「エネルギーミックスを考えるにあたって」

2014年11月19日

一般社団法人 日本原子力産業協会
理事長 服部 拓也

本年4月にエネルギー基本計画(以下、エネ基)が決定され、原子力発電の確保すべき規模については、エネルギーの安定供給、コスト低減、地球温暖化対策とともに技術維持、人材の確保の観点から見極める、としているものの、再稼働の見通しや運転期間 40 年制限問題への対応、そして将来の新増設計画が不透明な現状では具体的に示すことは難しい。また、太陽光発電の接続制限問題に端を発して再生可能エネルギー(以下、再エネ)の全量買い取り制度(FIT)の在り方が議論されるなど新たな課題も出てきており、エネルギーミックス自体の議論が進まず、京都議定書に替わる 2020 年以降の新たな枠組みを議論する2015 年 12 月の COP21(パリ)に向けた温暖化ガス削減目標の検討にも影響を与えている。

一方で世界の主要国に目を向けると、EU が全体の温暖化ガス削減目標を早々に発表したのに続き、これまで温暖化対策に積極的でなかった米国、中国が揃って削減目標を既に表明しており、我が国の出遅れ感は否めない。
そうした中、国際エネルギー機関(IEA)は世界エネルギー展望(WEO2014)において発電部門から排出される CO2 の削減が重要であるとし、課題はあるものの温暖化対策上の原子力発電の役割を評価した上で、2040 年における世界の原子力発電の規模は現状より 60%の増加、総発電量に占める割合を 12%とし、日本での原子力発電の割合は 21%と算定している。

このように海外での議論が先行して進み、外堀を埋められた形で国内の対応を決めていくという構図は、これまで地球温暖化対策をリードしてきた我が国の姿勢を問われかねないことから、一日も早く温暖化対策に関する我が国の考え方を提示することが求められている。

そもそも、我が国は省エネ、効率化の技術革新が進んでおり、一人当たりの排出量や GDP あたりの排出量も小さく、日本の総排出量が世界全体の 4%弱と米国と中国を合わせた量の 10 分の 1 以下であることを考えると、省エネ技術や世界最高水準の熱効率を誇る我が国の石炭火力発電などの高い技術力により、世界の温室効果ガス排出量削減に貢献することを、我が国の温暖化対策の柱とすべきであろう。

その上で、原子力発電の比率について温暖化対策の観点から試算し、議論の叩き台として次の通り提示してみたい。我が国の福島第一発電所事故前の発電比率は、原子力約 30%、火力(ガス、石炭、石油)約 60%、再エネ(含む水力)約 10%であった。これはベストミックスを追求してきた結果であり、これを今後のエネルギーミックス検討の出発点とすると、発電の際に CO2 を排出しない、いわゆるゼロエミッション電源(再エネと原子力の合計)が約 40%となる。
現状は全ての原子力発電所が停止しており、原子力 0%、火力 90%、再エネ10%という比率であるが、ゼロエミッション電源の比率を事故前のレベルである最低 40%まで戻すことを現実的な目標として検討のベースに考えてみたい。
なお、残る 60%を占める火力の発電方式をより効率的なコンバインド・サイクル発電などに置き換えることと、燃料を CO2 排出量の小さい天然ガス燃料への転換を進める取組みも欠かせない。

再エネについては、エネ基において 2030年時点で 20%以上の導入を目指すとされており、現状の 10%(水力 9%、その他 1%)から 20%とすることは、努力目標として適切と考える。原子力は、事故前の 30%から依存度低減というエネ基の方針を考慮して、残る 20%をカバーすることにする。
どちらか一方ではなく、再エネの割合を増やすとともに原子力発電の再稼働を進め、火力発電の割合を相対的に小さくすることが重要である。しかし、経済性や系統接続の観点で課題が残る再エネの割合を増やしすぎることは、国民に過大な経済的負担を強いることにもなる。また COP21 での約束事項は国際的な公約でもあり、再エネは今後、更なる技術開発がなされていく電源ではあるものの導入量について過度の期待は禁物で、これらを踏まえ現実的な検討が必要である。

それ故、それぞれ不確定要素による変動幅をプラス・マイナス 5%程度考慮し、15、20、25%となった場合のケーススタディーも行っておくことを推奨したい。
ちなみに、我が国の年間総発電電力量が 1 兆 kWh で一定と仮定して、設備利用率を平均 80%とすると、原子力発電が 15%、20%、25%を担うために必要な設備量は、それぞれ約 20GW、28GW、36GW と現状の 44GW から低減されることになり、原子力依存度を低減していくという方向性とも一致する。

ここで示したものはあくまで試算であり、これを達成したとしても福島第一発電所事故前の水準に戻ったに過ぎず、ゼロエミッション電源の割合を 40%以上にするためにはさらなる努力が必要であるが、いつまでも足踏みしているのでなく、いくつかのシナリオについて議論を開始していくことが重要である。
原子力発電について今後の廃炉計画、新増設計画等を時間軸で展開して、現実的な数字とあわせて、我が国としての CO2 排出量削減計画の検討が進み、結果としてエネルギーミックスの議論が進展することを期待したい。

以上

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