パリ協定の目標達成に期待される原子力発電

一般社団法人 日本原子力産業協会
理事長 新井 史朗

国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が英国グラスゴーで開催された。産業革命前からの気温上昇を1.5℃に抑える努力を追求するとした「グラスゴー気候合意」が採択され、今世紀半ば頃までに温室効果ガスを急速かつ大幅に、継続して削減する必要性が示された。

今回のCOPでは、例年以上に原子力に関する議論が活発に行われた。国際原子力機関(IAEA)は、COPに先立ち「ネットゼロ世界のための原子力」報告書を公表し、COPでは数多くのイベントを開催した。その中でグロッシー事務局長は、気候変動という非常に深刻な問題に具体的に取り組むうえで、原子力がますます魅力を増していることは明白であり、より多くの国々が原子力を気候変動の解決策の明らかな一部として注目していると述べた。

一方、国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長は、COP26で示された各国の公約により地球の気温上昇を1.8℃には抑えられるが、1.5℃を目指すには2030年までに急速な排出削減が必要だと発表した。気候問題に真剣に取り組むならば原子力は不可欠な役割を担っているとして、欧州や北米、アジアでの原子力発電所の新設を呼びかけた。

世界の原子力産業界も、COPに先立ち、国連の持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けた原子力の貢献を示す共同報告書を公表した。またCOP会期中は、当協会もNuclear for Climate (N4C) ネットワーク(世界150以上の原子力関連組織が参画するイニシアティブ)に参加し、サイドイベント開催の他、世界各国の政府関係者やNGO参加者に、「原子力発電は低炭素電源であり、増大する電力需要を満たしながら、温室効果ガスを削減するための解決策の一つである」ことをアピールした。

IAEAやIEAが指摘するように、現在、多くの国々が気候変動対策として新たに原子力発電を導入することを検討しており、すでに30カ国以上が新規に原子力プログラムを計画または策定、20カ国以上が原子力技術に強い関心を寄せている。一方、原子力先進国でも動きがある。英国は「ネットゼロ戦略」を公表し、大型原子力発電所の建設や小型モジュール炉(SMR)や先進型炉の開発支援を国家戦略に位置付けた。フランスはマクロン大統領が、エネルギー自立と電力供給を保証し、2050年カーボンニュートラルを達成するために、SMR開発への投資に加え大型原子力発電所の建設再開を表明するなど、原子力発電推進の必要性を前面に押し出している。

原子力は、安定供給の観点から極めて強靭で、経済性に優れ、かつ環境に対し持続可能な最も信頼できる確立された技術であると同時に、高速炉、SMR、高温ガス炉、核融合など今後も一層成長が期待できるイノベーティブな技術でもある。また、発電部門以外にも、熱供給や水素製造により産業、輸送、家庭など様々な部門の脱炭素化を支えることが期待されている。

11月8日、岸田文雄首相が議長を務める新しい資本主義実現会議が緊急提言をまとめ、2050年のカーボンニュートラル、2030年度の排出削減目標の実現に向けて、原子力や水素などあらゆる選択肢を追求すると、1.5℃目標達成に向けたクリーンエネルギー技術の貢献に強い意欲を示した。

原子力発電は、100万kWあたりのCO2排出削減効果は約310万t-CO2/年であり、現在運転可能な33基が稼働すれば、2019年のエネルギー転換部門CO2排出量の約24%を削減する効果が期待できる。

原子力産業界としても、原子力技術の最大限の活用を通じて2050年カーボンニュートラルに貢献する所存である。

以上

 

(参考)

印刷ページはこちら。

お問い合わせ先:企画部 TEL:03-6256-9316(直通)