2021年の年頭にあたり

一般社団法人 日本原子力産業協会
理事長 新井 史朗

新年明けましておめでとうございます。

昨年は新型コロナウイルスの感染拡大により、世界的に経済成長率はマイナスとなり、エネルギー需要は減少しました。世界各国は新型コロナによる影響からの経済復興に「グリーン・リカバリー」を掲げ、環境と経済の両立を目指しています。

わが国も、成長戦略の柱に「経済と環境の好循環」を掲げ、2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを宣言しました。この目標を達成するためには、二酸化炭素の排出削減のみならず、経済性に優れ電力の安定供給に貢献する原子力の活用が必要不可欠です。そのため、新規制基準に基づく設置変更許可を取得した柏崎刈羽6,7号機、女川2号機、東海第二、高浜1,2号機、美浜3号機の再稼働に向けたプロセスが順調に進むことを強く期待します。

持続可能な未来と発展のため、原子力産業界は、たゆまぬ安全性向上に努めながら、運転期間延長や稼働率向上により既設炉を徹底的に活用すること、さらに、新増設やリプレースの実現に向け一丸となって取り組んでゆかなければなりません。

2021年の年頭にあたり、当協会の本年の取り組みについて、以下4点述べたいと思います。

<原子力発電に対する理解の獲得>
昨年議論が始まった「第6次エネルギー基本計画」において、原子力依存度を可能な限り低減するという現方針が見直されること、そのうえで原子力発電所の新増設やリプレースについて前向きな言及がなされることが重要です。そのためにも、気候変動対策をはじめ、電力の安定供給、エネルギー安全保障や経済性の観点からも原子力が高い価値を持つことについて広く国民の理解を得ることが欠かせません。国民の皆さまの理解と信頼の獲得には、原子力事業者や関係団体をはじめとする原子力産業界が一丸となって真摯に取り組むことが重要です。

当協会では、これまで培ってきた国内外の多様なネットワークを活用し、各種情報ツールや双方向対話を通じて丁寧でわかりやすい情報発信に努め、原子力発電の価値に対する理解獲得に引き続き取り組んでまいります。

<福島復興支援>
福島第一原子力発電所事故から約10年が経過し、福島では特定復興再生拠点区域復興再生計画や福島イノベーション・コースト構想の下で復興に向けた様々な取り組みが進められています。立地地域の方々や避難されている方々の安心のためにも、今後も福島第一原子力発電所の廃炉を着実に進めていかなければなりません。

福島第一原子力発電所では、廃止措置に向けた中長期ロードマップに従い、3号機使用済燃料プールからの燃料取り出しが進められており、引き続き1、2号機の燃料取り出しや1~3号機燃料デブリ取り出しの開始に向けて順次作業が進められています。また、多核種除去設備等処理水については、技術的および社会的な観点からの検討や関係者との対話を踏まえて政府が処分方法を決定する見通しです。

当協会は、地域に寄り添いながら復興活動を支援するとともに、風評の払拭に向け、国内外の関係組織等と連携し、放射線の影響などについて正しい理解が醸成されるよう取り組んでまいります。

<人材確保・育成>
原子力発電はプラントの設計・建設から運転・保守、廃炉、また原子燃料のフロントエンドからバックエンドまで幅広い分野で長期にわたり継続的な人材の確保と育成が欠かせません。特に、少子高齢化の中で原子力産業に携わる人材を確保することが難しく、さらに再稼働が進まず新規建設も見通せないことから、技術や技能の維持・向上が課題となっております。

また、海外では小型モジュール炉(SMR)をはじめとする革新的原子力技術の開発に関心が高まっていますが、わが国においても昨年末に政府から出された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」において、SMRや水素製造原子力など多様な原子力技術のイノベーションを加速化していくことが示されました。イノベーションにより優秀な人材を引き付け、若い研究者や技術者のモチベーションが上がることも大いに期待しています。

当協会は、学生向けのセミナー開催などを通じ、原子力産業がチャレンジングでやりがいのある産業であることを知ってもらうことにより人材確保支援に努めるとともに、産官学82機関が参加する「原子力人材育成ネットワーク」の事務局の一員として、原子力人材育成を国全体としての整合性を図りながら、効率的、効果的かつ戦略的に進めてまいります。

<国際協力>
世界では英国、中国、ロシア、東欧、中東、インドなどで原子力発電所の新増設が進行し、アフリカや東南アジアでも新規導入の検討が行われるなど、原子力発電の開発利用の動きが高まっています。わが国が培ってきた原子力技術は世界の原子力利用促進や安全性の向上に貢献できるものと考えています。

また、世界的に脱炭素社会の実現に向けた動きが加速する中、ESG投資基準における原子力の扱いや自由化された電力市場における新規建設の難しさなど、世界各国の原子力産業界は一国だけの問題ではない共通した課題に直面しています。

当協会は、官民で連携してわが国の原子力産業の海外展開への支援に努めるとともに、長年信頼関係を築き上げてきた海外の原子力関係団体との連携を活かして、共通課題解決の検討や国際社会へのメッセージ発信などの取り組みを進めてまいります。

当協会は、本年も会員の皆さまとともに原子力の諸課題解決に向けた取り組みを全力で進めてまいりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

以 上

 
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