原子力の持続的活用と原子燃料サイクルの意義について

一般社団法人 日本原子力産業協会
理事長 新井 史朗

エネルギーは国民の安全と豊かな生活を支える国の基盤であると同時に、その重要性がゆえにいつの時代でも国際紛争の火種にもなってきた極めて戦略性の高いものである。エネルギー政策の在り方は国の命運を左右すると言っても過言ではない。

こうしたことからわが国のエネルギー政策は、S+3Eの観点を基本的視点として、これまで多くの真摯かつ丁寧な議論が重ねられてきた。そして、その結果としてエネルギーセキュリティ確保、資源の有効利用、放射性廃棄物の減容化・有害度低減などの観点から、原子燃料サイクル路線を前提とした原子力発電が導入され、今日に至っている。

原子力は、安定供給の観点から極めて強靭で、経済性に優れ、かつ環境に対し持続可能な最も信頼できる確立された技術である。国際エネルギー機関(IEA)や国際原子力機関(IAEA)など主要な国際機関によれば、地球規模でのカーボンニュートラルを実現するために原子力は必要不可欠なエネルギーであると評価されている。

今後、脱炭素社会を目指し多くの国で原子力の活用が拡大していく中、わが国においても、2050年カーボンニュートラルを達成しその後も脱炭素社会を維持していくためには、原子燃料サイクルによって限りあるウラン資源を有効利用しつつ持続的に原子力を活用していくことが欠かせない。

私ども原子力産業界は、原子燃料サイクル政策に基づき、地元のご理解とご協力を得ながら、長年にわたり、人材育成、技術開発を行い必要な産業基盤を築き上げてきた。近い将来予定されている六ヶ所再処理工場とMOX燃料工場の稼働により、長期的に人材、技術等を維持継承できる事業環境がいよいよ整うこととなり、わが国のエネルギーセキュリティが一層強固になる。

しかしながら、こうした産業基盤は、事業の継続性によってはじめて維持確保されるもので、事業を一旦止めてしまうと、人材や技術はもとより、これまで長年にわたり政策へのご理解とご協力をいただいてきた地元の信頼も喪失してしまう。このことは「原子燃料サイクルによる持続的なエネルギー利用」という貴重な選択肢を将来にわたって失うことを意味する。

また、わが国は非核兵器国の中で、大規模再処理が国際的に認められた唯一の国であり、我々世代にはこの国民の財産とも言える貴重な権利を次世代へ大切に受け継いでいく責任があるが、一旦事業を止めてしまえば、同様に失われてしまうことになるだろう。

さらに、原子力発電所の運転は、原子燃料サイクルと一体不可分であり、それを前提とした地元のご理解を得て行われているものである。この前提が崩れる場合には、既設原子力発電所の稼働が困難になる事態になりかねない。

このようにS+3Eを前提に2050年カーボンニュートラルを実現するためには原子力発電の持続的活用が重要であり、そのためには原子燃料サイクルを推進していくことが必要である。当協会としては原子力の価値や、原子燃料サイクルの意義について、国民の皆さまにご理解を深めていただけるよう引き続き努めてまいりたい。

以上

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