海外の事例に学ぶ~フランス電力会社の事故即応チームを訪問して~

2014年12月10日

一般社団法人 日本原子力産業協会
理事長 服部 拓也

先月、福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえてフランス電力会社(EDF)が緊急時の対応能力を向上させるために新たに設けた事故即応チーム(FARN)の地域本部があるパリュエル原子力発電所を訪問し、地域本部の隊長と意見交換するとともに、隊員の訓練の様子を視察する機会を得た。
そこで見聞きしたことは、我が国の緊急時対応能力の実効性を高めるうえで大いに参考になると考えられることから、その概要を紹介したい。

1.EDFが自主的にFARNの設置を決定、その後、規制の要求に
EDFは福島第一原子力発電所事故後、EU大で実施したストレステストの結果等を踏まえ、各発電所で追加の安全対策を実施しているが、緊急時の対応能力を更に強化するため、自主的に原子力発電所を外部から支援する組織であるFARNを設けることを決定した。
EDFは19のサイトに合計58基(出力6,588万kW)の原子力発電所を所有しているが、これらを地域ごとに4グループに分け、パリュエル発電所の他、シボー、ダンピエール、ビュジェイの各発電所にFARNの地域本部を配置している。各地域本部はパリにある中央本部と連携して、緊急事態が発令された発電所に向けて必要な資機材とともに現場に到着し、当該発電所内の緊急時対応を支援する任務を負っている。
FARNの取り組みは2011年にとられたEDFの自主的な措置であったが、その機能の重要性に鑑み、その後、2012年から原子力安全規制当局(ASN)の要求事項となっている。

2.緊急時対応は事故対応に習熟した専門家の参加が不可欠
EDFによれば、シビアアクシデントのような緊急時の対応は、情報が錯綜する中でシナリオのない臨機応変の対応が求められ、まさに戦時対応であり、このような緊急時の対応に習熟している軍隊経験者の知見が欠かせないとのこと。FARNの地域本部の4人の隊長の内、2人は軍隊出身で、一人は原子力潜水艦の艦長経験者、もう一人は陸軍経験者であるとのこと。EDFの公募に応募し採用されたFARNパリュエル地域本部の隊長は電力会社と軍隊組織との文化の違いに戸惑いながらも、安全確保に対する強い使命感を持ち、2015年末までにハード、ソフト両面で必要な機能が発揮できるよう、隊員の連帯感を高めるべく訓練を指揮していた。

3.隊員の能力向上のため、実戦的訓練の積み重ねが重要
予め事故即応チームの一員として任命された隊員は、通常は保守部門、放射線管理、運転員など原子力発電所の運営管理業務に従事しているが、年間の約半分は班単位で訓練のために召集される。1班あたり14名から成り立っており、各地域本部には5班、合計70名が配属されている。隊員は必ずしも緊急時の訓練を受けてきていないので、現時点は技術・技能面でまだ十分なレベルに到達していないが、地域消防等の指導を受けながら道路の障害物の撤去や重機の運転、発電機の輸送/荷下し/試運転など実戦的な訓練を繰り返し、隊員能力の向上に努めている。

4.機材の標準化・規格化が重要
EDFのプラントは90万kW、130万kWと標準化されているが、緊急時にFARNから持ち込まれる配管やケーブルなどの資機材との接続に支障がないよう、発電所側とFARN側の仕様を統一することが重要である。FARNの各地域本部には資機材を収納する巨大な施設を建設中であり、そこで資機材の保守作業も行うことにしている。FARNの隊員は緊急事態が発生した場合1時間以内にこの施設に集合し、12時間以内に緊急事態が発令された発電所に必要な資機材とともに到着することになっている。 また、4つのFARN地域本部の隊長は毎週一回パリの本部に集まって意見交換し、地域本部の管理運営方針の整合性を図ることに留意しているとのこと。

また、米国においても、同様に産業界団体である原子力エネルギー協会(NEI)が取りまとめた対応方針(FLEX)に基づき、全米63カ所の発電所をカバーする2カ所の緊急時対応センターが既に設置されている。
このように福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、フランス及び米国ではサイト内の対策を施したうえで、更にサイト外に資機材と支援部隊を配備した拠点を設け、実践的な支援体制を整えている。万一の緊急時対応の厚みを増すことは、地域住民の安心につながるものとして、極めて重要な取り組みであり、国情の違いはあるものの、わが国として学ぶべき点が多いだろう。海外の事例がわが国の事業者の自主的かつ継続的な取り組みに活かされていくことを期待したい。

以上

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