプラントの早期再稼働はもとより、40年超プラントの運転期間延長、さらには新増設やリプレースが必要です。これらを実現するためには、原子力発電をはじめ原子燃料サイクルや高レベル放射性廃棄物の処分等について広く国民の理解を得ることが欠かせません。
 国民の皆様の理解と信頼の獲得には、原子力事業者や関係団体をはじめとする原子力産業界が一丸となって真摯に取り組むことが重要です。当協会ではこれまで築き上げた内外の多様なネットワークを活用し、正確な科学的根拠に基づくわかりやすい情報発信に努め、原子力発電の価値に対する理解促進に引き続き取り組んでまいります。

<福島復興支援>
 福島第一原子力発電所事故から約9年が経過しますが、避難指示区域外から避難されている方を含め未だ4万人を超える方が避難生活を強いられています。昨年は発電所の立地自治体の1つである大熊町の一部避難指示解除を受けて新庁舎での業務が開始され、さらに今年3月には帰還困難区域を通るJR常磐線の全線再開が予定されるなど、復興に向かって前進しています。
 関係の皆様の努力の成果により、福島県産品に対する風評被害は改善されつつあります。当協会はさらなる福島県産品の安全性の理解に向け、科学的裏付けのあるデータをわかりやすく発信する等、風評払拭の一助となるよう努めてまいります。
 福島第一原子力発電所では、「中長期ロードマップ」に基づき廃止措置等に向けた取り組みが進められております。本年においては、3号機使用済燃料プールからの燃料取り出しの継続や、今後予定されている1、2号機での燃料取り出しに向けた準備、2号機からの燃料デブリ取り出しに向けた研究開発等が着実に進められることを期待しています。
 また、多核種除去設備等処理水の取扱いについては、国の委員会で技術的な観点に加え社会的な観点も含めた総合的な検討が進められております。昨年、経済産業省は処理水を放出した場合の放射線による影響について、自然放射線による年間被ばくと比較しても十分に小さいとの評価結果を公表しました。当協会も対話活動や国際協力活動などを通じ、処理水の取扱いに関する検討状況や環境に放出した場合の影響評価等について、国内外で正しい理解が醸成されるよう取り組んでまいります。

<国際協力>
 福島第一原子力発電所事故後も世界では原子力発電の導入が進んでいます。わが国の原子力技術は海外でも高く評価されており、原子力分野での人材育成や技術協力などを通じて、世界の原子力平和利用や安全性の向上に貢献できるものと考えています。
 また、自由化された電力市場における新規建設の難しさ、気候変動対策としての原子力の認知度の低さなど、世界各国の原子力発電は共通した課題に直面しています。当協会では海外の原子力関係団体とのネットワークを活かし、アジアや欧米諸国との会合や対話を通じて共通課題の解決への取り組みを進めてまいります。

<人材確保・育成>
 原子力発電はプラント建設から運転、廃炉、また原子燃料のフロントエンドからバックエンドまで幅広い分野で長期にわたり継続的な人材の確保と育成が欠かせません。特に、少子化の中で原子力産業に携わる人材を確保することが難しく、さらに再稼働が進まず新規建設も見通せないことから、技術・技能の維持向上が課題となっております。
 わが国には産官学80の機関が参加する「原子力人材育成ネットワーク」があり、これまで人材育成にかかわるロードマップの作成や情報共有等を行ってきました。このような中、人材育成を国全体としての整合性を図りながら戦略的に進めるため、昨年組織改編を行い、戦略策定機能を担える組織へと強化しました。当協会は本年も引き続きネットワーク事務局の一員としてその役割を果たしてまいります。
 また、昨年国により新たに「革新的原子力技術開発予算」が設けられ、原子力のイノベーション促進に向けた支援が始まりました。イノベーションには優秀な人材を引き付ける要素があり、若い技術者のモチベーションを上げることができると大いに期待しています。当協会は、原子力産業が夢とやりがいのある産業であることを知ってもらう活動を関係機関と協力して取り組んでまいります。

 当協会は、会員の皆さまとともに原子力産業の諸課題の解決に向けた取り組みを進めてまいりますので、本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

以 上

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